表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/45

【赤色の復讐者】


今思い返せば、

自分でも解らない。


何故自分はこんな場所に、

また懲りずに、

言われるがままに戦場に居るのか。


何が(ティーガー)か、

これではまるで籠の中の鳥だ。


足掻いても、

足掻いても 足掻いても、

足掻いても 足掻いても 足掻いても、

殺し殺されの螺旋からは逃げれない。


自分が生きる為には自分の心を殺さねばならない、

それが戦争だ それが戦争なのだ。


殺せ、

生きる為に。


………

……


ギャギャギャ ギャギャギャッ…!!

ゴガガガガッ


敵の強襲(アンブッシュ)にあったゴッツのIV号が全速力で街から後退してくる。

曲がり角のくたびれた花屋の残骸を踏み潰し、路地のレンガを履帯が捲り上げながら進むIV号の姿が見えた。


フリッツ「急げIV号ッ!! …くそッ!! TigerI(ティーガー)はいつでも撃てる用意をしろ、指示を待つな、敵が見えたら撃てッ!」


ゴッツ『これで全速力だッ!! …あと260m、敵は追って来ないッ!! なんとかなりそうだッ!! 援護頼むぞ!』


侵入してしまった距離は約400m。


小回りの利く中戦車とはいえ、狭い街の中を後進するのはかなり難しい。


さらに咄嗟の判断だったせいで車体の向きを変えれなかったIV号は車長であるゴッツの指示をもとに車体をコントロールしなければならない。


だが『敵出現』と無線があったにも関わらず、

敵がIV号を追っている様子はない。


孤立し、態勢の崩れたIV号を討てるほどの戦力じゃないのか…?


それとも────…


フリッツ「(…何故追って来ない… 迎撃(カウンター)を読まれたか?)」


…嫌な予感がする。

皮膚がザワザワするこの感じ…

"何かいる"な…

しかも、この感じはとびっきり危険なやつだ。


他の連中はこの違和感を感じていないのか、援護射撃の態勢を整えたTigerIの車長は双眼鏡を覗きながら安堵の笑みを浮かべている。


ザザッ


ジーク『よし…ッ 急げゴッツ!! こっちも援護射撃の準備が出来たッ!!』


ゴッツ『視界に敵影無しだッ!! このまま一気に抜け───────ィギピッ…!!』


…ブツンッ!!


ジークの乗るPantherも射撃可能になり、

万全を期し、残り120mまで迫ったその時…



ジーク達の目の前から、IV号が姿を消した。



────…ドゴオオオオオンッッッ…ッ…ッ!!!!!!!!

ガシャアァァアァンッ ボンッボボッ…ッ!! ビチャッ



ジーク『────? ぁ…? え…?』


凄まじい轟音と共にIV号の砲塔、車体が文字通り「木っ端微塵」に吹き飛ばされる。


粉々になった戦車の部品や砲弾が建物に叩きつけられ、見るも無惨な姿になる。


あわせて「搭乗員だったモノ」も破片と共に宙を舞い、建物に赤黒い染みを作った。


砕けた窓枠に千切れた誰かの手が突き刺さり、

爆風に揺られてゆらゆら揺れている。


貫通による弾薬庫誘爆もあるだろうが明らかに破壊力が違う、恐らく相当な大口径砲による側面破砕、船体崩壊(ハルブレイク)だ。


余りにも凄惨な光景に、誰もが思考を放棄していた。


ただ1人、この男を除いては──


フリッツ「…装填手、榴弾装填(シュピンガナーテラーデン)ッ!! 砲手、距離400yard(約375m)ッ!! 破片の飛散方向と砲音からして恐らく敵の待伏せだッ!! あの曲がり角の、青い屋根の建物を撃て、少しでもいい、牽制しろッッ!! Feuer(フォイア)ッ!!」


ズドォオンッッ!!!!

──ガアァンッ!!


