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指定席  作者: mame
電車の
2/3

01 彼女の大学卒業

【注意】

作者は大学行っていないので、想像のキャンパスライフです。

上記をご考慮頂いた上で、読んで頂けると幸いです。


彼女が大学卒業して、社会人になるまで書こうと思ったら、暴走した。

しかも、社会人になれてない!

私は友人達との待ち合わせに指定された、大学の食堂へ到着した。


もう暑い夏はとうに過ぎ、秋めいた季節。


そんな季節に私が影響されたのか、夕方前の閑散とした学食が、

よりいっそう寂れて見えるている。


一通り見回すが、友人達はまだ来ていない。



適当な円形の多人数用テーブルへ座ると、重たいバッグを隣の席へ置き、

体をぐったりと机へ倒す。




  ―――――――――――――――――――――――― 




先ほど、卒論の提出を終えた。


のだが、あの先生は私の出した論文を斜め読みしながら、

まー、ねちっこく絡んできた。


先生はデスクチェアにゆったりと身を沈め、言外に再提出をちらつかせつつ、

指摘という名の陰湿な問答は、一時間近く続いたと思う。

ううぅ、出来は悪くないはずなのに。しくしく…


そんな、私を一人の乱入者が混沌の坩堝へ突き落とす。

長く辛い戦いが終わった…とトボトボと講師室のドアへ向かってると、

いきなり「しっつれーしまーす!」ドアが開き、チャラ男が入ってきた。

「レポート、提出しに来たんスけど」と、まくし立てている。


先生は、いつの間にか体をデスクへ向おり、

「適当に置いとけ、後で読んどく」顔も見ないままだるそうに返していた。


チャラ男も「おなしゃーっす」といいつつ、

ポイッとレポートを机にほうり投げる。


そのー、せんせー、なんだかー、おんどさー、はげしくないですかー!


体に視線を感じる。

チャラ男がゆっくりと部屋をでる、

横目でスゥッと、私をつま先から頭の上まで、

いやらしい視線が体にまとわり付く。


あぁ、憂さ晴らしに、蹴り飛ばしたい、そのチャラ顔面。

今ならタイキックでいい。大丈夫、腰のひねりは軽くにするから。

ああ…、うざい…。


こんなうざい奴がいたとしても、

ここの講義やゼミを私は辞める気はない。


私が学びたい事を、しっかり教えてくれるし、

この先生は、いい先生ではある。


ただ、使えそうなやつは馬車馬のように使うのだ

でも、抗議はしない。


あの先生は、マーケティング界隈のプロで、ものすごく弁が立つ。

口では、ほとんど勝ったことがない。



以前のレポート提出の際、

その時は自画自賛できる内容で、自信満々でレポートを講師室へ持っていた。

さらに、何を言われてもいいように、ある程度イメトレもしていた。


二三の質問から始まった会話はスムーズに進んでいて、

もう終わるだろう、イメトレ通り!と内心ガッツポーズをしていたら、

気を抜いた瞬間の終わり際、最後の質問を詰まった。


畳み込むようにレポートの荒を、鋭くえぐり込んでいく。

なにもそこまで…と涙ぐむくらいけちょんけちょん言われ、

結局、赤ペンを入れられ指摘箇所の修正を言い渡された、レポート再提出の刑。


終わり際に質問って、

お前は、よれよれのレインコートを着た刑事か!



