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【完全なる敗北】

チクタク チクタク

時計の針だけが無慈悲に進んでゆく。


フリッツ「(くそ… 頭では分かってるが脳が受け入れるのを拒否してやがる… ハナが日本の兵士であの訳分からん兵器の開発者でその条件に武器貸与(レンドリース)でTiger Iを輸出するって?)」


「市ノ瀬少尉」曰く、ナルヴァの街でフリッツ達を襲った不可解な現象の正体はV2ロケットに搭載した「核弾頭」と呼ばれるモノで、それを高い高度で炸裂させると発生する電磁波(パルス)が機械を根刮ぎ使用不能にするらしい。


その新兵器の情報を渡す代わりにドイツからはTiger Iを輸出する。


その為に秘密裏に入国していたハナを護送していたのがジークの第8騎兵部隊、その途中でソ連に拿捕された所をオレ達が助けた。


そしてハナの回収の為に北部哨戒基地に訪れたジーク達とオレが戦い…ベルリンに連れ戻された。


回り道をしたが、コレでようやく本部が描いていたプラン通りに進むという訳だ。


フリッツ「(駄目だ、頭が回らん… だが目の前にいるのは間違いなくハナだ… つまりハインリヒが言ってる事は事実なら… つまり…オレは…)」


─────第8騎兵師団の兵士達を、無駄に殺した、という事か?


フリッツ「──────────」


その事実に気付いた時、フリッツは見た。

どこか哀しげなハナの眼に映る自身の口元が、僅かに笑っているのを。


ジーク「理屈は理解出来ましたが、総統閣下(マインフューラー)機甲戦力(われわれ)に見切りをつけられたのですか? 前述の通り、イチノセ少尉の開発は機甲戦力の否定に見えますが。」


澱んだ空気の中で、ジークが問う。


ハインリヒ「それは断じて無い。すでに総統閣下(マインフューラー)は新しい戦車の開発を指示されている、工廠にも手配済みで既に幾つかの試作を進めているところだ。」


バサバサと設計図案を振るハインリヒ、珍しく懐疑的な表情でそれを見つめるジーク。


そして、その隣でジッと動かない、市ノ瀬… ハナの姿。


ハインリヒ「もちろん既存の戦車もこれ以降の生産分からは電磁パルス対策を施したタイプを開発する予定だ。 想像してみたまえ、【Seele】で沈黙した戦場を我が精強たるドイツの新型戦車が蹂躙するその姿を。」


狂気を孕んだ眼がフリッツを捉える。

"その先頭で屍の山を築くのは貴様だマイゼンブーク"と、言わずとも理解出来た。


ジーク「……ハインリヒ長官殿、お話は変わりますが、今後の作戦についてお伺いしたいのですがよろしいでしょうか。」


ハインリヒ「ああ、そうだったな。 貴様らも薄々勘づいていると思うが、我がドイツはいま非常に重大な局面を迎えている。目下の作戦はベルギーを陥とし、連合軍を国境に沿う形で分断する予定だ。 この大攻勢が成功すれば戦況はまだわからん。未だ極秘裏の情報だが、貴様らも当然その最中に送る予定だ。」


1944年は枢軸、連合軍共に非常に大きな戦闘が起きた時期でもある。


ノルマンディー上陸作戦

バグラチオン作戦

マーケット・ガーデン作戦

ラップランド戦争


そして──────


第二次世界大戦においてドイツの敗北を決定づけた"最後の反撃"


【Unternehmen Wacht am Rhein】

「ラインの守り」作戦


アドルフ・ヒトラー総統自らが立案したとされる大国ドイツの最期の剣。

激戦区の東部戦線からも部隊を下げただ一点、アントワープを最終目標にフランス領アルデンヌを突破する大攻勢。

史実上、これがドイツ最期の反攻作戦であるラインの守りはヒトラー総統と極小数の忠臣達によって進められていた。


1944年時点ですでにギリギリだったドイツ軍は6月、遂にノルマンディーで連合軍の上陸を許し、8月にベラルーシで28個師団を喪失、そしてパリが解放され、最早手の施しようがないほど追い詰められていた。


そんな中で立案されたこの作戦は…お察しの通り、最初から破綻していた。


ジーク「────────Jawohl(ヤヴォール)


