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依頼人現る

扉を開けると、中には女性が一人、椅子にかけて週刊誌のページをめくっていた。年は伏せるが、まぁ若い。俺の半分弱くらいだ。俺の助手として、バイトしてもらっている。大した額は払えないのだが、彼女曰く「これは、フィールドワークの一環だからいいんです。」ということらしい。彼女は、駅前にある大学の大学院生なのだ。心理学を専攻している。インテリなのである。もっとも、俺の事務所に持ち込まれる厄介ごとには、そのインテリジェンスを発揮してもらうようなものは、ほとんどないのだが。

「さくらちゃん、おはよう。」

彼女は俺に気づくと、読んでいた週刊誌から顔を上げて、声をかけてきた。

「鉄さん、遅いですよ。何してたんですか。」

何をしていたわけでもないし、少女の後を追いかけていたとは言いにくい。

「いや、ちょっとコンビニで立ち読みなど。」

「また変な雑誌読んでたんでしょう。やめてくださいよ。おじさん臭いから。」

「違うよ。パチンコの雑誌。」

「おじさん臭いことに、変わりはないじゃないですか。」

大違いだ。変な雑誌(何をもって変としているのかはなぞだが)を立ち読みしているおじさんとパチンコ雑誌を立ち読みしているおじさんとでは、天と地ほどの違いがあることを、彼女は理解していない。

「何か、急ぐ用事でもあるの。」

「そうそう。電話があったんですよ。」

「誰から。」

「わからないんです。」

「はあ。」

「何の用だったの。」

「わかりません。」

それじゃどうしようもない。

「でも、直接来るそうです。」

「ここに。場所を教えたの。」

「いえ。わかるからって、言ってました。」

大した宣伝もしていないここの住所がよくわかるものだ。ちょっと不思議な感じがした。

「ふーん。どんな人だった。女性。」

「男の人ですよ。まあまあ若い感じ。」

ますます不思議な感じがした。うちの客の大半は、近所のおばさん、おばあちゃんだ。依頼内容も、猫探しだとか、屋根の修理だとかいうようなものがほとんど。要は便利屋なのである。

「いつ来るの。」

「何か急いでいるみたいで、これから行くって言って電話切っちゃったんです。」

「あ、そう。」

「だから、早く来て欲しかったんですよ。それなのに、」

「まぁ、間に合ったんだからいいじゃない。」

「そういう問題じゃないですよ。すごく不安だったんですから。」

彼女は頰を膨らませる。椅子に座って週刊誌を読んでいた姿からは、不安感は伝わってこなかったが。

と、下から階段を上がってくる音がした。何しろ古いビルだ。音は一階にいるときから聞こえる。急いでいるらしく、早足気味だ。すぐ足音は、扉の前までやってきた。さて、どんな依頼人だろうか。ノックの音に応じると、扉が開く。立っていたのは、若い男だった。三十路には届いていなさそうだ。男は開口一番、こう言った。

「妹を。妹を探してください!」

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