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第一章 新たな出会い−1−

移転暦二十四年六月


 日本海軍第五艦隊はロリアムンディを母港とする艦隊で、編成は次のようになっていた。DDH二隻、DDG二隻、DD四隻、つまり、DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)『ひゅうが』『いせ』、DDG(イージス護衛艦)『すずや』『ふるたか』、DD(汎用護衛艦)『みやびかぜ』『さわかぜ』『はまかぜ』『しおかぜ』である。その他にロリアムンディ地方隊の四隻の護衛艦や掃海艇部隊、補給部隊、ミサイル艇など合わせて三十隻が加わる。

 第一艦隊(横須賀)にはCVN−01『きい』、第二艦隊(佐世保)にはCVN−02『はりま』、第三艦隊(呉)にはCV−03『しゅんよう』という航空母艦が配備されているが、、第四艦隊(舞鶴)、そしてここ第五艦隊ロリアムンディにはDDHが配備されているだけである。現在、「しゅんよう」型空母の二番艦『うんよう』が建造中であり、配備予定は二十六年末の予定であった。その中で第四艦隊と第五艦隊にはDDHが二隻配備されているのには理由があった。それは共に対潜水艦作戦が主任務とされていたからである。

 第五艦隊の担当海域であるシムリアル海峡および西中海北東部は、最近になって国交が結ばれたアロリアおよびユラリアという国があり、北西部にはプロイデンという仮想敵国一位の国がある。かの国は一時西進を続けていたが、最近になって東進の兆しが見えるからであり、特に注意を要すると考えられていた。過去に商船を三隻撃沈されていたこと、さらにその後の呼びかけには一切応じず、これまでの調査において独裁侵略国家であることがその理由だと言えた。

 第四艦隊は日本海を担当海域としていたが、最近になってロリアルやロザリアからもたらされた情報、ロリア帝国が東進しているやも知れぬ、とのことからロリア東沿岸部の哨戒任務が強化されていたのである。かの国には東部沿岸には海軍基地がなかったが、樺太とは至近(最も近い部分で六km)のため、警戒が必要であった。


 日本海軍第五艦隊第一戦隊は、DDH(ヘリコプター搭載護衛艦)『ひゅうが』、DDG(イージス護衛艦)『すずや』、DD(汎用護衛艦)『みやびかぜ』、『さわかぜ』で編成されていた。ユラリア共和国ウランバート港を出航し、現在位置はウランバート沖南千八百kmにあって十五ノットで南に向かっていた。このまま進めばシムル西方二百kmに到着するが、もちろんそこまでは行かない。西中海南岸五百km沖で東に転進し、シムル沖を東進して母港であるロリアムンディに戻るのである。

 本来は二隻ずつ定期哨戒に当たるのであるが、この時は年二回の戦隊哨戒であるため、第五艦隊の半数である四隻で哨戒に当たっていたのである。もちろん、通常のコースはここまで南下せず、ウランバード沖三百kmで転進し、東進して母港に向かうのであるが、戦隊哨戒では西中海を北から南に横断することになっていた。

 現在、ユラリア共和国との交易路は警戒レベル三まで上がっているため、独航(商船単独での航海)は禁止されており、第五艦隊か海上保安庁の巡視船の護衛が付くようになっている。というのは、四月に連続して貨物船四隻が潜水艦と思しき艦艇と接触していたからである。幸いにして攻撃を受けることはなかったというが、船会社の訴えにより、第五艦隊が動くことになったのである。

 さて、『ひゅうが』といえば就役して半世紀を過ぎているが、一度大改装され、性能が格段に向上していた。最上甲板が補強され、固定翼航空機の運用が可能になっていたことである。むろん、艦固有の飛行隊は存在しないが、非常時には五機程度なら運用可能であった。艦固定の飛行隊といえば、ヘリコプターが十機搭載可能であり、警戒レベルが三に上がったことで満載装備といえる十機が配備されており、現在、三機が対潜哨戒に上がっていた。

 その報告がもたらされたのは一機のヘリ、通称姫ヘリ、と呼ばれる女性クルーだけによって運用されるSH−60Jヘリコプターであった。飛び上がってすぐに報告が入る。

「母艦より百二十km西南海上にて救命ボートらしき舟艇発見せり。乗員五名を確認、うち、二名は動作確認できず。至急救助ヘリを要請します。なお、船尾に国旗らしきもの確認。緑地にライトオレンジ色の横十字なり」

 ちなみに一番近いシムルの国旗は青地に右上に赤い星であり、かの国のものではない。仮想敵国であるプロイデンの旗は灰色地に中央に赤色の縁取りの付いた緑色の星であり、エンリア帝国は赤灰色青の三色旗である。また、周辺の友好国ではこのような旗の国はなかった。

 旗艦『ひゅうが』ではこの報によっていくつかの命令が下されていた。救助ヘリの発進、対潜哨戒の強化、対空警戒の強化、本国への連絡および照会などである。このとき、戦隊指揮官を務める南田源次郎准将は二日前に自分に上がってきた報告を思い出していた。確認はされていないが『さわかぜ』のソナーが船の沈没音と思われる海中音を捉えていたのである。そのとき、『さわかぜ』は配備されたばかりの新型曳航ソナーのテストを行っており、それが捉えたものであった。

 当然ながら、ロリアムンディ司令部および本国に照会はしていたが、相当する船の沈没は確認されていなかったのである。もっとも、友好国の船のみの確認であり、ほぼ内戦状態ともいえるシムル西部ではたとえ沈没事故があっても報告されない場合があったのだった。

 今回の戦隊哨戒の指揮は本来、第五艦隊司令官の飯島正次少将が予定されていたが、急性虫垂炎のため急遽、第五艦隊副司令官の南田が指揮を取ることとなり、乗艦である『いせ』から『ひゅうが』に移っての指揮であった。自分のよく知る参謀や艦長ではないため、多少戸惑いを感じていた南田ではあったが、これまで任務はそつなくこなしてきていた。

 艦橋では参謀たちがあわただしくなっていた。これまで見たこともない国旗である。新しい国と考えるのが当然であったかもしれない。既にロリアムンディ司令部には連絡済であり、本国にも連絡は行っているはずである。今頃は偵察衛星のデータを洗い出しているだろうと思われた。もっとも二日前の時点ではデータがなかったのであり、今回もデータなし、と言われることは判っていた。


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