作戦概要を聞いたジークの眼に光は無い。

「無理だ」というのが分かっていたからだ。


まず明らかに戦力が足りていない、機甲戦力も歩兵戦力も充足率5割がいいところで攻勢作戦を練るなんて正気の沙汰じゃない。

反攻、突破するにも荒天が味方しないと成立しない、いくらアルデンヌの地形知識で有利が取れるとしても足並み揃えての突破は不可能に近い。


フリッツ「(この局面でまともに戦える軍人がいまどれだけ残ってるんだ…? ハインリヒのいう新型戦車だって間に合うかすら… だが………)」


濁った頭で最大限の可能性を振り絞り、この無謀な作戦の展開を考える。


すぐに頭に浮かんだ兵士の名前はヨーゼフ・ディートリヒ、ヨアヒム・パイパー、エッカート・マントイフェルあとは…生きていればオットー・スコルツェニーの名前だ。


彼等が五体満足で、かつ充足な戦力を与えられていたら…

膠着した戦線に、風穴を開ける事は叶うかもしれない。

だがそれは「何もかもが上手くいった時」だけだ。


V2ロケットの不安定さは当然知っている、ハナの弾頭が如何に強力でもそこについて回る機械的な不安要素が余りにも多過ぎる。


信頼出来るのか?

あれを─────・・・


ハナ「大丈夫ですよ。 …フリッツ・マイゼンブーク大尉。」


フリッツ「!」


不意に名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。

ただそれだけの事なのに、冷え切っていた身体が熱を帯びる。


気のせいでなければ、名前を呼ぶ時、少しだけ声色が柔らかくなったような気がした。


ハナ「ナルヴァでの効果実験で露見したV2発射の機械的不安要素の改善策も対応済みです、発射部隊の方がしっかり対応していただけたら必ず飛ばす事が出来るはずです。」


再び顔を合わせ、彼女と視線を交わす。

真っ直ぐにフリッツを見つめるその目には、はっきりとした自信と、

「私を信じてください。」

という意志が伝わってきた。


フリッツ「……あぁ、わかった。」


その言葉に応じるように、フリッツも力強く言葉を返した。


ハインリヒ「おいおい随分と素直じゃないかマイゼンブーク、私の話もそれくらい素直に聞いてくれたら嬉しいんだが。」


空気が和らいだところでハインリヒがフリッツに語りかける。


フリッツ「黙れ、殺すぞ。」


瞬間、88mm(アハトアハト)の初速より速く、空気が凍った。

本当に同じ人間の反応なのか疑うくらい、その反応は冷ややかだ。

「水を差す」という言葉の通り、一気に温度が下がる。


ハインリヒ「…とにかく、貴様らは無事に任務を果たした。 ノインシュタットは当然だが、貴様(マイゼンブーク)も戦勲を挙げている以上、それに対する報酬をくれてやらねばなるまい。さあ、何が欲しい?」


報酬、という言葉が出てきた時の2人の反応はやはり冷ややかだった。

大戦初期ならまだしもこんな末期に勲章などもらったところでなんの足しにもならないからだ。


とはいえ腐っても上層部(ハインリヒ)に要求出来るチャンスだ、


ジーク「…………勲章と、新しい戦車と…新しい人員を。」


生気のない声でジークが言う。

心做しか、新しい人員を要求する時に少し声が震えた気がした。


ハインリヒ「わかった。 来たる最大反攻に向けて騎兵部隊の拡充は滞りなく行わせてもらう、約束しよう。」


羊皮紙にスラスラと筆を走らせる。

これで手続きが済むというのだから、兵士の命がどれだけ軽いかを改めて実感する。


ハインリヒ「お前はどうするマイゼンブーク。 今日の私は機嫌がいい、他でもないお前の頼みだ、私に出来る事なら"なんでも"叶えてやろう。」


コツン コツンとペンをテーブルに打ち付ける

口元は笑っているが眼が笑っていない。

あの眼をしている時のハインリヒは大抵何か裏がある。


だが、迷いはない。


フリッツ「勲章はいらねぇ。 代わりに北部哨戒基地からオレの部下を招集して欲しい、メンバーはオレが決める。 」


ハインリヒ「…わかった。 他には?」


フリッツ「────────・・・オレの戦車、Tiger Iを直してくれ。 新しい戦車はいらない、アイツで戦わせてくれ。」


その言葉を聞いてハインリヒが満面の笑みを浮かべる

「そうでなくては」と言わんばかりの、邪悪な笑み。


フリッツ「…!?」


この時はまだ気付いていなかった。


フリッツのこの選択が、


自身の運命を決定付けるものだった事に。





ハインリヒ「賭けは"また"私の勝ちだ、フリッツ・マイゼンブーク…!」




第40部 完全なる敗北 完

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