第11話 修行2
俺はなんとか魔術を唱えた
『――――ァ…』
2つの氷の刃は母親ゴブリンの右目と喉を貫いた。
母親ゴブリンはようやく俺から手を離し、そのまま後ろに倒れた。
『はぁはぁ…ケホッ…助かった…』
「よくやった、上出来だの。だが休んでおる暇はないぞ?」
もはやどちらが魔物なのかわからない。そもそも魔物は本当に悪なのだろうか。今はそんな事はいい、また戦闘が始まる。
さっきの戦いで理解した。殺らなきゃ、殺られる。
ゴブリン達は涙を流しながら、もの凄い形相で俺を睨んでいる。師匠がいなければ既に襲われているだろう。
「次は、お主。敵討ちを果たせるとよいのぅ。」
『――――――ッ!!』
師匠が父親ゴブリンを指名すると、即座に俺に襲いかかってきた。
ブンッ!ブンッ!
母親より体格がよくリーチが長い。だが力任せに腕をブンブン振っているだけだ。
一撃一撃に殺意がこもっていて当たればひとたまりもないだろう。が、当たらなければどうという事はない。もう終わりにしよう。
『せめて楽に――《氷柱乱舞》』
ヒュヒュヒュン。
俺の魔術のよる3つの氷が父親ゴブリンの首を目掛けて放たれる。
――ゴロン。
静かに切断された父親ゴブリンの頭部が子供たちの前に転がる。
目の前に転がる”それ“を見て子供たちは戦意喪失したようだった。
皆、死んだ母親や父の頭に寄り添い無言で涙を流している。襲ってくる様子もない。
『ごめん…』
俺はどうすることも出来ず、ただ一言謝った。
これで許されるなんて事は決してない。自分の罪を少しでも軽くするための言動だった。
「ふむ、最後は激怒した子供3匹をまとめて相手させようと思ったのだが、これでは続行は無理そうだのぅ。とりあえず魔力液を回収しておくかの。《氷柱乱舞》」
師匠が作り出した氷の数は6つ。3匹の脳と口を目掛けてそれぞれ丁寧に放たれる。
俺は師匠の魔術によって無慈悲に殺されていく子供たちを見ていられなくて目を閉じた。
「《魔力吸収》」
物音のない静かになった空間で師匠が魔術を唱える。
目を開けると、死んだゴブリン達の魔力液が師匠の杖に流れ込んでいた。
『こんな残酷な事でしか強くなれないのか…』
俺は魔力液を失って干からびた死体からまた目を背けた。
「見るのだ、お主が殺めたゴブリンの夫婦を。未来を失った子供たちを。」
『俺は…ちがう!だってこれは…』
俺が殺したのはわかっていた。俺は罪の意識から逃げたくて、他の何かのせいにして自分に俺のせいじゃないと言い聞かせた。
「お主が、やったのだ」
『ちがう!!』
バッ――
――瞬時に景色が変わった。
ここは、姫さまの部屋だ。
『はぁ…はぁ…なんで』
「びっくりした、どうしたの?変な夢みたのかな」
時針は7時を指している、日付も今日のまま、つまり師匠が迎えにくる前の時刻だ。
どうやら本当に夢だったらしい、悪夢にもほどがある。
まだ呼吸が荒い。人間の時なら汗まみれだっただろう。
「よしよし、大丈夫だよ。
また怒られちゃうから、そろそろ行ってくるね」
ガチャ、パタン――。
姫さまがどこかに行ってしまった。
俺は深呼吸をして心を落ち着かせた。
『ふぅ。もう少しゆっくりしよう。』
「ゆっくりしておる暇はないぞ。」
『うわっ!!』
急に師匠が現れた。
魔術で部屋の中に瞬間移動移動したのだろう。
さっきの見た夢のせいで師匠を見ると落ち着かせた心臓が再び加速する。
「…何故怯えておる。」
『い、いえ!ちょっと色々あって…』
流石に夢の中で師匠にゴブリン一家惨殺させられたとは言えない。
「まぁよい、では魔界へゆくぞ。準備はよいな?」
『待ってください、魔界には行きたくないです。』
予知夢というか正夢というか、あの夢が現実になる気がして魔界に行く気にはならなかった。
もうあんな思いはしたくない。
「…やはり何かあったらしいの。話してみよ」
馬鹿にされるかも知れないけど、話すしかない。
『実は…魔界に行ってゴブリンを殺す夢を見ました。』
「ゴブリンをのぅ、何故だ?」
『…師匠に言われて、戦わざるを得ない状況になって…』
「ふむ。500年前の私ならともかく、今はそんな事はせぬ。安心せい」
俺は師匠の言葉を聞いて心の底から安堵した。
いくら師匠でもあの夢のような事はしないようだ。
「今回魔界にゆく理由は、魔王様に会うためだ。」
『魔王!?』