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【混迷の盤上】


しゃぼん玉 飛んだ


屋根まで 飛んだ


屋根まで 飛んで


弾けて



消えた



中央部 南側


ギュラギュラ ギュラギュラ ギュラ

ベキベキ パキッ…


イルマ「…渡り鳥、5両が目的地に到着。 "陽が昇る"まで後20分です。 隊長、我々はどうしますか? ……隊長?」


静まり返った瓦礫の街をTigerIIが進んでゆく

四肢が千切れた兵士を踏み潰し

燃えるCromwell戦車を押し退けて次の獲物を捜している


アレクシス「………………………………」


フリッツ「……………………………………」


無線でHitlerJugend(ヒトラーユーゲント)の潜入部隊が西側の目的地に着いた事を伝えるも、アレクシスもフリッツも返事をしない


『Seele』の発動まであと20分

あれが発動すればTiger IIにも影響がある筈だ


HitlerJugend(ヒトラーユーゲント)は任務を果たした

なら我々はどうする?


援護無しの戦闘継続はリスクが高い

潜入部隊が抜けたいま、第8SS騎兵隊の残存戦力だけで街に潜む連合軍の相手は難しいだろう


つまり……


アレクシス「…マイゼンブーク、今の状況は?」


フリッツ「…オレ達は中央部から南に逸れた。 西側にはイギリスとソ連の連中が展開してるから突破が容易な南側をお前は選んだんだろうが、馬鹿正直すぎたな。 相手にルートを読まれてたらしい、挟まれてるうえに、どう見てもありゃ奴らの主力だ。 」


イルマ「────・・・え?」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

ギャギギギギ!


ロト『………………………』


ドルンッドルンッ ドッドッドッドッ

メキメキッッ ガゴォンッ!


ナボコフ『………………………』


正面11時方向に現れたのはイギリス軍機動部隊"TheRoyalKnights(ロイヤルナイツ)"

ロト=マクギニス A30 Challenger(チャレンジャー)


後方7時方向 ソ連軍 特務戦車部隊"патриот(愛国者)"

ナボコフ=ジェレズノフ SU-152

クレイグ=キベリエフ T34/85


双方相対距離 約500yard(457m)


絶対絶命とは正にこの事

理想的な必死の状況だ


相手がCromwellやM4なら突破出来るだろうが、この状況はそうはいかない

いまフリッツ達を挟んでいる戦車達はどちらもTiger IIを撃破する可能性が極めて高い戦車だ

どちらか一方を何とかすればいい、という問題じゃあない


この道路は緩やかにカーブしているが

雑多な瓦礫の山しか遮蔽物が無い以上、隠れる場所も無ければ前進も後退も出来ない


既にこの時点で、ほぼ詰みである


アレクシス「ふ…ふふ…! まぁいいさ、僕達は立派に役目を果たした! 渡り鳥達は目的地に着き、僕達だってあんなに敵を殺した! 僕達は英雄だ!」


イルマ「(英…雄… そうだ… これだけ戦果を挙げれば僕達は英雄になれる… 憧れていた英雄になれるんだ…)」


絶望的な状況で、思考を止めるアレクシスとイルマ

死んでから英雄として持ち上げられるケースは第二次世界大戦ではよくある事だ


二階級特進、英雄勲章、後世に遺る名誉と名声

当人の命と引き換えに、身に余る程のモノを手に入れる


アメリカ軍のM4中戦車、歩兵

イギリス軍のCromwell巡航戦車

対戦車砲や野戦砲……


数え切れない戦果を挙げ、アレクシスは満足していた

「英雄になれる」という夢を見てしまった


それはつまり、

「生きる事を放棄した」という事だ


ふ、と緊張感が抜け

空気が緩んだ車内


フリッツ「………馬鹿共が………」


──────・・・・・ガドオォオンッッッ!!!

