第一話 闘技場 1
はい、第一話のその1です。
1話が八千字超えたので小分けにしようとおもいます。
【マジック・クリエイターズ・オンライン】
略してMCOと呼ばれているVRMMORPGだ。
VRゲームが発売されてから十年目で登場したこのゲームは最初の頃は人が少なかったが、半年ほどたってからあることがきっかけとなり爆発的な人気を生み出した。
三年目に突入する今。現在のプレイヤーの数は最初の頃の十倍近くにまで膨れ上がっていた。
人気の理由は背景の美しさ、戦闘の楽しさ、広大な世界と色々あるが一番の理由は自由度の高さだろう。
戦闘、生産、移動、すべてにおいてやれることが多く、他のゲームにはない自由度を誇っていた。
そんな人気のゲームを一人のプレイヤーが引退しようとしていた。
「なぁ、本当にやめるのか?」
そう聞いてきたのは屋台を営む一人のおっちゃんだった。
名前もおっちゃんで見た目まで祭りなどの屋台で見かけるような感じのおっちゃんだ。
完璧におっちゃんプレイを楽しんでおり、始めたときからそういうスタイルで行くことを決めていた生粋のおっちゃんだった。
「ええ、もう潮時かなって思っていましたので」
そう答えるのは、今日引退することを決めたプレイヤー・アルベルトだった。
彼は、このMCO内でも有名なプレイヤーだ。ゲーム内で最も有名な大型ギルドのギルドマスターも務めており、MCOが爆発的人気になった火付け役でもある人物だ。
アルベルトは訳あってしばらくMCO内でソロプレイをしていたが、今日、やめる決心を付けてフレンドであり、始めた当初から仲が良かったプレイヤーであるおっちゃんのもとへとあいさつに来ていた。
「……そっか、もう決めたんだな」
「……はい」
そう言いうと二人の雰囲気は少し暗いものになる。
それは彼らにとってあまり思い出したくはないことだった。
「……何しけたツラァしてんだ。決心したんだろ?シャキッとしろや!」
「おっちゃんこそ人のこと言えませんよ」
そう言ってお互いにフッと笑うと暗い雰囲気は一気に吹き飛び霧散する。
二人の顔は先ほどまでの暗い雰囲気を感じさせぬほどに明るくなっていた。
お互いに吹っ切れたということだろう。
「と、もう行かないと」
時間を確認して別れを告げようとするアルベルト。
「なんだい、もう行っちまうのか」
「ええ、引継ぎもありますし、みんなログインしている時間もバラバラですから。俺が合わせないと」
俺の都合ですしと、笑って言うと「なら仕方ねぇか」とおっちゃんも笑顔で見送ってくれた。
去り際に「サービスだぜ!」といって屋台で作っている商品をそれぞれ一つずつ無料でアルベルトに渡すおっちゃん。
別れを惜しみつつも最後に礼を言ってその場を急ぎ足で去っていくアルベルト。その足で向かうのは自分のギルドである【悠久の風】本部だ。
MCOを引退するのであればギルド長の権限等を別の人間に移譲する必要があるのと、ギルドメンバーに挨拶に行くためだ。
ギルド本部に向かう足は、仲間に対する申し訳なさと思い出深いこのゲームへの愛着から自然と重くなるが、それ以上に前に進まなければという意思で重い足を前へと進めるアルベルト。
何を言われるかなぁと考えながら、すべての大きな街同士を繋げている巨大ポータルからギルド本部がある街を選択し飛ぶ。
特殊エフェクトがアルベルトを包み込み目的の街へと転移させる……はずだった。
「……ここは…どこだ?」
見たこともない場所に出てしまい困惑の声をあげるアルベルト。
そこは、足場を砂で固めて作られた場所だった。周りには石造りだろうか、アルベルトの身長よりも高い壁が作られておりぐるっと一周して砂の足場を囲んでいた。その向こうには同じく石で作られたであろう階段のようなものが幾重にも重ねられており、見た感じは唯の階段ではなく客席のようであった。さらに外側には別の壁が存在するのか、客席を上から覆い隠すように作られていた。
アルベルトはこの場所がどこなのか心当たりがあった。
「……コロッセオ?」
そう、ここは古代ローマ時代に剣闘士同士が闘い殺し合いをするための闘技場で、それを客席から見て楽しむための娯楽施設だ。
しかし、アルベルトはここがそういう場所なのではということだけしかわからなかった。
MCO内にもコロッセオのような場所があるが、この場所よりももっと豪華で広い作りになっているし、何よりもリアルで見たものとも作りが違うような気がしていたアルベルトは困惑してしまう。
(なにかのバグか?新しいマップか……それともまだ見つかっていないダンジョンにでも転移したのか)
「転移バグは初めて経験するな」
今日引退するからゲーム自体がサプライズ……な訳ないかと自嘲しながらGMにバグ報告しておくかとメニューを開く、が。
「コールが使えない…」
こっちも不具合なんて大盤振舞だなと思いつつ、今度はスキルの《転移》を試みてみるが『使用不可』と表示され出ることが出来なくなっていた。
「おいおい、不具合のオンパレードかよ。こんなことMCO始まって以来じゃないか?」
しかたないと、今度はログアウトしようとメニューをもう一度開いてみる。
それを見たアルベルトは一度紫色の空を見上げてから、もう一度その場所を凝視する。
「……マジかよ」
そこには本来あるはずのログアウトボタンはなく不自然な空白だけがあった。
(どういうことだ?こんなの不具合どころの問題じゃないぞ)
連絡不可、転移不可、ログアウト不可、完全に閉じ込められてしまっている。
しかも、アルベルトは一人暮らしのため誰かが異変に気付いて緊急停止をしてくれる可能性もない。
(あ、これやばい。詰んだかもしれん)
このままだとアルベルトはリアルで死んでしまう。
焦るアルベルトだが、現状ではアルベルトに出来ることは何もない。
(どうすれば……ん?)
