表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

【Panzer lied】

────・・・・ヒュウンッ… ガギィインッ!!

ドンッ ドォンッ…!! パァンッパンッ チュインッ…!!


フリッツ「…敵を発見ッ!! 左翼側の森にT34後期型が2両、右翼1両ッ!! 距離700yard(約640m)!! 左翼側を潰して突破するぞッ!! 砲撃用意ッ!!」


ウィイィィィン… ガコォンッ

砲塔がゆっくりと回転し、森の中に潜んでいたT34後期型(T34/85)を捕捉した

本当なら真っ先にIS-2を撃ちたかったが十字砲火に晒されている以上、まずは突破口を開かなければならない


バルド「徹甲弾装填完了ッ!!」

オリバー「…ッ feuerッ!!」


ガドォオンッッッ!! ガラァンッ…

────・・・ゴ ォ オ ンッ…!!


フリッツ「…命中ッ!!敵車両撃破ッ!! このまま転身してIS-2を追うぞ、どうやら前方のM4はCromwellが片付けてくれたようだ。 残りのT34後期型はCromwellに任せても良さそうだな。」


オリバー「そりゃ何よりだ…」


放たれた徹甲弾は後退するT34の履帯に当たるもそのまま背部まで貫通、撃破に成功した

この距離なら攻撃面で悩む事は無い、88mm砲ならどこに当てても撃破する事ができる


問題は防御面だ


確かにTigerは絶大な防御力を誇るが側背面の装甲厚は不安が残る、特にコイツはアンスヘルムが言うように装甲に亀裂がある部分も存在する


だからこそ包囲されるのは防ぎたかった

一番恐れていた陣形に嵌められてしまった

認めざるを得ないが、戦略に於いてはナボコフが一枚上手だったようだ


しかし運が良かったのかCromwell部隊の練度が高く、正面にいたM4 sharmanはあっという間に壊滅、そのまま両翼に追撃を仕掛けている


アルノルト「旋回しますッ!!」


バルド「装填完了ッ!! …急げアルノルト!! あっちの歩兵部隊にはヘルマンが合流してるんだ、急がねぇと殺られちまうぞッ!!」


アルノルト「〜ッ わかってますよッ!!」


ガギギギギッ… ブォオンッ


グイッっと乱暴にハンドルを回すアルノルト、それに応えるようにTigerは駆動部を鳴らしながら旋回を開始した


…バルドの言う通り、何故かいまIS-2が優先して狙っているのは元友軍のイギリス歩兵部隊だ

いまあそこには中継役としてヘルマンが合流している

下手したら巻き添いを喰らうかもしれない

どのみち急がなければ…


ロト『頼む…!! 間に合ってくれ…ッ!!』


そして旋回するTigerの脇をすり抜けてロトを乗せたCromwellが全速力で追撃を開始する

この時点でIS-2までの距離は500yard(約460m)



間もなくIS-2は歩兵部隊の伏せる稜線に突入する



・・・

・・


ナボコフ「…まさか2発も喰らうとは予想外だったぜ。 ろくすっぽ仕事しねぇまま操縦手(ドライバー)も殺られちまったし、相変わらずふざけた威力だなあの野郎…ッ」


イワノフ(IS-2通信手兼操縦手)「そもそも大事な初弾を味方重戦車(イギリスの)に撃ったのが失敗でしたよね、なんであれ撃ったんですか。」


サファロフ(IS-2装填手)「122mm砲の装填に何秒掛かると思ってんですか大佐ァ… 28発しか積めないのに、本当に1発1発が貴重なんですからもう少し大事に撃って下さいよ…」


その頃、IS-2車内ではナボコフに対する文句が飛び交っていた

事実IS-2の装填速度は遅い、火薬と弾頭が別々になっている分離装薬式なうえに弾頭重量も25kgと重いからだ(88mm砲弾は約10kg)

おまけに狭い車内での作業になる為、熟練の装填手でもかなりの苦労を要する


ナボコフ「あーあー!!うるせぇ!! とにかく今は裏切り者の粛清が先だッ!! 踏み潰してやれ、根こそぎドイツの土の肥やしにしてやるッ!!!!」


ドォッ!!!! ギュラギュラ…ッ


土煙を挙げ、IS-2が稜線を突破

蹂躙を開始する


ハワード(Matilda 1号車)『…こちらArrow2よりbaron1ッ!! 味方…いや敵重戦車と交戦しますッ!! …ッ 歩兵部隊は可能な限り後退しろ、私達が時間を稼ぐッ!!!! 前進して距離を潰せッ!! 攻撃開始ッ!!!!』


────・・・ドズンッ!! …ガギィッ…!

ドズンッ!! …ガギィンッ…!! ドパンッ!! …ギチュ────ンッ…!!


Matildaの主砲、52口径2ポンド砲が稜線を越え体勢を立て直しはじめたIS-2に向け放たれる

しかしそれらは尽くIS-2の装甲に阻まれ、四方八方に弾け飛んでいく

ハワードの言う通りこれは「時間稼ぎ」でしかない

この砲では貫通は愚か、凹みのひとつでも付けれたら奇跡に近い


そもそも1942年にほぼ全滅したこのMatildaを使っている時点で攻撃も防御も関係無い、あるのはただ「歩兵の盾になる」という決意のみ


ロト『やめろハワードッ!! 後退しろッ!! いまオレ達が行く…だから逃げろッ!!!! 頼む…逃げろッ… 逃げてくれ…ッ!!!!』


ハワード『……ッ 続けて撃てッ!! 前進しろッ!!!!』


隊長であるロトの指示を無視し、MatildaはIS-2に接近してゆく


密着する距離まで近付ければ122mm榴弾は使えない

撃った自身にも被害が及ぶからだ


だが…間に合わなかったようだ…

IS-2の砲口がこちらを完璧に捕捉(ロック)したのが見えた


ハワード『…次弾、榴弾装填…ッ!!』


残り50mまで接近したが徹甲弾は相変わらず弾かれる

どのみち次が最期の砲撃になるだろう

憂いも後悔も、この1発に込める


─────────・・・あぁ、なんと誇らしい最期か



オレ達は仲間を、隊を、誇りを護って死ねる

負けるとわかっていても、オレ達は逃げなかった

死から、恐怖から逃げなかった


ロト『ハワードォォッッッ!!!!!!!!!!』


ハワード『先に逝きます隊長、どうか……我が大英帝国(イギリス)に勝利を……!』



──・・・・・ズドオォオオオンッッッ!!!!!! ボゴォオンッッ!!!!

