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第六章 中央亜細亜-4-

移転暦二六年三月


 日本が懸念していた、プロイデンとユロリア帝国国境での予想された武力衝突は起こらなかった。否、ユロリア帝国側には一部少数の軍(その多くは歩兵であって戦車などの部隊は存在しなかった)のみ確認されてはいたが、日本側(第50師団および第51師団)はあらゆる手段を用いての情報収集を試みていた。その過程においてユロリア帝国の軍事レベルが明らかにされていった。


 一言で言えば、技術レベルは日本の1950年代のレベルであった。しかし、一部では突出した技術を有していると思われた。それは通信であった。当初、日本が接触した頃のロザリアおよびロリアル両共和国は1940年代後半の技術レベルであった。ラジオは普及していたが、トランジスタではなく、真空管を用いたものであったとされる。普及率は高く、各家庭に一台はあるとされていた。


 彼らによれば、北方のロリア帝国およびユロリア帝国などもそう変わらない技術レベルであるといわれていた。日本と接触していないかの国では技術レベルの上昇はそう早いものではないと思われていた。しかし、電波監視により、それまでなかった双方向通信が確認されるに及んで、かの国でも技術レベルの上昇が確認されていた。


 結論から言えば、ロザリアおよびユラリア両共和国に潜入していたスパイによるものであろうと思われている。中には違法に輸出していた例もあったらしい。らしい、というのは日本では調査されていないからである。もっとも、通信機器などはこの世界でも技術的には可能ではあろうが、大量生産は望めないことは判っていたからである。


 同様のことはユロリア帝国にも言えた。こちらはプロイデンが出現してから国境紛争が続いていたことから、戦闘によって損傷、廃棄された武器から技術を得たとも考えられるし、当然ながらスパイも潜入していたことが考えられた。


 この国境警備は六月には新編のプロイデン陸軍北方方面軍(一個機甲師団、三個機械化師団、二個飛行隊より編成)に引き継がれることが決定していた。指揮官は長らくロンデル大将の下で参謀長を務めていたエルンスト・グデリア中将が勤めることとなり、現在、ベルランにおいて訓練中である。エルンスト・グデリア中将は冷静沈着の将軍として知られ、プロイデン国民にも人気があったが、ロンデル大将同様、軍中央からは冷遇されていた。終戦によってガンダー色が一掃されたことにより、また、ロンデル将軍が軍の最高責任者として着任したことからの人事であった。


 戦争による技術レベルの上昇は当然ながらエンリア帝国でも見られる。そもそもエンリア帝国は出現した当時はそう高い技術レベルではなかったが、プロイデンとの戦争により、その技術レベルは急速に向上している。海軍艦艇もそうであるが、特に著しいのは電気技術であろう。むろん、これらの技術はプロイデンから流入したものであると思われた。


 そういったことが原因でインペルの被害が大きいとも言えた。むろん、それだけではなく、対戦相手の技術レベルを見誤っていたことも原因であると思われた。実際、実行された作戦でもそれは見られたといえる。それがもっとも現れているのが、誘導兵器の技術レベルの見誤りであろうと思われた。


 日本がこれまでの戦争で圧倒的な優位を保ちえたのはこの点が大きいといえる。それこそ相手のことを研究し、その対策を考えてのものだといえたからである。しかし、インペルでも同様のことはなされていたはずである。しかし、それでも被害があったのはそれまでとは異なる兵器が使用されたことにあるといえた。


 時期的に見て、ガンダー政権下のプロイデンの終末期であったことからある事情が見えてくる、と秋津島統合防衛軍主席参謀の大井保大佐は言っている。すなわち、敗戦を自覚したガンダー政権が新兵器および新技術の提供と引き換えに何かを得たのではないか、というのである。たとえば、避難先あるいは新しい領土といったことである。


 その代表ともいえるのが、対艦および対空ミサイル、そして潜水艦であると思われた。特に潜水艦の攻撃兵器である魚雷にそれはみられたといえる。これまでエンリア帝国が使用していた魚雷とは異なるものであり、命中精度は格段に向上していたとされる。インペルでは未だ対魚雷用魚雷は配備されていなかった。対空ミサイルにおいては日本の技術供与において一〇式対空ミサイルが配備されてはいたが、艦載されている電子機器の性能が日本のものに比べて劣るため、活用されていない面もあったとされる。


 それでも、基礎技術力や工業力の差が現れ、エンリア帝国を追い詰めていた。空軍力では圧倒しており、海軍力でも有利に進めていたが、未だ陸戦にはいたっていない。インペル側としてはインペル海側の黒海と繋がる海峡の確保を目指しており、そのためには海峡の両端を抑える必要があったのであるが、そこまではいっていなかった。シリーヤ民国側の半島が確保されているとはいえたが、対岸への侵攻はなされていなかったのである。


 インペル側は対岸に対しての戦艦の艦砲射撃を試みたのであるが、主砲の有効射程まで接近することができないでいたのである。否、一度試みてはいたが、対岸には列車砲と思われる砲が配備されており、その口径はインペルの戦艦の主砲と同じものであったが、射程距離は列車砲が長く一〇万mと思われ、命中精度も格段の差があった。台地に固定された砲と海の上にある砲とでは命中精度が異なってくるのは当然といえた。対地ミサイルによる攻撃も行われたのであるが、猛烈な弾幕が張り巡らされ、ミサイルは列車砲まで到達し得なかったとされる。


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