どうするべきか考えているアルベルトの目の前でこの状況においてはじめての変化が現れた。
もしかしたらと藁にもすがる思いでその空間を見つめるアルベルト。
それは黒い穴だった。空間を切り裂いて開くように現れた黒い穴から、毒々しい黒い霧が下の方から流れ出てくる。それはまるでドライアイスを水に入れたときのようにあふれ地面を這うように動くが、煙というにはあまりにも生々しく動くそれはまるで軟体生物などが地を這うように動いていた。
黒い穴が現れてからしばらくして、穴の奥から金属のこすれるような重厚感のある音が響いてくる。
それは次第にこちらへと近づいてきていた。
まず現れたのは黒い金属に包まれた指だった。指だと分かったのは黒い穴の縁に引っ掛けるように飛び出したのでかろうじて分かった。縁に指を掛けると次に現れたのは黒い角の生えた兜だった。ヌルっと二本の角の先端が飛び出したかと思えば、すぐに頭全体が黒い穴から出てくる。全体的に頭を覆っているため顔は見えないが、頭の左右から天を突くように飛び出した曲がった角がそれが人でないのではと思わせる禍々しさを感じさせる。次に片足が飛び出し、体全体が黒い穴から這い出てくる。最後にマントが黒い穴から出ると、黒い穴は時間を巻き戻すように黒い霧を吸い込み切ると、何事もなかったかのようにピタリと閉じ元の空間へと戻る。そこに黒い騎士を残して。
あまりの変化にアルベルトは困惑してしまうが、この場所に来て初めての変化である。
「あの、すみませんが……」
何かせねばとまず黒騎士に話しかけてみることにする……が。
『―――――』
黒騎士が何事か呟くと、黒騎士の足元にまた黒い穴が現れる。
それは最初に現れたものよりも小さいが間違いなく同じものだろう。
その穴からも黒い生々しい霧が漏れ出ておりアルベルトに嫌悪感を抱かせていた。
黒い穴の上に黒騎士が手をかざす。すると黒い穴から剣の柄が現れゆっくりと黒騎士の手に向かって伸びながら剣が姿を見せる。
その剣もまた黒かったが、ドス黒いというよりも赤黒いそれは錆かと思わせる外見だったが、鈍く光っていることからそれが錆ではないと意思表示していた。
手元まで来た柄を握ると、具合を確かめるように剣を振り回したあとアルベルトに体を向けて構えをとる黒騎士。
完全にやる気であった。
訳も分からず状況がトントン拍子で変わっていくことに頭がついてこれないアルベルト。
(戦う気はないんだがなぁ……)
アルベルト本人は戦う気はない。しかし、向こうは戦う気満々な上に、お話ができるような雰囲気ではなかった。
もしかしたら勝てば出れるかもと考えてもいたアルベルトは、しかたないかと、武器をアイテムストレージから取り出す。
ここでふと、あることに気付く。
(あれ?これってもしかしてわざとやられれば街にリスポーンするんじゃ……)
それも一つの手ではあった。
しかし、本人のゲーマーとオタク魂、それと負けず嫌いな性格からそれを否定する。
(まぁ、負けて戻れるって保証もないし、それにこんな状況だ。燃えないわけがないんだよなぁ)
まるでラノベみたいな展開だなと思いながら構える。
燃えないわけがないし、何よりもこんな展開で勝てば最後に仲間に自慢できるからな、と軽く考えていた。
しかし、それは甘い考えであるということを、アルベルトは思い知ることになる。
お疲れ様でした。
プロローグが短いのに対してこちらは三千字と少し多くなりましたが、これくらいがなろうではちょうどいいのではないかと思いました。
次の投稿は読み直しながらやっているので長くなるかもしれませんが首を長くして待っていただければと思います。
ありがとうございました。




