【踊る喜劇人形】
同時刻 街の西側
ギャギャギャ ギャギャギャッ
────…ッドンッッ!!!!
ジーク「…外したッ!! どうやら相手も機動戦が得意らしい、合流地点付近で戦闘は避けたいッ!! ここで仕留めるッ!!」
風を切りながらPantherをはじめとする戦車隊が街を駆け抜ける。
時には縦隊、時には横隊など臨機応変に隊列を変えながら機動部隊は西側合流地点に急いでいた。
しかし目的地まであと僅かと迫ったところで
ジーク達の前に敵部隊が立ち塞がる
ここまで少しの間しかやり取りをしてないが、敵はかなり腕前がいい
ウィル『隊長ッ!! 敵はイギリスの巡航戦車ですッ!! ここは我々IV号が………ッ!! ッ…ぅおッッ!!!!』
…ボッ!!!!!!
───…キュンッッ!!!!!!
ズゴンッッッ ガシャアッアッ!!
ジーク「なん…だ…ッ!? 今の音…は…ッ!!」
無線越しにも、その『音』は鼓膜に響いた。
というより、ジークは「それ」を見た。
建物の壁を砕き、
硝子を、家具を撃ち抜き、
奴は数100m先の建物越しにこちらを攻撃してきた。
ぽっかりと開いた風穴から見えたそれは、
ジークの戦役の中で初めて相対した戦車───
ジーク「────…敵戦車ッ!!新型だッ!!!」
ロト『──こちら隊長機、敵部隊を捕捉した。 ポイントF2-H8。 全車両、仕掛けるぞ。 狩りの時間だ。』
縦隊を真っ直ぐに貫いたのは、
イギリス巡航戦車 ChallengerA30の17pdr砲。
Tiger IIと同等…
或いはそれを凌ぐ貫通力を持つ特殊な砲弾、APDS弾を使用する最新型の主砲だ。
ベース車体のCromwellより機動力は落ちるもののそれでも速い。
似たような特性のPantherだが、
果たして勝てるかどうか。
ジーク「全車両散開ッッ!!!! 敵戦車の詳細は不明だがやるしかない、今こそ第8騎兵師団の力を見せてやれッ!! Angriffッッ!!!!!!」
ドドドドドドドドドッッッッ!!!!!!!!
エンジンが全力で回され、唸りをあげる。
Panther、IV号、Tiger Iがそれぞれ散開し、機動戦を挑む。
敵は英国軍エース戦車兵
ロト=マクギニス
対するは第8SS騎兵師団隊長
ジーク・ノインシュタット
戦況は目まぐるしく、火花の様に変わってゆく
そして────…
ドンッッッ!!!
ドンッ!! ドゥンッ!!!!
キュ────ンッッ
ガゴオンッ ガラガラ…ッ
クレイグ『…大佐ぁッ!!!! 糞蝿を見つけましたッ!!!! アイツら大通りから西側の路地を走ってやがりますッ!!! 撃ちますかァ!? いや、すんまッせん!!!もう撃ってましたァッ!!!』
ナボコフ『殺せーッ!!!! がっ…ゲボっ! ッハ…ッ!! 視界に入った虫螻は全部殺せーッ!!!! 皆殺しだ、皆殺しィ…てめぇら全員ッ!!!皆殺しだああああああッッ!!!!!!』
ズドオオオオオンッッッ!!!!!!!!!!!!!!
ガラガラガラガラッ
ガシャアンッ…ッ
右の斜向かいから現れたのはソ連のT34/85型中戦車と
ナボコフが乗るSU-152だ。
数は5両(うち中戦車4 駆逐戦車1)
エンジン音を聞きつけてこちらに流れて来たのだろう。
特に照準を確認するまでも無くナボコフ達はデタラメに砲撃し、ただ適当に建物を砕いた。
砲火の嵐、
破壊そのものが意志を持って突き進んで来る。
瓦礫が車体に降り注ぎ、視界が煙る。
辛うじて見えた左折路を、Pantherは大きく車体を傾けながら駆け抜ける。
ジーク「くそッ!! 無茶苦茶しやがるッ!! あの152mmの射線に入るな、土煙が立ってるうちに別のルートを取るぞッ!!」
ギャギャギャッ
ガコンッ ガタガタッ
ナボコフ『クレ────────イグッッ!!!!!!』
クレイグ『Огонь(アゴー二)ッ!!!!!!』
ドガンッ!!!!
ドンッ!!!! ドムッ!!!!!!
ボンッ ボムンッ ドゴォンッッッ
次々と放たれるT34/85の砲弾が街を壊してゆく。
狙いを定めている気配は無い、
適当に、装填完了と同時に撃っているだけだ。
────…ヂュギィッンッ!!!!
ガガンッ…ッ
ガチャン ガチャンッ
ジーク「…ッ!! 被弾した、だが工具箱が飛ばされただけだッ!! ソ連の連中も混ざってる、各車両厳重に警戒しろッ!!!! …くそ、マイゼンブークは陽動に失敗したのか…ッ!?」
クレイグの放った砲弾が、Pantherの車体に置かれた工具箱を弾き飛ばす。
キューポラの隙間から後方を見るが、ソ連の部隊はこれ以上追って来ないようだ。
(自分らで崩した瓦礫に阻まれてしまった)
ふう、と大きく息を吐くジーク。
例の152mmが現れたのは想定外だったが、
なんとか無傷で潜り抜けられたのは幸いだった。
…気になるのは、中央に残ったフリッツ・マイゼンブークの動向だ。
あれから全く無線連絡が無い、こちらの報告にも応えなくなったが、何か機械的なトラブルだろうか?
