【その先にあるもの】
━━━━━━━━━━━━・・・・ズンッ
ニルギリ「(炸裂音と衝撃波… ここまでは予定通り… あとは…)」
大気の震えが身体を揺らした
問題なくV2が炸裂した証だ
残る問題はその弾頭… 【Seele】が果たして本当に作動するのか
V2の弾頭に装した【Seele】は炸裂と共に電子パルスを撒き散らす、そしてその加害域にある電子機器は魂を抜かれた様に沈黙するというが……
ハナ「… 状況の確認を行ないます、加害圏外に待機中の観測隊に連絡をお願いします。」
観測員「こちら"Vogelhaus"より渡り鳥部隊、観測を開始せよ。行動時間は今より30分を限度とする。」
ジジッ
ザッザザッ…
P1《こちらポジション1。 加害円より北西800m、無線は快調。予定通りのコースを回り、観測に入る。》
P2《ポ ション2 が んより西東500m地 点、無線や 不調。》
P3《 ジシ ン3、加 円よ 西 300m、無線やや不調、行 開始。》
ジジッ
【Seele】の加害圏外で待機していた観測部隊、通称"渡り鳥"が動き出した
とはいえ、やはり無線は普段より快調とは言えないようだ
行動開始の返事にかなりのノイズが混じっている
ニルギリ「渡り鳥が飛び立ちましたな。 …ところでひとつ、質問してもよろしいかな?」
ハナ「どうぞ。 何か気になりましたか?」
真剣な眼差しで静止したナルヴァの街を見つめるハナの隣で双眼鏡を持ちながらニルギリが抱いていた疑問を問いた
ニルギリ「あらゆる電子機器を破壊する弾頭、その加害域に今から渡り鳥部隊が車列を率いて進入しますが彼等の車両や無線は影響を受けないのですか? もし万が一この実験が失敗すれば──・・・」
ハナ「その疑問の答えは"金属"です。 彼等の車両に備えている無線やエンジン、それらおおよそ電子パルスの影響を受け、致命傷を負う部品をそれぞれ別の金属でカバーしています。」
ニルギリの疑念を、ハナの言葉が遮る
ニルギリ「金属のカバー… そんな程度の保護で……」
ハナ「実はパルス自体は鉛や鉄、アルミなどの導体で簡単に遮断、防御が可能ですこの原理自体は英国の研究者マイケル・ファラデーが発見、提唱しています。」
ニルギリ「よりによって英国の技術とは… それでは早々に対策される恐れもあるのでは?」
ハナ「ファラデー自体は1867年に既に死亡しています、仮に英国や米国が【Seele】の特性に気付き、対策を練り、その全てが普及する頃にはこの戦争は終わっていますね。」
ニルギリ「…」
ハナ「【Seele】で敵の情報網、交通を遮断し、無防備になった敵の主要都市や地点を制圧する。【Seele】はその最短ルートをこじ開けるための手段です、結局最後は兵士の、他の兵器の力で道を切り拓く事になりますけどね。」
きっぱりとした強い口調でハナは言い切った
「必ず成功する」という意思と確信があるのだろう
ニルギリ「……先程伺った、この実験が成功し、貴女が本国に帰国した際の話は本当なのですか?」
ハナ「────はい。 私はここで【Seele】を開発、完成させ、交換条件として武器貸与の約束通り同盟国ドイツの六号重戦車を日本に持ち帰ります。 そしてその後、私は────・・・」
「私は、自分の手で、命を絶ちます。」
そう言って少女は、朗らかに笑った
ナルヴァ 市街地
静まり返る、瓦礫の街
そこでは先程まで勇猛な音を立て走り回っていたPantherも、次々と現れたM4 Shermanも、T-34/85も、SU-152も、圧倒的な強さを示したTiger IIも
そのどれもが、まるで魂が抜けたかのように佇んでいた
駐留していた連合軍は無線が使えず孤立
後退しようにも前進しようにも車両は全て沈黙
混迷を窮めた盤上に既に指し手はおらず、ただ駒達が敗着を待っているだけだった
この異常事態に際して連合軍側の判断は…
米軍駐留部隊 「可能な限り兵力を集め、陣地を再構築し車両が復旧次第再度攻勢に出る」
英軍駐留部隊 「機動部隊の帰還、無線復旧を待ち歩兵のみで陣地を固守」
ソ連軍駐留部隊 「陣地を放棄し全歩兵戦力を前進、これを機として攻勢に出る、機甲部隊と合流次第復旧を試みる」
とした
三者三様の判断と作戦立案、各々がそれに向けて動き出したが
もはや………そのどれもが手遅れだった
最初の犠牲はソ連軍
残された歩兵は58人、1個小隊程度の戦力しかない彼等は戦車隊と最後に通信した地点に向けて出発した
そしてその途中…
ギュラ ギュラ ギュラ ギュラ ギュラ …
ギュラ ギュラ ギュラ ギュラ …
ソ連軍分隊長『…全員止まれ!……戦車の音だ、動ける車両があったのか? 誰か確認出来るか、恐らく瓦礫の向こう側にいるはずだ。』
ソ連軍歩兵『双眼鏡があります。』
ソ連軍分隊長『よし、見てこい。 そこの扉から建物に入れる。 もし敵戦車だったら即座に合図しろ。』
歩兵『了解。』
瓦礫を掻き分け、破壊された建物を登る
粉々に割れた窓からゆっくりと慎重に顔を出す
居るとしたらこの先の十字路を越えた向こう側、距離にして約80m…
そこには────
ソ連軍歩兵『────・・・てッ……』
ボッ ゴォンッッ!!
