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【断崖の城(ルーク)】


ギュラギュラ ギュラギュラ

ゴガガガゴゴガガッッ!!


ジーク『Feuer(フォイア)ッ!! 直撃を恐れるな、足を止めるなッ!! 騎兵師団の誇りを見せろッ!! 我々はこれより街の西側を制圧、確保するッッ!! Marsch(マルーシュ)ッッ!!!!』


────…ッズンッ!!!!

──ゴォン


フリッツ「路地の角や死角に気を付けろ、敵の兵力は未知数だ。 駆逐戦車以外にも必ず戦車が潜んでる、歩兵にも留意しろ。」


徹甲弾が煉瓦を砕き、

土煙の中を戦車隊が進んでゆく。


フリッツの報告を受けたジークの判断で、第8SS騎兵師団は街への突入を敢行した。


現時点で間違いなく『敵』と確認出来たのはソ連軍のみ。

しかも大口径砲…152mm砲持ちの駆逐戦車がいる。


曲がり角や一直線の道路では即死する危険を伴うが一番恐ろしいのは敵に『自走砲』がいた場合の飽和攻撃だ。


駆逐戦車と自走砲は何が違うのか。


それは「運用方法の違い」だ。


堅牢な装甲を持ち、対戦車戦闘をこなす駆逐戦車とは違い自走砲は最低限の装甲と高い火力を有し長距離・高弾道から無数の砲弾を無差別に叩き込む。


もしあのまま街の入口で強固な足止めを食らえば自走砲の制圧射撃が襲ってくるのは明白。

122mmや150mm級の榴弾や徹甲弾が真上から絶え間なく降り注ぐなんて考えたくもない。


ならばリスクを冒して街に入り、機動力を活かした戦術のほうが一方的に嬲られる可能性は低い。

幸い、機動力に長けたPantherやPz.IVが主軸の騎兵師団(ジークたち)はこの手の戦いに慣れている。


問題があるとすれば──…


ジーク『…マイゼンブーク、大丈夫か? Tiger IIの機動力でこの戦法はキツいだろうがなんとか着いてきてくれ。』


重量が重く、足回りの機械的信頼性の低いTiger IIが機動戦闘に着いて来れるかどうか…


絶大な破壊力を持つ71口径88mm砲も、その巨体と足の遅さも相俟って市街地戦では不利になる。

これがTiger Null(ヌル)なら、同じ火力をTiger Iのサイズで取り回せるのだが… 贅沢は言えない、防御力はTiger IIのほうが圧倒的だ。


フリッツ「…お前に心配されると、どうにも鳥肌が立つからやめろ。 …ところでお前、チェスは得意か?」


フリッツはジークの不安をものともせず、

街の中央に続く一本道に陣取っている。


そこは一番危険な位置、

遮蔽物の無い一直線。


ジーク『…チェス…!? 嗜む程度ならやった事はあるが… いや… それよりお前…まさか単独でその直線を塞ぐつもりか!?』


フリッツ「…嗜む程度か、まぁいい。 …本車両はこれより微速前進し市街地中央を脅かすッ!! お前らはお前らの仕事を全うしろッ!!」


咽頭マイクを押さえながらフリッツが叫び、

Tiger IIがゆっくりと前進する。


…実のところ、先程のSU-152の攻撃で操縦手(ドライバー)が深手を負ってしまった。

頭を強く打って額が割れたがなんとか止血出来たのだが呂律(ろれつ)が怪しく反応も鈍い。

脳に損傷があれば、もう助からないだろう。


よって、複雑な機動戦は不可能と判断し、フリッツは微速前進による浸透攻撃を選んだ。


その姿はまさに鋼鉄の城塞。

チェスの駒でいうなれば、castle(ルーク)そのものだった。


ジーク『機動戦闘じゃないのか!? ──…あぁくそッ!! そこまで言うならお前が指示を出せッ!! 敵の位置、国籍は発見次第お前に流す!! かなり頻繁に無線を使うぞ、頼んだぞマイゼンブークッ!!』


半ば投げやりにジークから無線が入る。


機動戦闘と言えば微速前進

西側攻めと言えば直線封鎖


意見が合致しないうえにジークは機動戦闘中に膨大な情報から適切な作戦を立てることは難しい。


ならば、位置の掴みやすい中央から指示を出せるフリッツに指揮を譲るほうがまだ落ち着いて戦える可能性がある。


立体把握感(ソリッドセンシング)の差で時計台の狙撃手に気付けなかった負い目もある。

ここは奴の経験則を信じるしかない…!!