間髪入れずにフリッツのTigerIIが動いた。

88mm(アハトアハト)砲が火を噴き、建物を破壊してそこにいるであろう敵を牽制する。


榴弾が炸裂し、瓦礫が落ちる。

視界を遮る様に土埃があがり、視界が煙った。


フリッツ「…今のうちにTiger IとPantherは下がれッ!! これ以上敵の好きにさせるな、一旦立て直すぞッ!! 急げッ!!」


ジーク『あ……? ああッ!』


フリッツの無線で我に返ったジークはTigerIよりやや遅れて後退を開始した。

今度はちゃんと車体の向きを変え、砲塔は敵がいる方向を向いている。


フリッツ「(初めから待伏せてた感じ、じゃあない… 恐らく後進するIV号と路地を挟んで並走してたんだ、IV号が方向転換出来ないと判断して先回りしたって事か…ッ!?)」


ガンッと乱暴にキューポラを開け、

双眼鏡を覗くフリッツ。


土埃が晴れ、崩れた瓦礫の向こう側に「敵」の姿が見えた。


フリッツ「────…なんだ…アレは…」


現れたのは、

主砲と車体にロープでドイツ兵を括った異様な姿の駆逐戦車。


先の戦闘で拘束されたドイツ兵だろうか、車体に括られている兵士はまだ生きてる様にも見える。


特徴的な砲口制退器(マズルブレーキ)から察するに、あれはソ連の────…!!


フリッツ「……"SU-152"…ッ!! ソ連の『猛獣狩り』だと…ッ!? しかも奴は…ッ!! まさか……ッ!!!」


双眼鏡の先に現れたのはソ連軍の駆逐戦車『SU-152』

いつか戦ったIS-2重戦車の122mm砲を超える152mm砲を持つ大火力の戦車だ。


設計こそ単純、火力以外の快適性を捨て去った様なものだが、ML-20 152mm榴弾砲の破壊力はPantherはおろかTiger Iですら一撃で破壊可能な威力を持っている。


(フリッツは以前クルスクの戦いでSU-152と会敵したことがあるが、お互い致命傷を負わせるには至っていない)


そしてその怪物を駆る男の姿も、

フリッツは見た。


顔の半分が焼け爛れ、

未だ塞がらない傷から溢れる血で赤黒くなった包帯をたなびかせ、奴は居た。


ナボコフ「ィヒヒッ… いひひッ …ィヒッ ハハハハハハッ!!!!!!!! 大当たりだァ!!ティ────ガ───じゃねぇかア゛ア゛ア゛アッッッ!!!!!! (ティーゲル)ァッ (ティーゲル)だッ!! (ティーゲル)(ティーゲルゥ)ッッ!! 遭い"た"か"ったぜぇッ!! あ"あ"ッ!!!! ぶち殺すッ!! ぶっっ殺してやらァ"ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」


"狂気"

としか表現出来ないモノがそこにいた。

ただひたすら純粋なまでの殺意の塊がそこにいた。


男の名前は、ナボコフ。


ナボコフ=ジェレズノフ。


あの日、あの街道で倒したはずのIS-2重戦車の車長

ソ連戦車エースの「成れの果て」


偶然か、必然か────

死闘、再び。


ジジッ


ジーク『敵が見えたのかッ!? 情報をよこせ、ゴッツの仇はオレが討つッ!! …おい、マイゼンブークッ!!! 聞いてるのかッ!!!!』


無線から聴こえたジークの叫び声でハッとするフリッツ。

双眼鏡の先のナボコフはこちらに気付いている、もちろんSU-152の砲もすでにこちらのTigerIIを捉えていた。


フリッツ「───しま……ッ!!」


我に返った時にはすでに遅かった。

ナボコフが振り下ろした手に合わせて152mm榴弾砲が火を噴く。


回避行動は間に合わない、直撃する────……ッ!!


ドゴォォオオンッッッ!!!!!!

───ギチ"ュギイィンッッッ!!!!!!!!


