第五章 戦争が終われど−3−
移転暦二五年十月
その日、ノイエハノバーとランズベリク、ノイエハイデルベリクは「鷲の爪」と称される大型ミサイル六基により、壊滅的な被害を受けていた。後の調査の結果、三都市合わせて約百万人の犠牲者がでたと報告されている。この攻撃の模様は早期警戒管制機<フクロウ>二機によって映像として残されていた。
このとき使用された「鷲の爪」という大型ミサイルは一種の気化爆弾であると思われた。犠牲者の中には窒息死と思われる遺体も多数あり、<フクロウ>によれば、大型ミサイルは上空一〇〇〇mで二つに分離、一つはほぼ垂直に落下し、高度二〇〇m付近で弾体が消滅、もう一方は途中でパラシュートを開き、約五秒遅れて高度一五〇mで爆発、巨大なきのこに似た獏炎を発生させたという。
後の調査において、放射能は検出されていなかったが、ゲル状の未燃焼発火剤が多数確認されている。この報告を聞いた秋津島統合防衛軍主席参謀大井保大佐はゲル状の発火剤を広範囲にばら撒き、その傘の最上部で発火、火炎は下方に向かって進み、もっとも発火剤の濃度の高いところで爆発する、と推測していた。本国統合幕僚本部でも同様の推測がなされた。
このことがより防空任務の重要性を増すこととなった。統合幕僚本部では「鷲の爪」型大型ミサイルの多量使用をもっとも恐れていた。そのため、より防空任務の強化を図るべく、幾つかの作戦が考えられているようであった。その中には、昨年八月に正式採用された二四式巡航ミサイル(二二式巡航ミサイルの空中発射タイプ)による首都ベルラン空襲も含まれていた。
ともあれ、地上戦は順調に進み、この月の後半にはハイデルベリクを除く南部沿岸から六〇〇kmの地域は反ガンダー軍の支配下となっていた。その中核となったのが、エルヴィン・フォン・ロンデル大将指揮下の三個機甲師団およびエーリッヒ・ゲルナー少将指揮下の二個師団であった。エーリッヒ・ゲルナー少将はハイデルベリクのSS部隊を壊滅させた後、ロンデル大将指揮下の部隊に破れた部隊の反ガンダー軍人を元に部隊を再編し、プロイデン西部を北上するロンデル大将の許可を取り付け、同国中央部を北上、この結果、第50師団および第51師団は同国東部を北上することとなったのである。第52師団はアーレン、ニュレンベリク、ハンブレングにそれぞれ一個連隊を配置してそれら地域の守備についていた。
進撃を続けるエルヴィン・フォン・ロンデル大将指揮下の三個機甲師団およびエーリッヒ・ゲルナー少将指揮下の二個師団は共に無傷ではありえなかった。それなりの被害を被ってはいたが、進撃を停止するほどのものでもなかった。その理由は秋津島統合防衛軍航空艦隊および日本国空軍の援護があったからである。搭載兵器、特にミサイルの性能に勝る航空部隊がガンダー軍の航空隊を圧倒していたためであった。むろん、戦闘機や攻撃だけではなく、早期警戒管制機を有するため、圧倒的な差があったとされる。
このころ、プロイデン軍には異変が生じていたとされる。SS軍以外の一般兵を主体とした部隊は首都ベルランを囲むように配備され、首都にはSS軍を中心とした部隊が配備されていたと言われる。一般兵を中心とした部隊には指揮官にはSS軍に所属する将官が付き、司令部要員はほとんどがSS軍に所属する佐官で占められていたようである。一般兵の中には明確に反ガンダー色を強めるものもいたとされるが、それは表に出されることはなく、表面上はこれまでと変わらないようであった。むろん、彼らはテレビやラジオによる戦況は知っていたといわれるが、表立って行動を起こすものはいなかった。
ではあったが、プロイデン北部に展開する幾つかの部隊においてはガンダーに対する反乱を起こす部隊もあったといわれ、彼等には悲劇が襲い掛かった。中でも一個師団が南進を始めた部隊は大型ミサイル「鷲の爪」により、部隊の九割を失うという事件が起こっていた。彼等がガンダーに反旗を翻したのには理由があった。北部に配備された多くの部隊は劣悪な環境下であったという。物資の補給が滞り、中でも食料においては絶対量が少なく、栄養失調で倒れるものが多くいたとされる。これらは何も北部に配備されている部隊だけではなく、東部に配備されている部隊にもいえたようである。
一方、反ガンダー軍はその点では恵まれていたといえるだろう。南部には多くの農業地帯があり、かつ、加工工場も多く存在していたため、十分な食料補給が行えていたのである。これら補給物資の輸送にはプロイデン国内を縦横無尽に走っている鉄道網が利用され、前線にまでいきわたるようになっていたとされる。作戦計画の立案には秋津島統合防衛軍の三人の参謀が関与しているため、補給についての部分はかなり明確にされていることもその理由であると思われた。
大陸横断鉄道を利用した資源の輸入に頼っているプロイデン軍は西方のリトロリア共和国、トルメロリア共和国、アルバロリア共和国、トリコロリア共和国の四国がプロイデンに対して宣戦布告、国内のプロイデン軍駆逐活動を強めており、資源の輸入が滞っていたのである。大陸横断鉄道そのものは未だプロイデン軍支配下にあったが、部分的な破壊工作により、鉄道の運行に問題が生じていたといえる。
これら西方四国には海軍陸戦隊が派遣されていたのであるが、彼らは四国軍の作戦立案にも関わっていたとされる。でなければこれほどの短期間に烏合の衆とも言える弱体化した軍を効率的、かつ、効果的にプロイデン軍に損害を与えうることができなかったはずである。彼らの活動を支えていたのは秋津島統合防衛軍の機動部隊艦載機群であったことはいうまでもないことである。
システムが変更されていて投降できませんでした。これでできるかと思われます。