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第四章 戦いに意義はあるのか−5−

移転暦二五年八月


 第161軍によって解放されたヨアヒム・シュレーヘン元国会議長は大井大佐に約束した通り、反ゲンディス党、反ガンダー活動を始めていた。テレビやラジオと言ったメディアを使い、反ゲンディス党、反ガンダーの意思あるものの集結を求めていた。これに最も早く反応したのはαポイントにおいて日本軍との休戦条約をを締結していたエルヴィン・フォン・ロンデル将軍であった。


 彼は休戦条約遵守監視のためにαポイントにいた西川仙一陸軍大佐にハンブレングへの移動を願い出ている。西川大佐はウランバートに在った上田中将に連絡し、ハンブレングへの移動を認め、自ら監視要員として同行することとなった。αポイントに在った三個師団六万人がハンブレングに入ったのは八月二日のことであった。


 このころには源田実大佐率いる第五十一航空艦隊すべてがハンブレングに入っていた。さらには山本五十六大将が独断でよこした援軍、第52師団も当地に入っていた。これにより、臨編第161軍は三個師団三万人に増強され、北部、北西部、東北に一個師団ずつ配備が可能となっていた。また、西のブレーヘン、北部のケレンはヨアヒム・シュレーヘンの元で反ゲンディス党、反ガンダー色を強めてゆくこととなる。エルヴィン・フォン・ロンデル将軍はプロイデンでもっとも戦車戦に精通していた軍人とされ、国民にも人気があったが、ガンダー政権下では軽視されていた(実際は陸軍参謀総長に疎まれていた)という人物であることが判ったのは土田巌中佐の調べであった。


 ヨアヒム・シュレーヘン元国会議長は土田中佐からそのことを聞くと、エルヴィン・フォン・ロンデル大将を総軍司令官に任命し、反ゲンディス党、反ガンダー軍の指揮を任せることとした。さらに独立遊撃艦隊および独立機動艦隊群による攻撃でゲンディス党親衛隊を失ったフレンクフラト、ニュレンベリク、シュトックガルク、アーレンの各都市に配備されていた八個連隊を二個師団に再編し、ブレーヘンに集結していた一個師団を新たにロンデル将軍の指揮下に加えていた。ブレーヘンの部隊はロンデル将軍に指揮下に加えてほしいと投降してきていた。これら西中海沿岸部の諸都市はどちらかといえば反ゲンディス党寄りであった。


 プロイデンは本質的には陸軍国であったのである。海軍総長であるカール・フォン・ハウンゼンは元は陸軍河川部隊司令官であったという。その彼は沿岸部で唯一親ゲンディス党、親ガンダー都市であるハイデルベリクにおいて指揮を取っているといわれている。ハイデルベリクはプロイデン西中海沿岸部の西の外れにある都市であり、ガンダーの生誕地とされていたからである。


 偵察衛星による情報ではハイデルベリクにはおよそ三個師団の兵力が、中部のハノバーにもやはり三個師団の兵力が集結しているのがわかった。第五六一飛行隊のRF2戦術偵察機の偵察によれば、そのうちの二個師団は戦車を多数配備した機甲師団であり、残る四個師団は歩兵を主体とする師団で、人種的特長も異なっているのが確認されたのは八月五日のことであった。この情報を得た秋津島統合防衛軍参謀の三人の意見は一致した。歩兵主体の師団は西方の被支配地域の軍人たちであろう、ということにである。


 主席参謀である大井大佐は塚原中将および土橋中将にある作戦を提示する。プロイデン西方の偵察およびプロイデン軍施設への航空攻撃である。これは被支配地国の蜂起による後方攪乱を狙ったものであった。が、西方のプロイデン軍の軍事施設攻撃には基地航空隊では航続距離が足りないため、すべてが艦載機による作戦となる。さらに、ハイデルベリクの海上封鎖の強化、である。そのためにある部隊の投入をも提案している。


 ある部隊とは海軍陸戦隊(元陸軍一木支隊)である。彼らによる情報収集および蜂起部隊の確立とその誘導をもくろんでいたのである。とはいえ、既に一部部隊を投入していた。知っていたのは大井大佐と上田中将だけであった。そう、フレンス皇国戦でも活躍した海軍陸戦隊特殊部隊である。彼らは秋津島統合防衛軍内でも名前だけは知られていたが、その任務についてはあまり知られてはいない。ダークブルーのベレー帽からブルーベレーとも呼ばれていた。彼らは六月には第六艦隊第一戦隊の潜水艦により潜入上陸していたのであった。


 八月七日には独立遊撃艦隊および第一航空戦隊からなる艦隊が出撃していった。彼らの役割はプロイデン西方のトルメロリア、アルバロリア、トリコロリア、リトロリアという国にあるプロイデン軍施設の攻撃殲滅にあった。これらの国はユロリアからの独立国家として存在していたが、プロイデンの出現により、支配下に置かれた国々である。しかし、近年において下火となりつつあるが、いずれの国でも抵抗組織は存在し、それがために、プロイデンは親衛隊を数個部隊配備していたのである。ではあったが、その多くは内陸部の重要拠点である鉄道警備に割かれていたようである。


 西中海北岸と約八〇〇km離れて平行に走る鉄道があった。始点は黒海沿岸部の油田地帯であり、終点はプロイデン首都ベルランに至る複線の鉄道であった。多量輸送は海路を利用するのが一番ではあるが、陸軍国家たるプロイデンではやはり鉄道が重要な地位を占めていると思わせるものであった。そのためであろうか、艦載機による偵察においても沿岸部にはそれほど軍は割かれていないことがわかった。


 ともあれ、八月一〇日には独立遊撃艦隊の巡航ミサイル攻撃および第一航空艦隊艦載機による攻撃が開始された。これらの攻撃は偵察が十分であったことからピンポイントで軍施設のみを壊滅させることとなった。さらに、これらの地域で普及していたラジオ放送や艦載機部隊のビラ撒きによる反プロイデン戦を訴えた。


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