9、幸せだと実感出来ること自体が幸せなのかも
「そういえば、フィーは私に対して敬語だけど、フォルメイアさんは普通に砕けた感じなんだね」
「ん?別にあやつもあれで普通に隣人みたいな接し方だと思うぞ?あやつはあれが素だからな」
「まじか」
あれがデフォですか。分かりにくいなー。なんとなくそんな気はしてたけど、無表情キャラは少し分かりにくい。
「ん?じゃあさっきメガネとか言ってたのは?」
「ナーラは知識を貪るのが好きでな。人間の書物を読んだり新しいことを知るのがとても好物なのだ。お陰で本を読みすぎ目が少し悪い。読書するときは専用のメガネをかけておる」
「インテリ!」
まじかよメガネ女子かい。可愛いですねぇ、見てみたいなー。フォルメイアさんは服を棚から漁りながら話し続ける。
「お主はさっき気軽に接していいといったが、そもそも世界樹は我々にとって共に生きる隣人なようなもの。元から気軽に交流しているのさ。里の者達は信仰からか少し謙っておるが、先代も割と気さくなやつじゃった。わしはよく丘まで遊びに行ってたしな。ナーラともその時に結構仲良くなったしのお」
「じゃあ、この三年間は寂しかった?」
私がそう聞くと、フォルメイアさんは手を止めて、少し悲しげな顔をする。
「……そう、じゃな。前の世界樹の意思が消えた時はそりゃあ寂しくなったさ。だが、すぐに前を向いた。生命が生まれ死ぬように、世界樹の魂もいつかは消え、新しい者へと変わっていく。理じゃ、ただそれを受け止めるさ」
「成程ねー、生命の理かー」
まあ、そうかもしれない。人はやがて死ぬ。でも、命は次へと繋がれていく。世界樹も似たようなもんかもしれない。
フォルメイアさんは笑って私に服を差し出す。
「ま、だからこそ、お主が現れて嬉しく思うよ。しかも、人の姿をとるなんて面白いやつがな」
「いやーそれほどでもー」
私は服を受け取り、着始める。中々豪華な感じだなー。
そして、フォルメイアさんに爆弾発言を落とされる。
「しかし、何故そのように人間の姿を完璧に取れたのだ?世界樹は先代の頃から、気配でこちらを見ることは出来ても、実際に視覚があるわけでは無かったはずだが……」
ギクー。
私は服を着ながら固まった。おっとー、そこ言っちゃいますかー。そこ言っちゃうのかー、困っちゃうなー。
私が焦りの汗を流しているのが察せられたのか、フォルメイアさんは不思議そうな顔をした。そしてさらに確信をつく。
「これは突拍子もない話だか、もしかして人間の魂でありながら世界樹へと宿ったか?」
「何故それを?!」
「え、まさか図星なのか?」
「おっとぉー」
私は口笛を吹く。フォルメイアさんはやれやれとため息をついた。いやフォルメイアさんの思考が怖いよ。なに、この世界では輪廻転生なんてものがあるの?ありえーる。だって異世界だもん。
「んなわかりやすい反応を示すでない。話せぬなら話さなくても良いが……」
「あー、うーん、話せない、というか話してもいいのかなー、って感じなんだけど。信じてもらえない可能性が高い話だし」
「どういうことじゃ?」
んー、まあ神様からの手紙にも特に書かれてなかったし、別に言ってものかなー。
かくかくしかじか……。
「……えー、つまりお主は、この世界の人間ではなく、異世界で死んだ少女で、目覚めていたら神のきまぐれで世界樹になっていた、と」
「ザッツライト。理解が早くて助かるよ。あとこの服似合ってるかなー?」
「うむ、美を探求するわしでさえ惚れ惚れするほど似合っておるぞ」
「美人に言われるたぁ嬉しいね」
綺麗な洋服に着替えながら私は私についての全てを教えてあげた。転生者であること。三年間世界樹に意思が無かったのは、ほぼ神のせいとも言えること。そして、ここにいる者達を全力で守りたいということを。
んで、そんな突拍子もない話をフォルメイアさんはあっさり理解した。普通簡単に理解出来ないと思うんですが、理解力高いね?
「正直、そういう話はラーナに話してやると喜ぶと思うぞ?」
「あー、異世界って単語に食いつきそう?」
「いや、お主が嫌になるほどお主の知ってる異世界の全てについて話さなければ離さないレベルで食いつくじゃろ」
「うーん、話した方がいいのか、やめといた方がいいのか……」
フィーにどれくらいの知識欲があるかは知らないけど、うん、フォルメイアさんがこう言うくらいだから相当やばそうだな。まあそれは今度考えよう。
「というか、そんな簡単に信じちゃう?」
「妄想だとしたらかなり狂気の域じゃろ。一応この世界にも転生というものはあるしの。異世界の存在も知られているし。それに、世界樹の言うことだ、信じてやるさ」
「やだエルフの姉様かっこいい」
「ふふーん、もっと褒めてもいいんじゃぞ?」
「絶世の美女万歳」
「万歳じゃろ」
フォルメイアさんって結構ノリいいなー、めっちゃ面白い。年の功なのか、単に気さくな人なのか。
ま、信じてもらえたなら良かった。人間ってことで嫌がられたらどうしようかと思った。
「お主はここの者が愛おしいと思うのじゃろ?だったら、信じる理由はそれだけで十分じゃ」
「もうめっちゃ可愛すぎて愛が溢れそうなレベルで大好きだよ。一生守ったる。まあそこまで私がすることないらしいけど、出来ることはするよ」
私がそういうと、フォルメイアさんは優しそうな、母親のような目で私の頭を撫でる。
「焦って背負い込む必要はないぞ。我々にだって自分達を守る力はある。それに、お主にも好きなように生きてほしい。前世で長く生きられなかった分、この美しき世界で存分に生きれば良いさ」
そんな優しい言葉をかけられて、私は嬉しさで涙が出そうになったけど、そんなことは悟られないように笑った。
「……ありがとう。フォルメイアさんはお母さんみたいだね」
「姉さんと呼んでも良いんじゃぞ?」
「じゃあこれからはフォルの姉御と呼ぼう。そっちも好きに呼んでいいよ」
「んじゃメリーで良いじゃろ、メイリアじゃし」
「よろしくフォルの姉御!」
「よろしくのうメリー!」
私たちは仲良くハイタッチをする。
今日生まれたばかりで、もうこんなに沢山友達が出来ました。素敵な世界への転生ありがとう!
フィー「むむ、どこかで美味しそうな知識が溢れる気配が」
ティナ「えー?おいしいものー?」
アル「多分美味しいと思うのはこの人だけだぞ…」
知識の暴食妖精恐ろしや。