あの人が言う事は、腹が立つことにいちいち正しい。

と言うより、正しいと思わされる。


レポート再提出の刑を言い渡された後、ため息をついて

「有用なデータや資料を集めて、初めてスタートライン。

 そこからどれだけ相手を言いくるめられるかが肝。

 徹頭徹尾、十全尽くしてやりきららんと、意味がない。

 詰めが甘くてダメでしたとか、失笑もんだわ」


うぎぎ、くやしい、言い返せない。





チャラ男がレポートを机に置いて出て行った後、ドアの閉まる音で、

私は我に返ったが、まだ気分は意気消沈気味だ、そのまま退室しようと、

ドアノブへ手をかけた時だった。


「…ちょっとまて」


と、珍しく先生から呼び止められた。


私が振り向くと、先ほどまでむっつりと背中を見せて椅子に座っていたのに、

若干、恥ずかしそうな顔でこちらをみていた。


「俺の講義を選んで来てくれた事は、本当にうれしく思う。

 …面と向かって”あなたの講義を受けに来ました”なんて、

 いわれることは滅多に無いからな。


 こっち方面の芽はあると思う。ま、仕事に繋がるかは確約出来んがな。」


うれしそうな表情で苦笑いをする。

しかし、少し寂しそうな顔へ変わり、話し始めた。


「ただ…もっと違う才能もあったろう。

 詮索して申し訳ないが、親父さんと同じ仕事に就く、とかな。」


静かな部屋。先生が座る椅子が、ギッと軋む。


「仕事に貴賎は無い。とはいえ、水商売は、本当に浮き沈みが激しい。


 これから社会に出る若者にかける言葉では、ないかもしれない。

 だが、いち“父親”として、かけたくなる言葉もある。


 今、偉そうにしてる俺だって、

 はみ出し者で堅苦しい会社を勝手に見切りをつけて、独立。


 わき目もふらず我武者羅に働いて、

 仕事が増えて、稼ぎが安定するまでは、心底不安だった。


 人心地ついて肩の力が抜けた時、初めてかみさんと娘が、

 心配顔をしていたのに気がついたよ。」


当時を思い出したのか表情は暗い。

先生は立ち上がり、ゆっくり歩みながら続ける。


「もちろん楽な仕事は、ない。

 …一部、楽しては金稼いでるヤツもいるが、今それは論外だ。


 世の中に絶対と言える事は少ないが、

 真面目に働いていれば崩れる事のない道を勧めるのが親心。


 って、そんな話をする時期はとうに過ぎてるか。

 もう内定はもらってんだろ?」


口角を上げつつ、やさしい視線をこちらへ向ける。


「ええ、夏の只中、第一志望から!」


私もニヤリと口角をあげ、親指を立てる。

先生は、それでこそ俺の生徒。なんてうんうんいってるし。


「心配して頂き、ありがとうございます。」


私がお礼を言うと、先生はちょっとスネたような恥ずかしそうな顔をしていた。

そんな表情が父を思い起こさせた。


「…話を戻しますが、確かに父と同じ警察官も考えなかったわけではないです。

 ご存知のとおり、私は頭のいいほうではありません。

 できのいい兄に比べると、

 私はヘッドスピンからのワンハンドキープしても太刀打ちできません。


 その分、こちらもご存知のとおり、運動神経やら、格闘技のセンスはあります。

 以前、柔道と剣道の有段者とは伝えたと思ったんですけど…

 たしか、柔道三段と剣道三段。空手はちょっとかじる程度。

 後、高校の時に陸上で県大会上位入賞までいけましたね。」


私は指折り数えていく。


「運動は好きなんですけど、その、色々やりたくて、

 …なんか、一つに打ち込まず中途半端なんですよね。全体的に。


 警察官になるのだって、そういった経歴を加味すれば、

 有利な面もあるかもしれません。

 それは周りの人たちにも、たくさん言われました。


 でも、武術でいえば、全国大会出場者や、

 生え抜きで鍛えた上位有段者の猛者だって居ます。

 もちろん、頭の良さも見られるわけで、ははは…」


虚空を見ながら、乾いた笑いをあげる。


「結局、勉強をがんばるなら、

 いままで自分のやりたい事をやってきたのだから

 仕事だって自分のやりたい事にしたいっていったら、父は猛反対。

 怒鳴りあって、大立ち回りの大喧嘩したりして。

 私、警察官はとても誇り高い、すごい職業だって、尊敬しています。


 でも、私は、もっと外を見たい。

 世の中を見てまわりたい。そう思ってたんです。

 

 ただ、なんにしても頭が足りなくて…


 崇高な考え持っていたり、造詣が深いわけでも、視野が広いわけでもない。

 そんなものがすぐ身につく訳もなし、

 よしんば付いたとしても、付け焼刃では続かない。


 さて、どうしようかと考えましたね。


 その時、いいなー、ってみてたものが、話題になったり、売れたりするのは、

 なんでだろう?って、思って。


 そこから、めぐりめぐって、マーケティングに興味を持った。



 ていうのが建前。


 昔から“これだ”って直感にビビって来たのが、流行ったんで、

 この勘があれば行ける!って思ったんです。」



先生は話を聞きながら、うんうんとうなずいた後、

ほぉ、と少し感心した目で私を見た瞬間、ズコッてコケて、頭を抱えている。


今はこめかみを押さえながら、

「この娘は、社会に放って大丈夫だろうか…」なんてボヤいてる。

失礼な。父も兄もよく同じ事をつぶやくが、私は野生動物じゃない!人間だ!



