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【Seele(ゼーレ)】


1944年


既にドイツをはじめとする枢軸国は圧倒的な物量を持つ連合軍の攻勢を前に撤退、敗走を余儀なくされていた。


特に戦況が悪化、決定的になったのはこの1944年であり、数々の伝説や歴史的な大激戦が起きたのもこの年である。


西部戦線での激闘…

勃発したラップランド戦争…

ソ連最大の反攻、バグラチオン作戦…

パンツァーファウスト作戦…

そして…ラインの守り作戦──────…


枢軸国、連合軍共に総力戦となり、

いよいよドイツは完全に包囲されつつあった。


慢性的な士気の低下、物資の不足、指揮系統の混乱…


熟練の兵士の死亡などが積み重なりドイツ軍はもう疲弊仕切っていた。

有効な打開策は…正直、もう考えられない。


何か劇的に戦況を変える兵器でも在れば……

ただ一撃の下、敵を一挙に殲滅する兵器が在れば───────……



そうして人はひとつの解答(こたえ)に辿り着く、

史上最大の、災禍(わざわい)として────




1944年 10月5日

ベルリン 大会議室


ニルギリ「…………………」

ハインリヒ「……………………」

アルベルト「…………………」


大きな会議室に集められた、ドイツの重鎮と科学者達。


神妙な面持ちで彼らが見つめる先には、一心不乱に黒板に「何か」を書き綴る陸軍服に身を包んだハナの姿があった。


ガリガリガリガリガリガリガリ


目にも留まらぬ速さで輪郭を顕にする複雑な化学式や公式達は、学の無い重鎮達には全く理解できていない。


それどころか会議室に相席している専門分野であるはずの科学者達の理解を超越し、驚嘆する代物だった。


そもそもハナがドイツに喚ばれた理由…


それは「軍事技術の提供/交換」

連合軍が盛んに行っていた「武器貸与法(レンドリース)」に似たような感覚だ(まぁ対等な取引とは言い難いが…)


大日本帝国陸軍は本土決戦に備えアメリカ軍の戦車を圧倒出来るドイツの六号重戦車(ティーガー)を喉から手が出るほど欲しがっている。

だが既に手の施しようが無いほど悪化した戦況でドイツが重戦車を易々と渡す訳も無く、交渉は困難を極めた。

(1943年に1両だけは事前に輸出した。)


ガリガリガリガリガリガリガリ

ガリガリガリガリガリガリガリ


そこで大日本帝国陸軍が提示したのは、

「ドイツの長距離兵器(ロケット)に搭載する新型弾頭」の提供だ。


当初、ドイツ側はその有用性は疎か、存在すら怪しんでいた、

我々(ドイツ)に開発出来ないモノを東洋のちっぽけな島国(ヤーパン)で開発出来る訳が無いと、そう思っていたのだ。


それが…

どうだ……


ハナ「…以上が弾頭の原理、構造、威力の概要です。 これが適切に運用、管理出来れば戦況は劇的に好転します。 ───それどころか、この兵器は今後の世界の、戦争の在り方すら…変えてしまう力があります。」


ガリガリガリ …カツンッ


ハナの言葉に、ざわざわと沸く会議室。

科学者達は黒板の前に集まり、食い入るように描かれた化学式とその理論を眺め、驚きの声を挙げている。


…しかし対する軍の重鎮は懐疑的な眼でハナを見ていた、ハインリヒもその1人だ。


ニルギリ「これは…驚きましたな… 確かにあれなら一撃でかなりの数の敵兵を沈黙させられる… 部隊の侵攻、包囲の突破が劇的に容易になりますな…」


アルベルト「だがあれは我々のロケットが「上手く翔べば」の話だ。 そもそも、あの理論と特性なら直接目標に打ち込むほうが遥かに高威力なのだろう? ならわざわざアレを飛ばさず、撃ち込むべきでは?」


ひそひそと、ニルギリと大臣のアルベルトが耳打ちで会話する。

確かに、説明を聞いた限りでは新型弾頭は直接目標に打ち込んだほうが威力も効果も高そうだが…


ハインリヒ「…少し、質問いいかな? 私はハインリヒ、ドイツ国内予備部隊の司令官だ。」


ハナ「構いませんよ、私で答えられる範囲なら喜んで。」


すっと手を上げ、ハナに質問するハインリヒ。

その声に周囲から声が消えた。


ハインリヒ「君の説明では新型弾頭は空中で炸裂するようだが、加害範囲の調整は出来るのかね?」


ハナ「可能です。 が、搭載するロケットの大きさからして最大20km程度が限度になると思います。」


ハインリヒ「では口径を変え、更に大型化すれば更に加害範囲は伸び、小型化すれば狭まる、という解釈でいいかな?」


ハナ「その通りです。 ですが砲弾頭に採用した場合、この弾は加害半径内外の土壌環境や対人面で致命的な汚染を引き起こします。瞬間的な殺傷能力は自走砲や臼砲とさほど変わらないので使用は高高度でのみに限定でお願いします。」


ハインリヒ「…ふむ… …わかった、現場には「運用は慎重に」と伝えておこう。」


にやりと笑うハインリヒの顔を見て、

ハナの表情がふわっと柔らかくなる。


ハナ「────…それでは!」


ハインリヒ「おっと、正式な返答はまだ保留とさせてもらうよ。 出来上がった現物を見て、その有用性を確かめてから返答しよう。」


その言葉を聞いてハナは「そうですよねぇ~…」と悲しげに呟いた。

結果は保留、だが自分が捕虜として捕まり貴重な時間を大幅に削ってしまったのは間違いない。

それに対して強く言える権限は、(ハナ)には無い。


とにかく今は、無事に前に進めた事に感謝しよう。


アルベルト「軍需大臣のアルベルトだ。 私からもいいかな?」


ハナ「…あ、はい! なんでしょうか?」


無事に会議も終わりかと思われたとき、

手を上げたのは軍需大臣のアルベルトだった。

その表情はいまいち険しい、それどころか、どこか呆れたような顔だ。


アルベルト「私は立場上、威力云々より生産コストや運用の能率性を重視している。 …この状況だ、君が造るソレはその対価に見合う価値はあるのか?」


ハナ「────勿論です。 だからこそ私は、その確信を持ってここに来ました。 これが完成し、実戦投入された暁には、盟友ドイツに勝利を御約束します!」


力強い声、

自信に満ち溢れた表情、

つい最近まで捕虜だったとは思えないほど真っ直ぐな眼差しに、会議室中の全ての者が胸をうたれた。


アルベルト「………期待しているよ。」


ニルギリ「いや、素晴らしい発明だ。私は貴女の活躍に期待します。」


パチパチ パチパチ


三者三様の満場一致で「それ」の開発が決まり、

会議室は拍手に包まれた。


ハインリヒ「…ふむ、ちなみにその弾頭に名前はあるのか? 軍関係者と開発者向けに秘匿名(コード)があるなら助かるのだが。」


危機的状況を打破する希望となるか、

はたまた世界に絶望を(もたら)すモノか、

ハインリヒがその名を問うと、ゆっくりとハナは答えた。気。



ハナ「…秘匿名称は【Seele(ゼーレ)

高高度炸裂電磁パルス弾頭【Seele(ゼーレ)】」



その名は、ドイツ語で【魂】を意味するモノ


極めて高い高度で炸裂し、地表数十kmの範囲にある電子機器を根刮ぎ破壊する不可視の大量破壊兵器。


Seele(ゼーレ)


それは決して語られる事の無かった、

世界最初の核弾頭の名前。





第25部 【Seele(ゼーレ)】 完


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