表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

第三章 再び戦いへ−1−

移転暦二五年五月


 日本国第三艦隊はユラリア共和国のウランバートに進出していた。四月終わりの偵察衛星による情報でプロイデンの有力な陸上兵力(三個師団規模)が東進を開始したのが確認されたからである。海軍兵力は未だ動いてはいない、との情報であったが、これまで幾度となく、プロイデンの潜水艦は確認されていた。これら潜水艦は偵察任務についているものと考えられていたのである。


 ウランバートの整備拡張はかなり進んでおり、空港設備とその付帯設備は完成し、部隊の到着を待つばかりになっていた。また、陸軍司令部基地もほぼ完成、一部機器の搬入を待つだけとなっていた。しかし、港湾設備は現在急ピッチで行われていたが、未だ、二十隻程度がカバーできるものでしかなかった。いずれも衛星通信機能を持ち、陸海空軍の部隊指揮能力は有していた。レーダー施設も四箇所完成し、西方および南方に関しては三百五十kmの対空索敵は可能であった。後はそれら施設の人材が必要であったといえる。


 レーダー施設といえば聞こえはいいが、内情は陸軍の所有する移動レーダー車両とそれを稼動させるための電線を引き入れ、さらに車両を守るようにコンクリート製の壁を作っただけに過ぎない。それでも、ユラリア共和国の所有していたレーダー(メートル波レーダー)に比べれば格段の性能を持っていたといえる。このメートル波レーダーは戦車などの地上移動車両の探知に用いられていたものであった。


 空港には空軍のロリアムンディ駐屯部隊から抽出されたF−2支援戦闘機六機のほか、ヘリコプターを除く『しゅんよう』の艦載機がすべて上がり、管制運用試験もかねて任務についていた。急造とはいえ、長さ四〇〇〇m、幅五○mの堂々たるものであり、大型機の運用も可能なものであった。当初、空軍の緊急展開部隊一個飛行隊一二機が移動してくる予定であったが、二日後に秋津島統合防衛軍基地航空隊である五一航空艦隊の大半が移動してくる予定に変更され、既に地上要員の半数がC−3輸送機でロリアムンディから進出していた。その中には五一航空艦隊司令官である南雲忠一中将の姿もあった。


 この地に現れて以来一〇年が過ぎているが、本国軍では未だに彼ら昭和の軍人たちのことが話題になっており、誰もが仕事を忘れて彼らを見ようとするのである。これは彼らが現れてから早期に秋津島という一種隔離された状態になっており、常時見ることがないからであろう。また、同じ日本軍でありながら、一部を除いて交流がないことも原因のひとつとして挙げられるだろう。


 ともあれ、港湾の整備が終わるまでは第三艦隊がここに駐留することとなる。その主な任務はユラリア共和国周辺海域の哨戒およびユラリア〜ロリアムンディ間の航路護衛任務とされていたが、航路護衛任務はロリアムンディに進出している秋津島統合防衛軍第二独立艦隊隷下の駆逐隊に引き継がれ、現在では周辺海域の哨戒およびウランバート防衛に変更されていた。理由は至極簡単で、艦艇数が少ないからであった。


 秋津島統合防衛軍第二独立艦隊の編成は次の通りであった。

第三戦隊戦艦『榛名』『霧島』

第五戦隊重巡『妙高』『羽黒』

第二航空戦隊原子力空母『長門』『陸奥』

第三水雷戦隊軽巡『川内』『舞風』『浦風』『初風』『浜風』『谷風』『萩風』

第二四駆逐隊軽巡『敷波』『綾波』『朝霧』『夕霧』『白雲』『天霧』

であった。こうしてみれば、艦艇数の差は歴然としているが、本国海軍はあくまでも国土防衛という立場からの編成であり、昭和の聯合艦隊とは思想が違うためである。このうち、第三水雷戦隊と第二十四駆逐隊が二隻ずつの分隊規模で航路護衛についていた。


 プロイデンの動きはどうかといえば、その進撃速度は予想されていたよりも遅かった。この時点ではユラリア国境より五〇〇kmほど離れた地点まで進出していたのであるが、そこで停止していたのである。理由は明白で、滑走路の造成と周辺の基地化を行っているようであった。西中海海岸線よりも九五kmほど内陸部の小高い丘の上であり、周辺部には対戦車用陣地といえるものも造成されていた。


 議会の一部議員や軍人たち、秋津島統合防衛軍の中には先制攻撃を主張するものもいたが、国軍最高司令官たる小泉首相はそれをよし、とはしなかったのである。あくまでも防衛のための戦争、という考え方であったようである。ましてや、自国領の近くではなく、友好国の近くである、ということがなおさら先制攻撃を考えていない理由であっただろう。これが自国領や自国の近くであるならば、ためらいなく先制攻撃を命じるだろう、とは首相補佐官が小泉首相の言葉として公表していた。


 一方、新しく友好国となったスウェーダンはというと、現在、駆逐艦クラスの艦艇に日本が提供した対潜装備の搭載を急ピッチで行っているところで、すでに就役した駆逐艦六隻が東部、中部、西部でそれぞれ任務についており、今後も四ヶ月に六隻の割合で就役する予定で、軽巡洋艦以下の艦艇に対潜装備の搭載完了までに二年を要するとみられていた。当面は日本が提供するもので改装を行うが、それ以降は自国開発になる国産のものを装備するようであった。


 このスウェーダンの国策は移転前から続いているもので、武装中立を掲げている手前、侵略国から自国を守りきれるだけの軍事力を装備しようとするところからきていると今では理解されていた。もっとも、それまで経験のない兵装についてのレベルが低くなることを日本は嫌っていたのであるが、ライセンス生産まで押し切ることができたことで日本はよしとしていた。


 五月も終わろうかという三○日、ユラリア共和国および日本に対してプロイデンからの最後通牒ともいうべき書面が届くこととなった。

1.ユラリアはプロイデン国に対する抵抗をやめること

2.ユラリアは武装を解除し、プロイデン国の管理下に入ること

3.ユラリアはプロイデン国の派遣する執政官に国家管理を委ねること

4.日本はユラリア国から撤退すること

5.日本は武装を解除し、プロイデン国の管理下に入ること

6.日本はプロイデン国に対する賠償金として一千億マール支払うこと

7.日本はプロイデン国の派遣する執政官に国家管理を委ねること

8.回答期限は三日後の一二時とする

9.両国がこれを受け入れない場合、プロイデン国は強硬手段をとる

以上がその内容であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