少し恥ずかしくなったので、コホン、咳払いをいれ


「色々ご迷惑おかけしましたけど、先生の講義、楽しかったですよ。

 レポートでいじめられなければ、もっと楽しかったですけど!」



先生は、急にムッとした顔をして


「いじめてはいない。いびってたんだ。」


なお悪いわ!


「わかっていると思うが、統計というのは生きているといってもいい。

 今、この瞬間にも成長してるし、増えている。

 ここで伝えた事は、あくまで基本であり、考え方の一部だ。

 応用しなければいけないし、時には一から見直さなければならない。

 言い出せばいくらでもあるように、生かし方も殺し方も無数にある。

 だから…」


講義中のような真面目な顔していた。が。


「ま、なるようにしかならん。

 俺のいびりは、将来付くであろう上司や上役のいびり。

 他男子のセクハラは、お前がきちん我慢を覚えるためだ。

 まぁ、初期の頃から比べると空飛ぶ(いわゆるぶん投げられた)男子や、

 二十分ぐらい、震え固まり動けない(いわゆる軽くシバかれた)男子も

 減ってはいる。


 今後にいきるかどうかは知らんが、これからも、がんばれ。」


にやっと笑って、ちょいワルオヤジが顔を出す。


「りょーかい!ボス!」


私が元気よく、返事をした。




  ―――――――――――――――――――――――― 




私はいつの間にか机に突っ伏してぼんやりしていたみたいだ。


憎たら愛らしいあの先生とのつばぜり合いも、

これが最後となるかなと思うと、感慨深いような、

もう二度とやりたくないような。


そんな、哀愁めいた気持ちになる。


 ―まだ、また会いたいような、

  もう少しお茶目なちょいワルな笑顔を見たいような…


「おー、黄昏ている麗し咲良ちゃん、はっけーん」


聞きなれた友人の声が聞こえる。一人集まれば、二人、三人と増えていく。

三人集まれば姦しいとは言ったもので、友人たちも、次々に就活の惨敗話や、

卒論の面倒くささに愚痴をこぼしている。



 ―そうだ、これから大学生活は緩やかに、かつ刻々と終わりへ向かっている。

  …うん、いつもの、いつもの時間だ。



私たちは、大小さまざまな旅行や、友人の卒論追込みのサポート、

友人達の内定祝い打ち上げ、就職関連の研修、などなど。


慌ただしく時間の流れに乗っていく。

年末も近づけば合同飲み会も増え、私の不埒な男撃破数も増えていく。



あわせて、私に対しての告白も増えていく。


大学時代の恥もかき捨てとばかりに、五人同時に迫られたときは、

全員の脳天へ手刀を見舞った。チョップではない。


全員が「ぐあぁぁ~、しかし、我々の業界ではご褒美です!」と、

嬉しそうに悶絶していたのでちょっと、引いた。


調子がいい告白には、

「私を倒せたら、考えてやってもいい!」と高笑いする。

もちろん、しっかりとした告白にはしっかりとお断りする。断り文句は、

「せっかく自分のやりたい仕事につけたのだから、疎かにしたくない。」


そうして幾度も告白を聞くうち、うっすらとボンヤリと浮かぶ、誰かの笑顔。

思い出せないし、それ以上に思い出してはいけない気がしていた。




  ―――――――――――――――――――――――― 




ついに迎えた、卒業式。

ここで別れたら地方の地元へ、帰ってしまう子もいるので

会うことは難しくなる。


お互いにうっすらと涙を浮かべながら、記念写真を撮っていく。

立ち代り入れ替わり人が動く中、ふと耳にした言葉。


『大きなプロジェクトに参加するため、先生が近日中、講師をやめるらしい。』



 ―とくん


体の中で何かが動く気がした。


私は無心であの部屋を目指している。

外のさざめきが校内に響くが、校内にいる人はまばらだ。

それがさらに非日常を掻き立てていて、わけのわからない焦りを生む。


少し息を弾ませながら、通いなれた講師室へ。


扉の前についた。

ふと思う。先生は非常勤講師なので毎日に出勤しているわけではない。

今この、扉の向こうに、いないかもしれない。


なぜ来てしまったのか。

そのとき、やっとわかった。自分の心に何かがすとんと落ちた。