フリッツ「ぐ…あ"ッ…!!!!!」


直後、想像を絶する衝撃がTiger IIを襲う。

距離1100yard(約1000m)からでも装甲を破断する威力を持つ大口径榴弾を400yard(約375m)でまともに受けてしまった。


連合軍にTigerIIの正面装甲を"貫徹"する砲は存在しない

しかしソ連の大口径榴弾砲は装甲を"叩き割る"事は出来る

以前説明したホプキンソン効果によるスポール破壊も発生しやすい、戦車の見た目は無事だが、中身はそうとは限らない


フリッツは死を覚悟した

実際、凄まじい衝撃で身体はキューポラに叩きつけられた

意識が飛びそうになったが、まだ癒えていない右手の傷が痛み、辛うじて意識を繋ぐことが出来た


フリッツ「────…ッぁぐ…ッ!!」


放たれた榴弾は正面装甲の傾斜部を滑り、遥か後方に弾け飛んでゆく。

普通であれば着弾と共に大爆発を起こす榴弾が「爆発しなかった」


そう、不発弾だったのだ。

延起信管設定だったのか、単に信管の故障だったのか

幸いにもSU-152の榴弾は致命傷にはならなかった。


ナボコフ「〜~あ"ァ"ッ!! ~────ッ!!!!」


霞む視界の先で声にならない叫び声をあげるナボコフが見える。

向こうが再装填を済ませる前に反撃したいが、こちらの砲手も装填手も気絶してしまった。


悔しいが反撃は出来ない、今出来る最善は「後退する事」だけだ。


フリッツ「…はッ 敵…車両は…ッ 152mm砲の…駆逐ッ… 戦車だ…ッ!! 迂闊に射線に入れば…ッ く…ッ 即死するぞ…!! 後退…する…ッ Tiger I…煙幕(スモーク)ッ!!!!」


ボボッ ボンッ

シュオオオオオ………ッ


背中を強打したせいで呼吸が不自由になるなか、フリッツはTiger Iの名を叫んだ。

その声に重ねるようにTigerIは砲塔脇に備えてある対歩兵用の煙幕(スモーク)を投射、辺りは濃い白煙に包まれる。


フリッツ「(よし… これなら────…)」


ドルンッ ドルンッ

ギャギャギャギャッッ


ギアが噛み、ゆっくりとTiger IIが後退してゆく。

重量70tにも及ぶ重量ゆえに機動力は良いとは言えないが…

敵に再装填(リロード)再捕捉(リロック)を許すほど劣悪ではない。


路地角にいるSU-152の位置から想定すると、射線から完全に外れるにはあと1分は掛かる。

152mm榴弾砲の装填に何秒掛かるのか判らない、もし闇雲に撃たれて側面に直撃しようものなら……


ドオオオオオンッッ!!!!

────……バヒュゥウゥゥンッッッ!!!!


フリッツ「────嘘…だろ…ッ!!!!!!?」


砲音が鳴り響き、煙幕に風穴を開ける。


SU-152から放たれた榴弾がTigerIIの真横を高速で横切り、遙か彼方に消えていった。

思ったより再装填が早い、搭乗員(なかみ)も想定より優秀なようだ。


こちらの命を断つ、死神の砲弾。

薄らと晴れた煙幕の隙間から、ナボコフと視線が交わる。


ナボコフ「これ"がてめぇと"ッ!! オレ"のッ!! 最期の戦いだ…ッ (ティーゲル)ァァ…ッ!!!! 必ず…ッ 必ずだ…ッ!! てめぇは…てめぇだけは絶対にオレがぶっ殺すッッ!!!!」


フリッツ「───そうだな、今度こそ、決着を───」



エンジン音と砲火の音でお互いの声は聴こえない。

ドイツとソ連、お互いに産まれも違い、言葉すら解らない。


二度戦場で相見えた二人の戦車兵(タンカーエース)




最期の戦いが始まろうとしていた。




第27部 【赤色の復讐者】 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