バララッ バララッ
観測手が全てを伝える前に、放たれた砲弾が建物諸共声を掻き消した
ガラガラと崩れる瓦礫と歩兵達の叫び声
降り注ぐ破片から頭を守りつつ分隊長が瓦礫を踏み越え、再び通りを見る
分隊長『────ッ!』
ひと目でわかった、
自国の戦車それではない形状の車体と、砲
明確な殺意を孕んだ砲塔が、真っ直ぐにこちらを見ていた
確信する、
あれは"敵"だと
分隊長『 敵 戦 車 !! 』
ボッ! ドンッ!!
バラララララッ バララッ
静寂を切り裂き、砲声と機銃の掃射音が路地に響き渡った
歩兵『くっそがぁ!なんで敵の戦車だけ無事なんだよ!!』
歩兵『戦車の種類はなんだ!!虎(Tiger)か豹(Panther)か!?』
分隊長『どれでもない、あれは確か…そう、四号戦車だ!型式まではわからんが野砲の配置位置まで誘い込んで叩けばなんとか────・・・』
ドンッッ!!
ガシャアアンッ ガラガラ…ッ
歩兵『また榴弾だ!ヤツら最初から生身の人間を狙ってやがる!こっちが戦車を使えないのを知ってるのか!?』
分隊長『どのみち見つかった以上は追ってくる!後退しつつ野砲陣地に引き込むぞ!随伴歩兵との戦闘に備えろ!!遮蔽物を利用しろ!怯むな!!』
突然の、しかも予期せぬ戦車の出撃に狼狽えるソ連兵達を一喝し後退を指示する分隊長
しかしそれは余りにも「当然の」判断過ぎた
アルフレート「遅い。」
分隊長『────2両目…だと…!?』
歩兵『挟み撃ちです!逃げ道が………ありません!!』
歩兵『撃て撃て撃てぇ!!』
歩兵『Урааааа!!!!!!』
パァンッ パァンッ
キンッ カキンッ
バラララララッ
カキキキキン
退路に現れた2両目の四号戦車にパニックになるソ連兵
ある者はTT-33拳銃を抜き、ある者はPPSh-41短機関銃をばら撒き
またある者は倒れた者が持っていたモシン・ナガンライフルを手に取り必死の抵抗を試みた
当然、歩兵の小銃程度で四号戦車の装甲が抜けるハズもなく…
アルフレート「ゴミ掃除だ、装填手、弾種そのまま。 Feuer」
ズドンッ!!!