ドアをノックする。少し間をおいて

「はい」先生の声がした。


「失礼します。」

おそらくこの大学に来て、この講師室へ来て一番緊張している。


部屋へ入る。

いつもよりパリッとした、センスのいいスーツを着ていた。


私の視線に気が付いたのだろう

「一応、卒業式に顔を出すかもと、一張羅を着てきたよ。」


恥ずかしげに語る。


「よくお似合いですよ」


声は普通に出せた。

私の顔は笑っているだろうか。嬉しそうにしているだろうか。


「振袖よく似合ってるよ。卒業おめでとう。」

耳に心に気持ちにしみこむ声。


涙が出そうな気がする。

ごまかすように先生に声をかける。

「最後に一つだけ、お願いがあります。」


先生は若干の警戒と戸惑いを見せた。

もう、それだけで、十分です。


「ハグ、してくれませんか。

 不安な子供をあやす様に。

 これから見送る生徒の門出を祝うように。」


私の顔はうつむいている、涙は出ていない。

最後のこの時に絶対に泣き顔は見せたくない。

いつも通りに笑顔を見せたい


コツコツと先生が歩み寄ってくる。

靴音とともに、私の振動の音も大きくなっている気がする。


 …ギュ…


強くもなく、強制するものでもない、ただ、気持ちは伝わるハグ。



先生が、ゆっくりと、子供に言い聞かせるように語りかける


「これから君には、多くの試練が待っている。

 でも君は、それらを一人で超える必要はない。


 家族を、友達を、同僚を、仲間を見つけて、ともに乗り越えなさい。

 これは私ができなかったことだ。だから、いいアドバイスはできない。


 でも、今君は一つ試練を乗り越えたはずだ。


 そして、もし、

 本当にどうしようもない時は、第二の父親である私を頼りなさい。」


ゆっくりと体が離れる。


先生は、プライベート用の名刺を私にくれた。


「あ、もし、いたずらで連絡した時は、説教するからそのつもりで」


目は笑ってないけど、顔は笑顔だ。

つられて、私もひきつった表情になる。


かなわないな、と思った。



私は目を閉じて、軽く深呼吸する。

目を開き、先生の目を見て、今日一番の笑顔を先生へ見せる。


「本当にお世話になりました」


深くお辞儀をする。


そのまま部屋を出る。

それからはどう歩いていたかはあまり覚えていない。


遠くに私は、友人達の彼女達の姿を見つけると、

駆け寄り、彼女たちに囲まれながら大泣きした。



  ―――――――――――――――――――――――― 





おまけ




友人たちの愚痴。


「あの子、ゼミの講師室へ向かった?」

「うん、それはもうあわてて」

「年末にあれだけ合コン開いたのに、ものの見事に全員振りやがって…」

「私、あんなに連日、合コン出たの初めてなんだけど」

「まぁ、きれい所が出る最後の合コンって事で、

 集まりはよかったから楽だったけど。」

「てゆうか、最後のほう男共、降られる前提で告ってなかったか?」

「一種のイベントと化してたわね」「あー…、そんな感じしてたわ。」

「そして、私達には、何もなしと。さすがに連絡先だけは増えたけど」

「でも、あの子のあれは、今日で終わりでしょ?」

「さて、いつ頃戻ってくるのかな?」



  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「あ、戻ってきたねー」

「これ誰のところに来ると思う?」

「それは私みたいな、包み込むような巨乳でしょ?」

「いやいや、ここは中学から付き合いがある私でしょ?」

「ふふふ、ここ最近なんだかんだで悩み事をきいてるダークホースがいますが」

「じゃ、じゃあ、私は有り余る包容力で…」

「いやそれは天然なだけでしょ」

「(´・ω・`)」

本当は、

卒論提出。

卒業旅行等々

卒業式

入社式

の予定だった。


で、卒論を卒論をする時に

教員を出したらこうなった。

なぜだ…


あ、誤字・脱字など教えていただけるとありがたいです。

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