【王の資格】
【Seele】の試作弾頭が完成するのに、さほど時間は掛からなかった
特に、設計図たる彼女が合流してからの開発速度はドイツ軍お抱えの技師達が舌を巻くほどのスピードだったそうだ
Vergeltungswaffe2略称『V2』
最新技術を搭載したロケット兵器たるV2は世界で初めて宇宙に到達した人工物であり、超音速で目標に落下する「迎撃不可能」という特性も兼ね備えた兵器だ
だが────────
ハインリヒ「今しがた、本局のアルベルトから【Seele計画】を2段階目に引き上げろと勅命が下った。 早速だが、28cm砲に搭載する直接火力弾頭(B)の開発を始めてくれ。」
帝国陸軍から来た彼女、ハナ=イチノセが開発したのは高高度で炸裂し、発生した電磁パルスで範囲内の電子機器を一掃する「非殺傷弾頭」
我々はコレを(A)と呼称した。
しかしV2は元々コストが高く、正確な攻撃、正確な誘導が極めて難しい兵器だ。
さらに「非殺傷」という特性を気に入らない上層部の連中が閣下に進言したのを発端に、彼女が「絶対にやめて欲しい。」と言っていた直接地表で炸裂するタイプの弾頭を造る事になってしまった。
アーベル「…28cm…となると、列車砲ですか。
イチノセ少尉の話では地表面での使用は禁止されていたはずでは?」
ハインリヒ「うむ… 私はその分野の専門ではないからなんとも言えんが… 君達技師の意見として、その運用はどうかね? やはり危険か?」
会議室に、技術長アーベルとハインリヒの重い声が響く。
これから開発する「直接火力弾頭」は開発者であるハナ=イチノセの制止を振り切る形になるため、なるべく慎重に判断したいのだが…
アーベル「……………」
彼女ほどの技術者が「危険だ」というなら余程危険なのだろう
国内屈指、トップクラスに優秀な技術者であるアーベルの沈黙が、それを物語っている。
ハインリヒ「───そうか… …だが計画に変更は無い【28cm Kanone5】に搭載する直接火力弾頭(B)の開発を急いでくれ。」
アーベル「…Jawohl しかしこの戦況でK5を使うとは、なかなか思い切った事をしますね。 …あぁそう言えば、V2発射基地の準備は出来てるのですか? 間もなく(A)の試験運用と聞いていましたが。」
トントン、と設計図を纏めながらアーベルが問うと
ハインリヒの口元がにやりと歪む。
そう、
間もなくハナ=イチノセが開発したV2搭載型電磁パルス弾頭(A)通称【Seele】の試験運用が始まろうとしていた。
ベルリンより西側の小さな町を占領しているソ連軍(ないしはアメリカ、イギリス軍)を標的に実験を行うのだが、
V2はロケット兵器ゆえに発射基地が必要になる。
敵の航空機や兵士に見つからないように林道や山道に基地を敷設し、そこから放つという流れだ。
もちろん自慢の超長射程を活かして安全地帯から撃つことも出来るが、いかんせんV2そのものが安全性に欠けている為、そうもいかない。
よって、基地の敷設に伴い事前に周辺の安全を確保しておかなければならないのだ。
ハインリヒ「案ずるな、既に『彼』を送っている。
全て予定通りに…な。」
アーベル「…『第1SSの死神』ですか… 私には彼の方が一番恐ろしい兵器に見えてなりませんがね…」
ハインリヒ「…一番恐ろしいのは人間、か… 確かにな。」
分厚い設計図を小脇に抱え、アーベルとハインリヒは『彼』がいるであろう西の方角を窓からジッと見つめていた。
ベルリンより西部 ナルヴァ近郊の町
ギュラギュラ ギュラギュラ ギュラギュラ ギュラギュラ
泥濘む地面を掘り返しながら、戦車隊が進んでゆく
先頭を駆けるPantherの砲塔に描かれた徽章は『馬と剣』
その後方に控えるHetzer、Jagdpantherにも同様の徽章が刻まれている
彼らは第8SS騎兵師団
フロリアン・ガイエル所属の戦車隊。
本来なら第29軍に合流しルーマニア、ブダペスト防衛に備えるはずだったが今回はハインリヒの勅命で西部戦線近くのナルヴァに向かっていた。
それらを率いるのは、先の戦闘の傷が癒えず未だに包帯を巻いたままのジーク・ノインシュタットだ。
決して浅くはない戦傷だが、
後退した戦況に於いて傷は言い訳にならない。
「国の為に戦う」という誇りだけあれば、兵士は戦える。
特にその気持ちが強いジークの心を焚きつける事など、人心掌握に長けたハインリヒには造作も無い事だった。
それがたとえ、
偽りの任務だとしても───────…
ドッドッ ドッドッ ドッドッ ドッドッ
ジーク「…おかしい、味方の姿が見えないぞ。 ナルヴァから後退しているはずの味方部隊はどこにいるんだ? 場所は合ってるのか?」
ゴッツ『こちらIV号、指定された町は…ここで間違いないな。 味方どころか敵の姿も見えんが… 偵察に出るか?』
ジジッ
ジーク「…そうだな。 IV号は偵察に出てくれ、他は後方、側面からいつでも援護可能な状態で待機しろ。 Panzarvor!」
双眼鏡をしまい、ジークの合図と共にPz.IV(4号戦車)が前に出る。
それを皮切りに各車陣形を整えはじめた。
今回の編成は
