『変人』
空き箱に
それはそれは
ガッサガサに集めるだけ集めた
蝉の抜け殻
その後、捨てた覚えがないのに
いつの間にか…ない。
川原で拾った緑色のエメラルド。
道端で拾った、魔法使いの杖。
タンポポの綿毛には
たしかに妖精が隠れてた
あの頃♪
いろんなことが楽しくて
いろんなことが悲しかった
いまよりずっと、
本格的な夏が訪れるより少し早く
裏山に不思議な声が響き始める。
「ギィーコッ、ギィーコッ、ケケケケケ…」
声の主は、エゾハルゼミ
図鑑によれば早いところでは5月中旬から現れ、
北海道~九州まで分布している。
食事は雑食だが、
落葉樹の(ブナ、コナラ、クヌギ、カエデ等)を好む。
梅雨の時期
ブナ林から聞こえてくるセミの声はまず
このセミだと思って間違いないが、
あの声は もう少し
どうにかならなかったのだろうかと思う。
サザエさんの
マスオさんのちっとも上達しない
バイオリンのような武骨な音色である。
図鑑では
「ミーキョン、ミーキョン、ミョーケケケケケー」
などと鳴くと書いてあるが、
わたしには、どうしてもそうは聞こえない。
図鑑の監修をした方の名誉を傷つけるつもりはないが、
擬音センスの方はちと疑わしい………
「ケケケケケー」の部分は
ヒグラシに似ている感じで大合唱をしているときは
まるでカエルが鳴いているように聞こえる。
初夏のまだわずか冷たさを残した日射しの中で
透き通った羽を纏い 背中は漆黒に艶々輝き
鮮やかな若草色で綴った象形文字のような模様が
なんとも美しい。
羽化を観るのが楽しみで
早朝白樺の葉にぶら下がる
蛹の背中が縦に割れて
少しずつ生まれる蝉を
ドキドキして
ワクワクして
透き通った羽に色がつくまで
時を忘れて見ていた。
『虫』
というだけで嫌われがちな
彼らだが、
カタツムリが何故汚れないか?
という疑問から発明されたのが
汚れないセラミック。
トンボの羽から生まれた未来の風力発電。
東・中央アフリカに住む蝶
ニレウスルリアゲハの燐粉が
人間が苦労して作り上げた
発光ダイオードと同じ構造だったりと
地球では唯一の知的存在だと
思っている人間は、
遅れているのかもしれない。
この謎多き、地球の友達が大好きな
わたしは些か変人なのかもしれない。
そして 変人と言われることも嫌いではない。
蝦夷春蝉




