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【獣、吠える】

北部キャンプまで50m地点


ギュラギュラ ギュラギュラ ギュラギュラ…


マイヤー「間もなく目的地だ、到着次第全員降車、負傷者は駐留している軍医に治療を仰げ。 無事な奴は速やかに『積荷』を確保し、回収車両の到達を待つ。」


Tigerの初撃で装填手をやられ、先に北部キャンプに向かうように指示されたマイヤーのPantherは基地まで残り50mの地点まで迫っていた。


キューポラを開け、前方の安全を確認する

数名の護衛兵士が機関銃を構えているが、コチラの姿を確認し銃口を下げる。


マイヤー「…このまま進め。 砲手はいつでも撃てる準備をしとけ、何か怪しい雰囲気だ。」


何故かマイヤーはその様子に違和感を覚えた。


彼らは当たり前に仕事をこなしているのに、どうも違和感がある、ある種の気持ち悪さが拭えない。


マイヤー「(いや…待てよ…?)」


……そうか、『当たり前に仕事をしているのがおかしい』のか

近場で身内のフリッツが戦っているのに平然としているのはどうにも怪しい


マイヤー「(何か────…)」


ふ、と目線を下にやると

不整地の地面が一部、綺麗に馴らされている…


ま る で … ッ!

何 か を 埋 め た よ う な ッ!!


マイヤー「──まずい、地雷だッ!!!! 操縦手、急停…ッ!!!!!!」


カチチッ

ドドォオドォンッッ!!!!

バキィンッ ズシャァァァ……ッ


気付いた時にはもう遅い、Pantherは地面に埋めてあった大量のTMi-43(43型皿型地雷)を踏み抜いた

一斉に炸裂した地雷はPantherの履帯を破壊し、走行不能に陥らせた。


さらにこの爆発は車体下部にまで衝撃を与え、車内の搭乗員にも痛烈なダメージを喰らわせる。


衝撃で激しく揺れた際に頭を強く打った砲手は気絶、同じく無線手も頭から血を流してピクリとも動かない。

当然、車長のマイヤーも…


マイヤー「…がッ!! く……そッ… 意識が……ッ… 隊長……ッ 申し……訳………ッ… ………」


もちろんその衝撃はマイヤーにも伝わり

キューポラに身体を打ち付けた。


腕の骨が折れる音、額から温かい血が流れる感覚、そして痛み。


それらが波のように押し寄せ、マイヤーの意識は闇の中に消えた…


ドルン ドルンッ

ドッドッドッドッドッドッ!!

ォオン ォオン…ッ


アンスヘルム「───目標…沈黙ッ!! よーし、行って来いッ!!」


マイヤーのPantherが地雷を踏み、完全に沈黙したのを物陰からアンスヘルムが確認した

そしてそれを待っていたかのように、バルド達が乗るPantherが北部キャンプからエンジン全開で飛び出した


ギュラギュラ ギュラギュラ ギュラギュラッ!!


ハナ「ありがとうアンスヘルムさん!! 行ってきます!!」


合図を見て前進したPantherの車長座(キューポラ)から身を乗り出し、手を振るのは、何を隠そうハナだった


……つまるところ現在のPantherの車内の配置は…


装填手 バルド

砲手 オリバー

無線手 ヘルマン

操縦手 アルノルト


車長(仮) ハナ


…こういう事である…

最初は総出で反対したが、それでもハナが頑として「行く」と言って聞かなかった為このような編成になってしまった


バルド「(これはちょっとヤバイかもしれねぇな…)」 ヒソヒソ


オリバー「(………)」


アルノルト「(指示とか大丈夫ですかね…)」 ヒソヒソ


ヘルマン「(どうなっても知らんぞ、オレは…)」 ヒソヒソ


(ある意味)今まで体感した事がない、凄まじい緊張感の中

ハナを乗せたPantherはフリッツがいる地点に急いだ


ハナ「吶喊(とっかん)!」


………

……


ギャギャギャギャッ!!

ドゴォオンッ!!!!!! ギィンッ…!


ジーク「200yard(約180m)でもまだ貫通しない…のか…ッ!? …やはり完全に背部を取るしかないッ!! この先は弱い傾斜が掛かってる、速度を上げて一気に押し切るぞッ!! 次弾、榴弾装填ッ!!!!」


じわじわと、確実にTigerまでの距離を縮めていくジーク達

継続して徹甲弾と榴弾を使い分けながら撃ち込んでいるが角度の問題か、増加装甲の恩恵か、コチラの砲弾は尽く跳弾してしまう


一番脆い背部を取るのが最良だが

この先は緩やかな坂道… 減速は免れないし、履帯が嵌る可能性もある

出来れば側面を晒しているこの状態で仕留めておきたい…!!


ぐっと拳に力を込めるジーク

Tigerは何故かピクリとも動かない

攻めるなら今しかないッ!!