ガシャアアアアアンッ ガラガラ


その空気を裂く、71口径88mm砲の一撃

放たれた榴弾が砲口の先にあった集合住宅に風穴を空け、瓦礫と共に家財や衣服が宙を舞った


何故かその行動にロトもナボコフも反応せず

不思議と、敵部隊はその様子をただ見ているだけだった


アレクシス「な…ッ!?」

イルマ「……!」


フリッツ「…いいか、よく聞けガキ共。 英雄なんて幻想だ、死んだら全員ただの肉の塊、つまり死体だ。 勲章なんて戦場じゃこれっぽっちも役に立たねぇし、名声なんていつか忘れられる。 死んで英雄になりたいなら今すぐ戦車から降りて、勝手に死ね。」


カコォンッ カラカラン

ガコッ!


車内にフリッツの淡々とした言葉だけが反響する

薬莢を捨て、固まる装填手を横目に自力で徹甲弾を装填しながら言葉は続く


フリッツ「…さて、と。 降りねぇならこのまま付き合って貰うぜ? そら、車長交代だ。 お前が砲手に付けアレクシス。 悪いがオレは生きて帰る、お前らが英雄になるのはまだ早い。」


アレクシス「な…ッ! 戦うのかッ!? もう詰んでるじゃないかッ! この状況で戦うなんて馬鹿げてるッ!」


イルマ「…………指示を、お願いします。」


アレクシス「イルマッ!?」


フリッツの言葉に反論するアレクシス

それに反してイルマは力強く応えた


一時は諦め、絶望的な空気が漂ったが

フリッツの「生きる意志」が若い戦車兵達の意識を繋ぎ止めた


【Seele】発射まで、あと10分


フリッツ「いい返事だ。 まずイルマは通信回線(バンド)Fに『突っ込め』って指示を送れ、恐らくオレの予想では2分くらいだと思うが…」


イルマ「? はい… 《こちらTiger II、"突っ込め" 指示は以上、"突っ込め"》…これでいいですか? 意味がわかりませんが…」


言われた通りに無線を回線(バンド)Fに繋ぐ

特に返事は無いが、これでよかったのか、とイルマは首を傾げる


アレクシス「(全く意味がわからない… 何を待ってるのか知らないけどその前に敵から撃たれたら一巻の終わりだろう… ん…?)」


2人の会話を脇目に砲手座に着き、照準器を覗くアレクシスがある事に気付いた


それは───・・・・


アレクシス「イギリス軍の戦車… 余所見してる…? なんで…?」


驚いた事に、ロトが載るChallengerの車体と砲塔がゆっくりと右に回転している

つまりTiger IIから照準を外したのだ

撃てば確実にこちらを仕留めれる状況なのに────・・・


フリッツ「わからねぇか、なんでオレがさっき榴弾を撃ったのか。 あれは『合図』だ、"あいつ"なら膠着した盤面を打破出来る。 …思ったより早かったな、待ってたぞ騎士様(ナイト)! …操縦士! 合図と共に全速力で2時方向の民家に突っ込めッ!! ……来るぞッッ!!!!」


ガガガガガガガッッ!!!!

ガッシャアアアアアアッ!!!! ズドッドオォオンッ!!!!!!


履帯が瓦礫を激しく砕きながら

物凄いスピードで何かがChallengerに体当たりした

間髪入れずに両車が主砲を放ち、街中に響き渡る


体当たりしたのは見慣れた鈍鉛色の車体、長砲身の75mm砲

そして、砲塔に描かれた剣と馬の徽章(インシグニア)


あれは紛れもなく……!


