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届かぬメール  作者: 縷々
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予期せぬ出会い



自分自身がこんなにも

生きたいと願うなんて

想像さえしていなかったあの頃


もし時間を戻せるのなら

タイムスリップできたなら


そんな思いも儚く散る


春のはじめだった





時は遡ること一年前


(サキ)は地元の高校を卒業し

6年勤めた工場を辞めたばかりだった




一人暮らしの咲は

僅かばかりの貯金を浪費する

自堕落な生活をしていた

咎める者は誰もいなかった



外出は 月に一度、半年前から

通っているクリニックへ行くだけだ



一日中惰眠を貪っては

テレビを見て

気が向いたら家事をして



何もかもから

解放された気がした



けれどそれは長くは続かなかった



自分には何もない



元からわかっていたことだけれど

本当に何もなくなってしまった



あれだけ行きたくなかった職場さえ

自分の居場所だった



社会に必要とされない屑

ゴミでさえ再利用される現代

使い終わったトイレットペーパーは

糞とともに水に溶けて消えていく



その日も連日のように見る

川に溺れながら流されていく悪夢から

目が覚めた咲はしばらくぼーっとした後

深く深呼吸をして朝食の準備をする



時計は9時55分を指している

朝食には少し遅い時間だが

毎日好きなように

不規則な生活をしていた咲には

そんなことはお構いなしだ



いつものように

ごはんと卵と納豆としょうゆを

ぐるぐるかき混ぜて

特製卵かけ納豆ごはん


美味しい


誰に向かっているでもなく

手を合わせてごちそうさまをする



テレビをつけ朝のニュースをかけるも

内容など頭に入っていない



今日も誰かが亡くなって

不倫だなんだと騒ぎたて

コメンテーターの考察なんて馬鹿みたい



私には関係ない

だってみんな心の中ではそうでしょう?


私だけじゃない

そう思っていた




今日もラジオをザッピング

何かいいことないかしら



最近よく聴く好みの声の

ラジオ番組にチャンネルを変え

恋に恋する自堕落な乙女は

今日も妄想の世界で彼と会話をする




「朝ごはんはたべましたか。」


「どんな音楽を聴きますか?」


「この健康食品流行っていますよね 」


「私は最近これを聴いています」


「今日はクリニックでした」


「彼さんの先生はどんな先生ですか?」


「どんな薬を飲んでいますか。」


「季節の変わり目ですね」


「そちらの天気はどうですか。」




私にとっての現実逃避


「そんなこと意味ないよ」



どこからか聞こえた咎める声も

聞こえないふり



こんなにも彼のことを考えているのに

相手は私のことなど

これっぽっちも考えているわけもなくて

落ち込んで お酒を飲んで寝て




また誰かの声が聞こえた


「あなたの頭の中はいつもお花畑だね」



そんなのわかっているよ

誰かの声にまた耳を塞ぐ


聞きたくない


妄想だけがどんどん加速する



今日は少しお話できた

うれしい


休みの間会えなくて寂しかったです


今日彼が話していたあの子は

いったい誰なのだろう


ゲームが好きなんですね


私の彼に近づかないで


この間言っていた音楽聴いてみました


私の彼が

誰かのものになってしまったら

どうしよう


今日の服も素敵です



張りぼてのときめきに

必死でしがみつき 泣き笑いして

本当の愛を知らないまま

私は死んでいくんだろうか



「いいかげんにしなよ」



誰かの声が口うるさいのは いつものこと




だんだんとあたたかい日が

続くようになったある日


薬が無くなった

クリニックに行かなくては


マスクにメガネをして

朝の電車に乗った


息で曇るメガネを拭きながらも

人の視線が気になって仕方ない



別に誰が私のことを見ているわけじゃない

芸能人にでもなったつもりなの

自意識過剰だということも

わかっているけど下を向いてしまう

人の顔が見れない



ほらね 私ってこんなにも

情けないんだ

笑っちゃうよね


道の端を歩いて

生きててごめんなさいって

思いながら生きてきた


人との絆なんて

信じていなかった



車内で誰かの笑い声



一瞬フリーズして


あぁ また私 馬鹿にされたのかな

消えてなくなりたい

もうこんな人生



「だったらしねば 」



また誰かの声


うるさい 今話しかけないで

集中してるから


息をころして

自分の存在を空気化しようとする


呼吸が上手くできなくなって

少し苦しい



早く駅に着いて

早く 早く



















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