鳥追い少女
一人の少女が中空を見つめながら歩いていく。足取りは定まらず、首を右に左にと振りながら。何かを探しているようにも見える。時に立ち止まったり、辺りを見回すこともある。その視線は何かを追うように、さまようが、地に向けられることはない。
彼女の探し物は、空をゆくものであるようだが、どうにも奇妙なことに、いくら目を凝らしても視線の先には何も見あたらないのだ。
周囲には、もちろん様々なものがある。どこかの大学のキャンパスの入口にそびえる建物。工科の大学らしく、近未来的な形状をしている。その大学の門の脇には、有名なハンバーガーの店がある。主に価格の面で(偏見だ)人気のあるその店のハンバーガーは、控えめにいっても褒められたものではないが、フライドポテトがうまいので、時々寄る。どうも、皮付きの本格的なのは、性に合わない。大体が、高級そうなものに対して反発したくなるのだ。
もちろん人も大勢歩いている。学生の多い街だから、年齢層は若めだ。若者に混じって老人の姿もちらほら。自分くらいの年代は少ないからか、周囲から浮いているような気がして、やや居心地がよくない。
しかし、そうした周囲の風景は彼女の目には入らないようで、相変わらず中空を見つめながら、やや頼りない足取りで歩いていく。「何か見えるんですか。」と、声をかければいいのだが、若者が大半を占める街中で、中年が少女(20歳になるかならないかくらいだと推測される)に声をかけるという行為には、お分かりいただけると思うが、相応の危険を伴う。好んで危険に身をさらす必要もない。
あまり長くついていくのもはばかられたので(何しろ彼女は歩き続けているのだ)適当なところで見送ると、俺は事務所へと足を向けた。
さて、今日はどんな仕事が待っているのか。ハンバーガーショップの横を通ったとき、あの直方体のポテトが頭をかすめたが、その思いを振り切って、俺は街を抜けた。