退路を塞がれ恐慌状態になった歩兵達を43口径75mmのSprgr.34榴弾が文字通り木っ端微塵に吹き飛ばす
アルフレート「照準そのまま。 動くモノが無くなるまで撃て、機銃もだ。」
ズドンッ ガコッ ズドンッ ガコッ …
バラララララッ バララッ バラララララッ …
……
…
会敵から5分を待たずにソ連軍歩兵小隊は全滅した
58人いたハズの兵士達のうち、人の形を留めていたのはほんの数名程度
アルフレートの言葉通り、動くモノは皆無だった
アルフレート「通信手、観測拠点に"P3、ソ連軍と交戦、機甲兵力無し、損耗無し、このまま予定通り観測と掃討を継続する"と通信しておけ。」
通信手「Jawohl」
ギュラ ギュラ ギュラ ギュラ
再び沈黙した街を闊歩するのは今回の【Seele】の加害観測の為だけに編成された特別観測部隊"渡り鳥"の駆る中戦車、戦中ドイツ軍で開戦から終戦まで戦場を駆け抜けた名戦車 Pz.Kpfw.IV(四号戦車)そのG型装備だ
観測用の編成で一部隊4両と少ないが、敵に戦車がいないとわかってれば恐れることはない
そして部隊長アルフレートが率いるP3(ポジション3)地点部隊、【Seele】加害半径に最も近くからスタートした彼等が真っ先にソ連軍と会敵、排除した形になった
アルフレート「Panzervor」
号令と共に再び四号戦車が動き出す
沈黙した街で"渡り鳥"達の蹂躙が始まった
…
イルマ「…砲音… 始まったんだ…」
エンジンが停止し、徐々に低下する気温に震えながらイルマが呟く
車内にいても息が白い、外は本格的に雪が降り始めているだろう
フリッツ「(ガキには厳しい寒さだな… エンジンは回らねぇし、このままだと凍死しかねないか…)」
幾度の戦場をくぐり抜けてきたフリッツにはわかる、冬季戦の恐怖
雪による車両のスタック、視界不良、体温の低下からくる判断力低下…
早めに何とかしたい、が…
フリッツ「(SU-152の搭乗員… あの男について来てなかったところを見るとまだ車両か、もしくは外か……)」
ナボコフが乗っていた車両の搭乗員が見えてない
車長が出てからこれだけの時間帰ってこないなら搭乗員は最悪の事態を察しているはずだ
…仕掛けて来るか、もしくはもう既に────────・・・
フリッツ「……少し出る。 20分で戻らなかったら死んだと思え。」
アレクシス「待てマイゼンブーク!また逃げる気か!?」
白い息を吐きながらアレクシスが吠える
警戒されるのは当然だろう、ハインリヒの飼い犬であるコイツはそうそうフリッツから目を離していられない
それこそ本当に逃げられたらハインリヒに何されるか分かったもんじゃないだろう
フリッツ「…ふー… じゃあお前も来い。 P08持ってただろ、自分の身は自分で守れ、ガキのお守りはごめんだ。」
ガチャ
ジャコッ
フリッツは車内に積んでいた白兵戦用のMP40を手に取った
弾倉は32発が3本、無駄撃ちしなければ恐らく大丈夫だろう
渋々だがアレクシスも連れて行くことにした
…正直邪魔だ、下手に動かれて死なれたらハナの居場所を聞き出せない
フリッツ「頼むから足だけは引っ張ってくれるなよ、お坊ちゃん。」
アレクシス「馬鹿にするな!白兵戦のひとつやふたつ、こなせないと思ったか?」
フリッツの言葉に噛み付くアレクシスに「あーうるせぇうるせぇ」と眉を顰めながらゆっくりとキューポラを開ける
目の届く範囲に敵の姿は見えない
「行くぞ」と声をかけ、2人は外に出た
敵車両の大まかな位置は把握している、この感じだと向こうもエンジン停止で動いていないだろう
…だが経験上、連中はこうなってからが厄介だ
練度自体は大した事ないが白兵戦時のソ連兵は一言で言うなれば"異常"だ
脳から何かヤバい物質が出てるのかわからないが
MP40の9mm弾で手足を貫かれても平気で突っ込んでくる
迂闊に間合いを詰められたら非武装でも命の保証が出来ない
フリッツ「(思ったより降雪が多いな… 足跡が残っちまう…)」
ざすざすと足元にくっきり残った足跡をかき消すが、いちいち消しながら進む訳にもいかない
なるべく早く周囲の安全確保を確認して火を焚かないと車両に残した奴らが凍死してしまう
それに…
────────・・・ドズンッ…
フリッツ「(さっきから聴こえるこの砲音… Pz.IVの砲音だな… 数は多くないが四号しかいない編成… コイツらが言う"渡り鳥"ってのはいったいなんなんだ…?)」
先程から聴こえるこの砲音…
聞き慣れた四号戦車の75mm砲の音が静まり返った街に響いている
アレクシスやイルマ曰く"渡り鳥部隊"らしいが、フリッツからすれば編成の意図も何故動けるのかも全くわからない
考えれば考えるほどキナ臭さを感じ、脳裏にあのクソ野郎の顔が過ぎる…
フリッツ「……もうすぐ敵の車両が見えるはずだ。 オレが瓦礫の先から確認する、お前は周囲の警戒を怠るな。」
アレクシス「…命令しないでください、言われなくても、そうするつもりでした。」
積まれた瓦礫の先に恐らくSU-152がいるはずだ
Tiger IIと同じ条件で停止してるなら奴らも主砲は使えない、仮に撃てたとしても固定戦闘室の性質上、主砲の向きさえ留意していれば当たることは無いだろう
問題があるとしたら……
フリッツ「……ふー……」
小さく息を吐き、気を落ち着かせる
瓦礫を1歩、2歩と登り、ゆっくりと顔を出す
そこには────
第36部 その先にあるもの 完