いや、だが考え方を変えれば、ある意味ここからは「第8騎兵師団」として戦える。
ジーク「マイゼンブークからの通信が回復するまではまたオレが指揮を執るッ!!…乱戦になるぞ、各車両厳重に警戒しろッ!!」
無線越しに、味方部隊からの返事が返ってくる。
…今のところやられた奴はいないようだ。
ただ…
やはりフリッツ車、Tiger IIは返答が無い…
ジーク「(どうしたんだマイゼンブーク…ッ)」
不穏な空気が漂うなか
時計の針は着々と進んでゆく
【Seele】発動まで、あと1時間30分
………
……
…
一方その頃 街の中央部 フリッツ車
ドッドッ ドッドッ ドッドッ…
フリッツ「ふー… ……おらッ!!!!」
ガドォオンッ!!!!!!
────…ボンッ ボンッ シュボボッボッッ
アレクシス「敵車両破壊、これで5両目だぞ…ッ!? どこからこんなに湧いてくるんだ…ッ!? ────…また出た、M4 Shermanだッ!!」
Tiger IIの71口径88mm砲が火を噴き
間を開けずして眼前の敵中戦車が爆散する
フリッツ達の前に立ち塞がるのは、アメリカ軍のM4 Sherman中戦車。
程々に纏まった性能を持つ『汎用中戦車』としてアメリカの機甲戦力を担う大ベストセラーだ。
様々なバリエーションの砲や車体があるが、
残念な事にそのどれもがTiger IIには及ばない。
元々Tiger Iを1両撃破するのにも多数の犠牲を払う前提が必要なM4が、極近距離とはいえ倍以上の火力と装甲を持つTiger IIに真正面からぶつかって勝てる要素はほぼ無いのだが…
イルマ「あと1時間半… 隊長、『渡り鳥』達も戦闘に入りました。 先程報告されたソ連、イギリスの戦車隊は西側に展開した模様です。 …どうしますか?」
アレクシス「…どうもこうも、僕達はここで敵を引き付けるだけだッ! 渡り鳥達には任務遂行を最優先させろッ!! …ほらほら!敵正面ッ!! Panzergranateッ!!」
────ガヂィンッ!!!!
ヴゥ───ンッッ…ッ
敵の56口径76.2mm砲の徹甲弾が真正面からぶつかるが、
Tiger IIの傾斜装甲がそれをことごとく無力化し、砲弾は遥か後方に滑り飛んでいった。
…M4に始まった事ではないが、
アメリカ軍の『物量』による攻撃力の高さは世界最強クラスだ。
兵士の数も、それらが持つ銃も、彼らを運ぶ船やトラックも、
果ては戦車や戦艦すらもその高い生産力で造り出し、物量で敵を圧し潰す。
アメリカ軍の厄介さは、この『数の多さ』にある。
工業力は高いが生産数に乏しいドイツにとって、相性は「最悪」とも言える。
現にこの小さな街にどれだけの戦車が配置されているのだろうか。
先程から5両も撃破したのに視界から別のM4と随伴の兵士達が消える事は無い。
ガッドォオンンンッッ!!!!
ボキュッ … ガンッ…ッ!!
ビチッ ビチャチャッ…ッ パァンッ……ッ
再び88mmが路地角にいたM4に襲い掛かる
放たれた徹甲弾は120yard(約109m)という距離で、防御姿勢(車体を斜めに構えて擬似的に装甲圧を増す技術)を取ったShermanの車体をいとも容易く貫いた
挙句その砲弾は被弾点から車体後部までを完全に貫通、弾薬庫を吹き飛ばし、
後方に控えていた歩兵6名諸共、一瞬で挽肉に変えてしまった。
フリッツ「────次ッ!」
アレクシス「ふ…ははは!凄いぞ、さすがTiger IIだ…!そうだ、このまま…このまま前進して敵を蹂躙しようッ!! 被弾したって構わない、どうせ奴等の弾は僕達のTiger IIには通用しないッ!!」
だがその数すらも、虎の王には無力だ。
フリッツは次々と現れるアメリカ軍の兵士達を屠っていく。
一方的な殺戮…
圧倒的な暴力による蹂躙は徐々にその勢いを増してゆく。
…これはまぁ「よくある話」だが
いつの時代も過ぎた武器は使用者の自信を増長させる
「自身は無敵だ」「自分を倒せるモノは無い」と冷静さや正常な判断を欠いてしまう。
厚い装甲が敵の弾を弾き、
88mm砲は全てを貫く。
────…無敵だ、何をしても敗けることは無い。
実際、Tiger IIはそれが出来る。
…出来るが、それは搭乗員が熟練で、いかなる時も冷静で居れる強い精神力がある場合の話だ。
冷静に今の戦況を見てみよう。
現在中央部で戦っているドイツ軍はTiger IIのみ。
対して敵は目の前にいるだけで戦車4両と兵士15人、
複雑に入り組んだ路地を歩兵に潜られ、側背面を取られればTiger IIとて無傷では済まない。
致命的な弱点である背面は放棄されたTiger Iが塞いでいるものの防御壁としての信頼性は低い、下手すれば即座に突破される可能性すらある。
故にその場を動かず、
固定砲台、駆逐戦車の様に戦って時間を稼ぐハズだったのだ。
しかし、
敵の攻勢を捻り潰し、蹂躙する事を快感として覚えてしまったアレクシスは愚かにも前進を選択した。
これこそが過ぎた武器を持った愚か者の陥る失敗。
「慢心」である。
第31部 【踊る喜劇人形】 完