ガシャァン…ッ!! ガラガラッ… ドシャァァッ


残り40mまで接近した時点でIS-2の122mm砲が無慈悲にもMatildaを貫き、轟音と共に車体を爆散せしめた

放たれた『それ』はMatildaの正面装甲を容易に貫通し弾薬庫を破壊したのだろう、吹き飛んだ砲塔が後退する歩兵部隊の一部を圧し潰している


フリッツ「…味方Matilda歩兵戦車、大破…ッ」

バルド「ク…ソがッ!!」


ボムンッ!! ドンッドンッ シュボボボボ……ッッッ


残っていた弾薬に引火し、Matildaがさらに炎をあげる

搭乗員は全滅、それも即死だろう


…次にあの様になるのは、誰か……


ロト『………ッ …ぐッ!! く…ッ 全車…目標IS-2に変更ッッ!!!! リカルドッ!! チェスターッ!! オレに続け、あのくそ野郎をぶち殺すぞッッ!!』


リカルド(Cromwell 2号車)『Sir、yes、sir(了解)』

チェスター(同 3号車)『Wilco(了解)』


ロトの無線に応え、Cromwell部隊が進路を変えた

連中が応戦していたT34/85は何発か被弾しているがまだ動いてる、仲間を殺られた怒りで熱くなっているのかCromwellは被弾しながらIS-2に突っ込んでゆく


アルノルト「無茶だ…勝てるわけが無い… あのスターリン戦車は怪物だ…ッ!」


バルド「泣き言は後だアルノルトッ!! 今は仲間を助けるのが先だ、オレ達も早く向かわねぇとッ!! …隊長、早く行こうぜッ!!!!」


オリバー「…左右からの効力射(有効打)覚悟でこのまま停止射撃はどうだ? スターリン戦車を先に仕留めないとオレ達もMatildaみたくなっちまうぞ」


Matilda大破の報を受け、Tigerの車内が騒がしくなる

アルノルトは圧倒的な破壊力のIS-2に恐怖を感じている

バルドはヘルマンが心配で焦りを隠せない

オリバーは被弾覚悟で停止射撃をしようと半ば投げやり…


「酷い有様だ…」とフリッツが車内を見渡す

戦車とは搭乗員の練度と士気が性能に直結する兵器だとフリッツは考えている

幾ら戦車自体の性能が高くても中身がそれを活かしきれなければ使い物にはならない


逆もまた然り、戦車自体の性能が低くても中身がそれをカバー出来れば問題無い


今までのフリッツの経験から、このようなパニック状態を抜け出す策を考える

とにかくまずは隊員達を落ち着かせなければ…


そしてフリッツが選んだ方法は…………


フリッツ「んんっ…

…Wenn vor uns ein feindliches

Heer dann erscheint,

Wird Vollgas gegeben

Und ran an den Feind!

Was gilt denn unser Leben

Für unsres Reiches Heer?

Ja Reiches Heer?

Für Deutschland zu sterben

Ist uns höchste Ehr!」


アルノルト「…隊長…!?」

オリバー「…こいつぁ……"Panzar lied"だな。 しかしなんで3番なんだ…?」

バルド「……おいおい、無駄に上手いじゃねぇか… ぶふっ(笑)」


急に…胸を張って歌い始めた

ドイツ戦車乗りの、定番とも言える曲を


この歌は『Panzarlied』と呼ばれるドイツの行進曲だ

1933年に作られたこの歌は、多くの戦車乗りに親しまれ、よく歌われた

歌詞は戦車乗りの矜持とその在り方を描いたようなものであり、フリッツが歌った3節目は『戦いの場面』を描いた歌詞である


敵の軍勢の

眼前に現われなば

全速力もて

向かい討たん!

我らが陸軍の為

この身命なにものぞ。

然り、この身命なにものぞ。

ドイツの為に散る、

そは至上の栄誉なり。


という歌詞だ


フリッツ「…ふう… さて、ご拝聴いただいたがどうだ? お前らも戦車兵なら、奮い立つだろう? 」


アルノルト「…いや、歌がお上手なんですね、としか…」

オリバー「国の為に死ね、ってか? 勘弁してくれ、故郷で嫁と子供が待ってんだ。」

バルド「(爆笑)」


感想を聞くと、さっきまでのパニックが嘘のように止まった(いろんな意味で)

アルノルトは笑いを堪えきれず半笑い、オリバーも眉間の皺が緩み気が抜けたような表情になっている

バルドは…徹甲弾を抱えながら大爆笑していた


フリッツ「…(怪訝な顔) …あー…少しは落ち着いたか? …………オレが言えた口ではないが、今のお前らは冷静さに欠けていた。 確かに状況はかなり厳しいがオレ達なら落ち着いて対処すれば切り抜けられるだろう、だから……」


グッと通信機(タコホーン)を抑えながらフリッツは言った


フリッツ「オレと、Tiger(こいつ)を信じてくれ。」





第7部 Panzar lied 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