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第二章 新たなる地へ−2−

移転暦二十五年一月


 潜水艦事故において捕虜となった二百名に及ぶプロイデン軍人の取調べにより、かの国の現状が明らかとなった。むろん、取調べには日本側の軍人も同席していた。しかし、当事国ではないため、口を挟むことはできなかったが、情報だけは入手することができた。

 それによれば、プロイデンは現在はガンダー総統の独裁国家だという。移転の直前にゲンディス政党が政権を握り、当初は王政議会制国家であったというが、移転後は議会を廃止し、独裁政治へと移行したという。移転前の大陸内戦争においてプロイデンは敗戦国となり、国民は新たな政治を望み、強いプロイデン、というスローガンを掲げたゲンディス政党を選択したのだった。しかし、移転という国難において、ゲンディス党党首ガンダーの取った国策は富国強国という名の下に侵略を行うことであった。

 移転後七年を経た現在、西中海北岸中央部から西岸にかけてはほぼプロイデンの勢力下にある。もっとももとの国を除いては沿岸部(約千km内陸まで)だけであり、その北方では未だ戦闘が続いている。また、新たに支配下に収めた国に対しては、人種政策を含めた暴政を牽いているようであった。この地に現れたプロイデン本国は面積は日本の倍、人口は七千万程であったという。これらの情報が得られたのは捕虜の中にプロイデンの被支配国出身の兵がいたからに他ならない。

 ともあれ、この後、スウェーダンは対潜哨戒の重要性を悟り、対潜装備の充実を図ることになる。が、当初においては日本からの技術導入のため、装備の提供を受けるが、それ以降は自国開発に向かうこととなる。唯一の例外は対潜哨戒機であり、P4A対潜哨戒機の購入であった。その総数は九十機に及ぶこととなる。

 日本の艦隊はというと、第五艦隊は年が明けてすぐに出港、第一独立艦隊もその二日後にロリアムンディに向かうこととなった。その第五艦隊の航路は北進してスウェーダン沖千五百km、ほぼ西中海中央部で進路を東にとってロリアムンディに向かうというものであった。だが、その西中海中央部まで二日を残して事件は起きたのである。

 この時、第五艦隊は二つのグループに分かれていた。第一戦隊(ヘリコプター搭載護衛艦『ひゅうが』、DDG(イージス護衛艦)『すずや』、DD(汎用護衛艦)『みやびかぜ』『さわかぜ』)の輪形陣と第二戦隊(ヘリコプター搭載護衛艦『いせ』、イージス護衛艦『ふるたか』、汎用護衛艦『はまかぜ』『しおかぜ』)の輪形陣である。その船団を察知したのは第一戦隊の先頭を行く『みやびかぜ』であった。その情報はリンク21(移転後新たに開発された艦隊情報共有システムであり、リンク14の発展型)により、全艦の知るところとなった。この海域において船団を組めるのは日本を除いて二国のみ、すなわちスウェーダンかプロイデンである。その船団は二十六隻からなっていた。当然ながら第五艦隊、否、第五艦隊第二戦隊は臨戦態勢に入っていた。

 後年、この時の第一戦隊は警戒態勢であったことが判明している。それがために第五艦隊は悲劇を被ることとなった、とされている。これは指揮官の経験の差であるとも言われていた。第五艦隊司令官の飯島正次少将は実戦(ここでいうのはゴリアス戦争のことである)経験がなく、副司令官兼第二戦隊指揮官の南田源次郎准将にはあった、ということがこの対応の差であったとされていた。

 レーダー上の船団との距離が百kmに達したとき、その船団から八発のミサイルと思しきものが発射された。そのとき第五艦隊指揮官飯島少将は初めて戦闘準備を命じていた。第二戦隊指揮官南田准将はこの時点で対空戦闘を命じた。八発の敵ミサイルは両艦隊の中間で『ふるたか』の対空ミサイルで撃破された。交戦規定はクリアされてはいたが、統幕(統合幕僚本部)からの交戦許可は下りていなかった。

 ここで第二戦隊は第一戦隊と離れ、敵艦隊を右舷に見る形に進路を取る。これは元々の戦法として予定されていた行動であった。その後、敵艦隊からは三十二発のミサイルが発射されたが、それは第一戦隊および第二戦隊に向けてのものであった。さらに、敵艦隊から分離した八隻が第二戦隊に、同じように八隻が第一戦隊に向かうのがレーダーで確認された。戦隊に向かってくるミサイルは『ふるたか』によって全基撃破された。艦隊防空の役割を見事に果たしているイージス護衛艦であった。そのときになって統幕からの攻撃許可下りる。

 その命令を聞いた南田はすぐに二隻の汎用護衛艦にこちらに向かってくる八隻に対艦攻撃を命じる。その命令によって『はまかぜ』『しおかぜ』からは各四発、合計八発の二十式対艦ミサイルが発射された。敵艦隊からは対空ミサイルと思しきミサイルは上がらず、連装機銃と思われる機関砲弾がミサイルに向かって浴びせられる。

 そのとき、再び敵艦隊から三十二発のミサイルが発射されたが、最初のミサイルとは異なる種類のミサイルであった。この時双方の距離は五十kmにならんとしていた。南田は最初、対空ミサイルだと思ったが、そのミサイルは第二戦隊に向かってくるのを聞いて対艦ミサイルだと判断した。しかし、その頃には『ふるたか』が既に対空ミサイルを発射していた。『ふるたか』のイージスシステムは百二十八目標同時追尾が可能であり、三十二目標同時攻撃が可能であった。敵ミサイル撃破と同時に敵艦八隻に二十式対艦ミサイルが命中する。八隻の敵艦に轟沈二隻、それ以外は大破させることに成功する。新たに接近する敵ミサイルに対空ミサイルが命中したが、二発の打ち漏らしが出た。最後の個艦防衛用システムである二十mバルカンファランクスが二発を撃破することに成功した。

 だが、対等な戦闘もここまでであった。この時までの第五艦隊の被害は第一戦隊旗艦である『ひゅうが』の小破であった。これは敵艦の発射した大型対艦ミサイルのバルカンファランクスによる撃破の際の破片によるものであったという。

 敵艦隊との距離が二十五kmになったとき、敵艦隊は主砲を発射する。大和型や金剛型、伊勢型には劣るとはいえ、三十cm砲である。命中すれば現代護衛艦などひとたまりもない。その証拠に砲弾の着水のたび、艦は大きく揺れることになる。両戦隊ともおとなしく砲撃されていたわけではない。敵艦隊本隊を六隻までに減らしていたのである。残るは二隻の戦艦と四隻の重巡洋艦のみであった。


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