第9話 自由
姫さまは師匠にお願いがあるらしい。
「ふむ、フランの頼みなら出来うる限り聞いてやろう。」
「…この子が自由に城内を歩けるように王様、私の父に飼うことを許可して貰うのを手伝って欲しいの。」
「うむ、よいだろう。私からも言っておこう。」
決断が早すぎる。師匠は姫さまに弱みでも握られているのだろうか。
「やった!上手くいけばレインくんも自由に行動できるね。」
上手くいくといいが、俺は王様がどのような人かを知らない。
もし却下されたら俺は今後どうなるのだろう。期待と不安が入り混じっていた。
「では、私は王に話をしたのち森へ戻るとするかの。
レインよ、明日の朝迎えにゆく。準備をしておくようにの。」
『準備とは何をしておけばいいですか?』
「肉体と精神の状態を整えておけばそれでよい。」
簡単なようで難しい事を言う。
ガチャ。
「ではまたの。」
「色々ありがとうございました。おばさま」
『明日からお願いします!』
「うむ。」
パタン。
「行っちゃったね。おばさまなら上手く説得してくれるはずよ。」
結局姫さまと師匠はどういう関係だったのだろうか。
師匠自体もどういう人なのか良くわからない。身近な人達でさえ、まだまだ謎だらけだ。
とりあえずは明日からの修行のために今日はもう大人しくしていよう。
部屋の時計を見ると時針は5を指している17時らしい。そういえば今日は結局朝から何も食べていない、かなりお腹がすいた。
『姫さま、お腹すきました』
「どうしたの?おばさまがいなくなって寂しい?」
やっぱり言葉が通じないのはかなり不便だ。師匠がいなくてもなんとか伝えられる手段を獲得しないと。
そんなこんなで姫さまと全く通じていない会話をしていた。
20分ほど経っただろうか。
ゴンゴン。
扉を強めに叩く音がした。
「フランチィスカ入るぞ。」
姫さまの名を呼び捨てする男の声がした。
ガチャ。
扉が開くと若干髭がもじゃもじゃの威圧感あるおじさんが現れた。只者ではない気配だ。
『魔物か!?』
「――そやつか。賢者様の仰っていた魔物とやらは。」
「お父様…」
髭もじゃに向かって姫さまがお父様と言った。つまり魔物ではなくこの人が王様なのか。
「ご検討はしてくださいましたか…?」
俺は姫さまの膝の上で何故か背筋をピンと伸ばした。面接の気分だ。
「賢者様に直々に言われたのでは断る訳にはいかん。そやつ限定で魔物が城内に入る事を許可しよう。」
やっぱり師匠はすごかった。
さすが500年前偉業を成し遂げた人は違う。知識も権力も健在らしい。
「本当…?よかった…。」
姫さまも安心しているようだ。
「ただし、しっかりと何者かに見張らせる事だ。もし民に害が及ぶ危険性があると判断すれば即刻排除する。」
「………わかりました。」
姫さまは少し残念そうな顔をした。
排除される可能性があるのが気にくわないのだとすれば、俺が害を及ぼす訳がないので安心して欲しいものだ。
ガチャ、パタン。
王様は何も言わずに出て行った。
「大丈夫だからね。何があっても私が守るから。」
姫さまのお気持ちは嬉しいが、その言葉は俺が言いたかった。俺が姫さまを守る。
「そろそろディナーだね。一緒に食べよっか!」
俺は城内を自由に歩けるのだ。これからは全部姫さまと一緒だ。
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18時がディナーの時間らしく、俺たちは食堂に来た。
『ここでご飯食べるのか、すご…。』
先に食堂の大きなテーブルを取り囲む席に座っていたのは、さっきの髭もじゃの王様と王妃様っぽい人。それとなんかイケメンな王子様だった。
あとはメイドや執事みたいな人が数人周りに立っている。さすがは王族の食事だ。
たくさん席が空いていたが、俺は姫さまの隣に座った。テーブルの上は見えない。
色んな料理が運ばれてくる。しかし皿の上に何があるのかが全く見えない。
『体が小さくて何も見えない!』
「もう少し待ってね、レインくんの分もくるから。」
姫さまが静かめな声で俺に話す。
俺の分があると言う事をはこの運ばれている料理は食べられないのだろうか。少し残念だった。
カチャ、カチャ…カチャ。
俺の目の前に小皿が3つ用意された。
1つ目には透明な液体、きっと水だろう。2つ目はなめろうのような物だ。3つ目は…不思議なカリカリとしたもの。
『これ人間のご飯じゃない!』
猫なのだから当たり前ではあるが。
「騒がしいぞ魔物。」
誰かに怒られた。多分イケメン王子様だ。
「お兄様、魔物ではありません。レインくんです。」
あのイケ王子は姫さまの兄らしい。
なんだか険悪な雰囲気だ。魔物である俺がいるからだろうか。
とりあえず腹が減ってはなんとやらだ。出されたものはきっちりと食べよう。
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ブォォォォォォォォォ
意外と絶品だったご飯を食べ終えた。
自由になったお風呂を期待していたらそれは昨日と同じで、現在またドライヤーで乾かされている。
「よし、こんな感じかな。今日は疲れちゃったね。」
本当に疲れた。色々ありすぎたのだ。
「レインくんが帰って来る前、また修練から逃げたって色んな先生から怒られたし。いつもの事だけど。」
姫さまは結構おてんばらしい。
俺も授業が嫌いだったからその気持ちはよくわかる。
「今日は寝よっか。ちょっと早いけどね。」
『うん、おやすみなさい』
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コツン。
『イテッ……』
「いつまで寝ておる。ゆくぞ。」