フリッツ「…全車両、こちらTiger II あー………チッ…こちら第1SS装甲師団所属のフリッツ・マイゼンブークだ。 これより全体の指揮を執らせてもらうが、あくまでこちらの作戦思考は敵の殲滅に偏重する。 無理なら無理と言ってくれて構わない。」


咽頭通信機(タコホーン)を押さえ、フリッツが告げる。


相手の戦力はおろか、街の道路状況すら把握出来ていないが…やるしかない、

手負いの搭乗員達を護れるのは『最強』のTiger IIとオレの戦術だけだ…


…深く息を吸い、吐く。


やるしかない。


敵を殺し、皆を護る。


全員、生きて帰るんだ、今度こそ────…ッ!!!!


フリッツ「────…行くぞッッ!!!!」


ドギャギャギャギャギャッ!!!!

ドルンッ!! ドッドッドッドッドッドッ!!


作戦開始の合図と共に西の方向でエンジン音が鳴り響く。


ジーク率いる機動部隊の役目は『威力偵察』と本来の任務である『味方の支援』だ。

足を止めずに如何に戦い、情報をフリッツに渡せるかが作戦成功の鍵になる。


ソ連軍だけなのか、

イギリス軍やアメリカ軍もいるのか、

はたまた連合軍混成部隊か…


こちらの手駒は20両。


正規のチェスとは勝手が違うが戦車戦に於いても投射戦力優劣(マテリアルアドバンテージ)有利位置確保(ポジショナルアドバンテージ)の原則は変わらない。


如何に速く発見し、如何に速く撃ち取るかが勝負だ。


序盤の原則は中央支配、その役目はフリッツが担う。


散開し、進行する騎兵師団のエンジン音を聞きながらフリッツは目を閉じた。


………

……


ナルヴァ近郊の街外れ 連合軍陣地


ドルンッ ドルンッ!!

ボボボボ ボボボボ…ッッ


イギリス兵『友軍より敵発見と報告あり、先行したソ連軍ナボコフ・ジェレズノフ大佐がナチスの戦車部隊と戦闘、一両撃破の後に後退した模様。 正確な数は不明です。』


街外れに駐留していたイギリス軍に敵発見の報が入ったのは

ナボコフがPz.IVを撃破してから24分後の事だった


この街にいるイギリスの部隊は極僅かだが、戦力ではろくな訓練を受けずに兵士になったソ連の随伴歩兵や搭乗員より遥かにマシだ。

それなのに即座に情報を回さないとは… 余程自信があるのか舐められているかのどちらかだろう。


ロト『何処までも気に食わない男だ… あれだけデカい口を叩いて雑魚一両とはな… 全員乗車、ソ連の愚鈍(のろま)共に我々のやり方を見せてやれ。 指揮はオレが出す、ついて来い。』


ォオンッ!! ォオオンッ!!

┣¨ッ┣¨ッ┣¨ッ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッッ!!!!


凄まじい音と共にミーティアエンジンが唸りを上げる。

率いるのはイギリス軍巡航戦車部隊(ロイヤルナイツ) 隊長ロト・マクギニス。


奇しくも「あの日」フリッツと共にナボコフと戦ったイギリス軍の隊長が、今度はフリッツの敵として相対する。


そして…

あの日、イギリス軍が運んでいたモノは────…


ロト『Mk.VIII(A30) Challenger(チャレンジャー) 出る。 Cromwell及び随伴歩兵は対戦車、歩兵戦闘用意。 敵の規模は解らんがプランは変わらん。 ……行くぞッ!! 初弾、APDS弾装填ッ!!』


ロトが乗るA30 Challenger(チャレンジャー)は前車両のCromwellから火力を大幅に高めた最新の巡航戦車だ

その主砲QF 17pdr(76.2mm砲)から放たれるAPDS弾は1000mの距離で220mmの装甲を貫く事が出来る。


APDS(Armor Piercing Discarding Sabot)と呼ばれる砲弾は、

極めて高い貫通力を持つが生産は極少数の貴重な砲弾

扱える戦車も少なかったが試験運用されていたChallengerに搭載する事が決定し、その本格的な実戦配備の先駆けとしてロトが乗る一両だけにAPDS弾が積み込まれた。


あの日、輸送部隊が運んでいたモノはこの砲弾だったという事だ。


市街地のような近距離で撃てばTiger IIの正面装甲を理論上は貫通出来るイギリス軍の切り札が、遂にフリッツ達に牙を剥く。





第28部 【断崖の(ルーク) 】 完

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