アレクシス「第8騎兵隊のPantherッ!? 馬鹿な…これを狙ってたのかッ!?」


イルマ「Panther、敵車体に衝突ッ!! 無線、繋がってますッ!!」


フリッツ「そいつはお前に任せたぞジークッ!!!! 操縦士、全速前進ッッ!! Panzarvor(パンツァーフォー)ッッ!!!!」


ジーク『うあああああああああッッ!!!!!!』


状況が瞬く間に一変した


フリッツの合図に素早く反応した操縦士は前進し、Tiger IIは民家の壁を粉砕しながら進んでゆく

無線からは金属同士がぶつかる音とジークの絶叫が聴こえ、イルマは呆気に取られている


誰が、これを予想出来ただろうか


イギリスのCromwell部隊は駆逐戦車と孤立した部隊の処理に回り

ナボコフとクレイグは途中で追撃を止め、フリッツを追った

そう、つまり『ジークは誰からも相手にされていなかった』のだ


少なくともフリッツはイルマの無線に耳を傾けながら状況を把握していた(が、ジークが助けに来るかは賭けだった)ので位置情報を送る為にあの時、民家に榴弾を撃ったという訳だ


そしてもうひとつの要因、これは純粋に心理戦だ

ロトとナボコフの思考をどこまで読み切れるか、フリッツは賭けた


Tiger IIを中心に緩やかなカーブがあり、遮蔽物がほとんど無い直線道路

その双極位置に主力級の戦車が向かい合っている

もしも僅かに照準が逸れたら… もしも跳弾したら…

もしも万が一回避されたら───・・・・


あの決定的なチャンスに2人の戦車兵はこう思っていた


ロト『(APDSで正面装甲を貫こうにもこのカーブが厄介だ… 入射角によっては跳弾も有り得る… だが砲塔旋回、再照準の時間は無い、このまま撃たなければならないが、もし万が一があれば正面で相対する我々が真っ先に反撃され、死ぬ。)』


ナボコフ『(虎を追い詰めたのはいいが… 射角がギリギリだ、さっきみてぇに不発だ跳弾だなんだとやってる間に距離を詰められれば殺られるのはオレ達だ…)』


ロト『(────早く撃て、ロシア人…!)』

ナボコフ『(さっさと撃てよイギリス人…!)』


…万が一の、その『恐怖』を、フリッツは痛い程理解している

長いこと戦場にいた経験からか、この手の状況は何度か経験していた

一手刺し違えれば命を落とす、その恐怖を


フリッツ「隣の通路に出たら砲塔回してSU-152とT34を迎撃するッ!! 反撃に出るぞッ!!!!」


イルマ「Jawohl(ヤヴォール)!!」

アレクシス「Ja… Jawohl(ヤヴォール)ッ!!」


盤上の(キング)騎士(ナイト)によって窮地を脱した

敵の教皇(ビショップ)城塞(ルーク)は足並みを乱し、戦局が大きく揺らぐ



そして、遂に────・・・・・




ハナ「発射準備を。 予定通り、あと5分後に【Seele】を打ち上げます。」


ハナの声と共に森の発射部隊が一斉に動き出し、瞬く間に打ち上げの準備が完了する

【Seele】を搭載したV2が立ち上がり、空を睨む

整備兵も発射部隊も全力を尽くした

あとは神に祈るだけだ


ニルギリ「…発射まで、あと2分… イチノセ少尉も安全圏まで下がったほうがいいかと。 いかに整備が万全でもV2が地表で炸裂すれば────・・・」


ハナ「大丈夫ですよ。 作戦は必ず成功します。 …ほら、お日様も出て来てくれました。 …さぁ、征きましょう! 私達の道は! ここから始まります!!」


バッと手を挙げ

ハナが声高らかに叫ぶ


その声に充てられ、兵士達も沸き立ち、吠えた


全行程終了(オールクリア)

燃料に点火し、V2が轟音を上げてゆっくりと

その巨体からは想像も出来ないほどゆっくりと打ち上がった


ニルギリ「(V2はここからが鬼門…! 失速や不備による墜落かあれば全て水の泡になる…!)」


安全圏に下がったニルギリが固唾を飲んでその様子を見守る

実際V2は打ち上がってからの事故も多い

真上に上がって真っ逆さま、燃料引火で爆発なんて件もあるくらいだが……




ハナ「────神仏、照覧────ッ!!!!」




【Seele】が曇空に消え、静寂が森を包む


打ち上げは────・・・・・




第33部 混迷の盤上 完

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