Panther 4両
Pz.IV 5両
Jagdpanther 2両
StgIII.G 5両
Hetzer2両
TigerI 3両
TigerII1両
ハインリヒの言う「味方部隊の回収と撤退戦の援護」というには少々大掛かりな混成部隊…
これでは援護というより敵の主力部隊と戦えと言わんばかりだ…
ハインリヒ長官の勅命という事もあり、何も疑わずにここまで来たが敵も味方もいない戦場に胸騒ぎが消えない。
そして何より、ジークの不安を掻き立てるのは…
ザザッ…
ジーク「…おい、お前も動けマイゼンブーク。 いつまでキューポラから身体を出してるんだ、偵察が済み次第、一気に進軍するぞ。」
ザザザッ…
部隊の最後方に控えている『重戦車の頂点』
Panzerkampfwagen VI Tiger Ausführung B
VI号戦車B型…
通称 Tiger II
それを駆る、死神の存在だ。
出撃ギリギリまで断り続けてきたが、ハインリヒ長官が「念の為に」と寄越して来たあの男…
元第1SS装甲師団所属の逃走兵…
────フリッツ・マイゼンブーク…
ジーク「(無視か… ハインリヒ長官の意図は読めないが、今は仕方あるまい… 手札と考えずに部隊をコントロールしなければ…)」
機動偵察に出たゴッツが乗るIV号からの無線はまだ無い。
後発の部隊は着々と援護射撃の準備を進めてゆく中で、フリッツが乗るTigerIIはその場を動かず、71口径88mm砲がやや斜め上、仰角のまま虚空を睨んでいる
ザザッ
ゴッツ『こちら偵察、町に入って400m進んだが敵影無し。 …気味が悪いな、戦闘の痕跡はあるのに味方の部隊がいた気配すら無いぞ…』
ジーク「…そうか、だがまだ奥に居るかもしれない。 とりあえず合流しよう、我々もすぐ向────────」
間もなくしてゴッツから敵影無しと報告が入った。
やはり味方の姿は無く、不気味な状態らしい。
これ以上先行させると罠だった時に孤立させてしまう、早めに合流しようと部隊に指示を出そうとしたジークだが……
ズッ…ドォォンッッッ!!!!!!!!
────…ガシャアアアアッ!!
不意にフリッツの乗るTiger IIの主砲が火を噴き、
町の時計塔を木端微塵に粉砕した。
暴発や酔狂で撃ったのではない、時計塔を破壊したのは榴弾だ、
何かの意図があって奴は撃ったのだ。
ジーク「…な…ッ!? おい、マイゼンブークッ!! 貴様、なに勝手に射撃して───────」
フリッツ『…全車両、路地や建物の影に気を付けろッ!! 先行したIV号は全速で下がれッ!! こっちの動きはもう時計塔の狙撃手から連中に筒抜けだ、各車対歩兵、対戦車戦闘用意ッ!! 目標が見えたら撃て、任意射撃ッ!!!』
ゴッツ『おいおい下がれって…いいのかよジークッ!? ぁ…ッ!!!? て…敵出現ッ!! 戦車だッ!! くそぉッ!! 本当に出てきやがったッ!!!! 下がれ下がれッ!!!!』
不意に慌ただしくなる戦場、
逼迫したフリッツの無線に応じて、部隊に緊張が走る
どうやら時計塔に見張りの狙撃手がいたらしい。
フリッツはそれを警戒し、Tiger IIの砲を仰角で構えていたのだ。
そしてその読みは的中し、先行していたIV号の前に敵が現れた。
ジーク「──ッ!!!!!」
フリッツ『Tiger IはIV号を追ってきた敵を叩けッ!! Pantherと残りのIV号は駆逐戦車に随伴して要所を固めろッ!! Jagdpantherは1両後方支援、もう1両はオレに着いてこいッ!! …Panzarmarsch!!!』
咽頭マイク(タコホーン)を押さえながら、
フリッツが一気に指示を出す。
本来なら隊長であるジークの指示が最優先だが、第8SSの兵士達は誰1人反論も反発も無くフリッツの指示を受け入れた。
これがジークとフリッツの決定的な違い、
「経験値」の差だ。
ジークの指示通り動いていたら、戦車隊は囲まれ一網打尽になっていた可能性もある。
しかし敵の作戦をフリッツは破り、的確な判断を下した。
この視野の広さ、警戒心の高さで数多の戦場を潜り抜けてきた。
もちろん、ジークが油断した訳ではない。
「20台以上の戦車部隊を率いて隅から隅まで意識を張り巡らせる」のはほぼ不可能に近いのだ。
だから分隊長は可能な限り戦況を想像し、指示をする、
頭に叩き込んだ、地図と部隊の位置を元にして、可能な限り、的確に。
─────…ただ、それは「平面」のイメージだ。
フリッツのソレは、完全な「立体」でイメージする。
地図を元に、自らの視界から得た情報をそこに落とし込み「平面上に立体を形成する」ことが出来る。
(飛び出す絵本のようなイメージがわかりやすいだろうか)
"立体把握感"
コレが出来るか出来ないかで、戦術の幅が大きく変わる。
ジーク「(────…視野のレベルが…違い過ぎる…!)」
ハインリヒが「念の為に」と寄越した男との力の差がハッキリと突きつけられた。
これが、これこそが大戦初期から戦場にいた古参兵の実力。
王たる者の、力だった。
フリッツ『ついてこい若造、生きて帰るぞッ!』
第26話 【王の資格】 完