しかしそんなタイミングで、味方から無線が入る

マイヤーが目的地に着いたのかと思い無線を取ると…


聴こえてきたのは、味方の悲鳴だった


ザッ ザザッ……


『こちら回収車ッ!! ノインシュタット隊長、大変ですッ!! 先行していたマイヤー車が大破していますッ!! 損害状況不明ッ!! …ッ!? なんだ貴様ら、我々を誰だと…ッ!! やめろッ!!!! ああああああッ!!?』


ブツンッ


ジーク「………ッ!? 回収車、どうしたッ!! 応えろッ!! ………無線手、マイヤーに連絡は出来るかッ!?」


ヴィルヘルム(ジーク車無線手)「………………駄目です、応答しませんッ!!」


ジーク「────馬鹿な…ッ!」


たった数秒の無線で、今まで積み上げてきた何もかもが音を立てて瓦解する

状況は一瞬にして『最悪』に変わってしまったようだ


あと数分あればオレがフリッツにトドメを刺し

先行したマイヤーと回収車が『積荷』を確保し、全て終わるハズだったのに、今や戦力になるのは自車しかいない。


僚機を失い、一対一の状況になるとはこれっぽっちも想定していなかった。


ジーク「───だがそれでも…ッ それでも貴様だけは討たせてもらうぞ、マイゼンブークッ!!!!」


しかし今更抜いた剣を鞘に収める事は出来ない

任務の成否に関わらずこの男だけはこの場で殺さなければ死んだ仲間が報われない。


────────コイツは必ず、此処で殺すッッ!!


ジーク「砲撃用意ッ!!!! 砲塔側面を榴弾で叩け、本体が駄目なら中身を潰すッ!!!! ……Feuer(フォイア)ッ!!!!!」


ドゴォオオオンッ!!!! バガギンッ…ッ!!

バラバラ…ッ


80yard(約70m)まで接近して放った長7.5cm砲の榴弾はTigerの砲塔側面を捕えた

高初速で放たれた榴弾は貫通こそしなかったが、アンスヘルムが取り付けた増加装甲(予備履帯)の一部を吹き飛ばす事に成功した


そうしてようやく目が覚めたのか、Pantherを追うようにTigerがゆっくりと旋回し始める。


やはり、正面以外は装甲に不安があるらしい。


…だが、もう遅い!


予備履帯が剥げた場所に徹甲弾を叩き込む。

砲塔側面…運が良ければ砲手も車長も根こそぎ殺せる位置だ。

素の装甲厚ならこの距離で貫通できる!!


ジーク「徹甲弾装填(パンツァーグラナーテラーデン)ッ!! 同じ箇所に撃ち込めッ!! …Feuer(フォイア)ッッ!!!!」



ドゴォンッ!!!! ボギュッ!!

バガァン………ッッ



砲の性能試験でも撃たないような極近距離で放った徹甲弾は

遂にTigerの砲塔側面を完全に貫通した。


その衝撃でTigerのキューポラが真上に弾き挙げられ、地面に落ちる。


それでもなおエネルギーを失わなかった徹甲弾が反対側まで飛んでいったのを、ジークもその眼で確認出来た。


同時に、再び動きを止めるTiger(ティーガー)


完璧な手応えを感じた砲手が雄叫びをあげ、装填手と拳を合わせる。


事実、キューポラが飛ぶ程の威力だ、

あれでは中の搭乗員は今頃挽き肉だろう。


────…勝った!!第一SS装甲師団の隊員が駆るTiger(ティーガー)に……!!


ジーク「…勝ったぞ…ッ!!!! ははははッ!! やった…ッ やったぞッ!!!!」



感極まったジークも雄叫びをあげ

搭乗員達と拳を合わせ、勝利を喜んだ。


ギアを下げ、ゆっくりと減速していくPanther。


この時、誰もが勝利を確信していたが、


ゆっくりと、


ゆっくりと、


Tigerの砲塔が旋回している事に、


ジーク達はまだ気付いていなかった。


ジジジ…ッ ザ…ザッ…ッ


ヴィルヘルム「………? 隊長、通信ですッ!! ……? …この声……… まさか…ッ」


ザザッザッザッ…ッ


無線の向こう側で、狂ったような声が聴こえる。

ヴィルヘルムは瞬時に声の正体を理解し、戦慄した。


声に混じって微かに聴こえるのは……

間違いない、砲塔の回頭音……


ジーク「どうしたヴィル…!? 通信はどこから────…」


ヴィルヘルム「────…フリッツ・マイゼンブークは生きていますッッ!!!! 敵Tiger(ティーガー)は健在ッッ!!!! 敵Tiger(ティーガー)は健在ッッ!!!!!!」


悲鳴にも似た声がPantherの車内に響き渡る。


それを皮切りに状況を確認するまでもなく、装填手は手近にあった徹甲弾を装填。

操縦手は再度ギアを上げ、エンジンを回す。

砲手は照準機を覗いて狙いを定める。



Tiger(フリッツ)の主砲は、とっくにPanther(ジーク)を捉えていた。



ジーク「────嘘だ────」





ボンッ






ジークがキューポラから身を乗り出したその瞬間

Pantherを包む、閃光と爆音



そして



フリッツ「…Meine Ehre heißt Treue… Meine Ehre heißt Treue…ッ! Meine Ehre heißt Treueッ!!!!!!」





Meine Ehre heißt Treue

狂ったように「忠誠こそ我が名誉」と叫ぶ、フリッツの姿


その眼に光は無く

ただ空を眺め、誰が為の忠誠を吠える獣がいた




第18部【獣、吠える】 完

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