探し人は美少女?
依頼人は随分と慌てているようだ。こんなときは、まず落ち着かせるに限る。
「まあ、とりあえずお茶でもいかがです。」
言いながら、助手に目くばせする。が、彼女はこちらを見てもいない。仕方がないので、声をかける。
「さくらちゃん、お茶をお願いできるかな。」
「え、あぁ、わかりました。」
この辺りの呼吸がいまいち合わないのは、普段(お客がいないときのことだ)お茶を淹れるのは、主に俺だからだろう。彼女はコーヒー党なのだ。
「はい、お茶です。」
しっかり自分の分は、コーヒーを持って来る。お茶を飲むと、依頼人は少しずつ落ち着きを取り戻したようだ。依頼の内容を確認することにしよう。
「まずは、お名前を伺えますか。」
「失礼しました。私は高林と申します。首都工大の研究室で助手をしています。」
なるほど、駅前の大学に勤めているのなら、ここを知っていることにも合点がいく。
と、さくらちゃんが口を挟む。
「え、そうなんですか。どの研究室ですか。」
そういえば、彼女も同じ大学に所属している。
「和田先生の研究室です。主に人の脳波を測定する機器の開発に携わっています。」
「そうなんですか。私は、山中研究室にいるんです。どこかでお会いしていたかもしれないですね。」
俺を無視して話し始めたので、割り込むように質問することにする。
「高林さん、妹さんを探して欲しいとのことでしたね。」
「あ、失礼しました。その通りです。妹を、有美を探して欲しいんです。」
「人探し、ですか。」
俺は、机の上のメモ帳を手元に引き寄せながら、依頼人の顔を見る。事務所に入ってきたときよりは、落ち着きを取り戻しているようだ。
「妹さんは、おいくつですか。」
「19です。」
家出という歳でもなさそうだ。
「えーと、妹さん、いつから姿が見えなくなったんですか。」
「二日前です。」
さくらちゃんが反応する。
「二日前。彼氏とか友達とかの家にでもいってるんじゃないですか。」
「いえ、あいつには、そういう相手はいないんです。いつも家で一人でいるんです。」
「ははぁ、今流行りの引き篭もりってやつですか。」
「いえ、妹は身体が弱くて、外に出ることが負担になるので。」
「あ、そうなんですか。ごめんなさい。」
また、俺をよそに話している。所長の威厳も何もあったものじゃない。仕方ないから、こちらから質問する。
「妹さんが行きそうな所の心当たりはありますか。」
「そう言われても、病院か図書館くらいしか。」
いずれにせよ、連絡もなしに日を跨いで戻ってこないというのはおかしい。
「高林さん、どちらにお住まいですか。」
「殿塚です。東殿塚の駅から歩いてすぐです。」
それほど遠くはない。電車で一時間はかからない。
「なるほど。一度お邪魔して、妹さんの部屋を見せていただけますか。手がかりになりそうなものがあるかもしれませんので。できたら今からでも。」
「どうぞ。私の車でお連れします。」
「いえ、それには及びません。駅なども見たいので、電車で行きます。住所と連絡先を教えてください。」聞いた内容をメモする。さくらちゃんは、スマホのナビで住所を確認しているようだ。便利だとは思うが、どうもああいった機器は性に合わない。
「妹さんの写真はありますか。」
「妹は、あまり写真に写りたがらないので、こんなものしか。」
法事か何かのときに、家族で撮ったらしい写真を出してきた。
「可愛い。高校生みたいですね。」
と、さくらちゃん。
「どれどれ。」
写真を覗き込んだ俺は、妙な感覚に襲われた。