【暴走と決断の狂走曲】
ボッ……ッ ゴオォオンッ!!!!
ジーク「命中を確認ッ!! よし、続けて撃てッ!! 距離を詰めるぞ、残り1000yard(約900m) 足を止めずに側面まで回り込むッ!!」
榴弾が鋼板を叩き、鐘のような音が平原に響く
一撃一撃がTigerを大きく揺らし、じわじわと傷を負わせてゆく
榴弾の貫通力はほとんど無いに等しい
もとより貫通前提の運用はせず、搭乗員や車両のパーツに損傷を与えるのが目的だ
金属に爆圧を掛けると爆発面の裏側が剥離し、金属片が飛び散る反応が起きる
そしてその反応を利用し、重装甲の戦車には榴弾を使い内部の搭乗員を殺傷するという方法がしばしば採用される
ホプキンソン効果、
スポール破壊と呼ばれるその現象は、
戦車戦に一石を投じるモノであった。
特にこの手段はリベット(装甲を繋ぐパーツ)を多く使うドイツの戦車に対して非常に高い効果を見せる。
もちろんそれは…
Tigerにも例外なく起こりうる現象である
ボゴッ!!!! バチィインッ!!
───…ドスッ!!
フリッツ「あ…ぐ…ッ ああぁあああッッ!!!!」
そして遂に、マルコの乗るPantherが放った榴弾が砲手席の下部に命中しスポール破壊が発生した
飛散したリベットや装甲片がフリッツに襲い掛かり
頬を切り裂き、腕や足に突き刺さる
致命傷ではないが、傷は傷だ。
傷口からは血が滲み、頬を伝った。
フリッツ「~…ッ ふーッ ふーッ!! ッ!! …が あ゛あ゛ッ!!!!」
ギリギリ ギリギリ ギリギリ…
…ガドォオォォォンッッッ!!!!!!
────────…ボギュッ…ッ!!
こみ上げる痛みを堪えながらフリッツは砲塔を旋回させ、半ば狙いを定めずに撃発のスイッチを押した。
マルコ「───────ッ!!!」
放たれた硬芯徹甲弾はマルコが乗るPantherを捉え、その横腹を反対側まで貫いた。
ジーク「…ッ!!!? マルコッ!!!! 無事か!? 応答しろマルコッ!!」
車内にいても聞こえたその音は、
紛れもなく、砲弾が命中した音だ。
一瞬脳裏には"死"の文字が浮かんだが、その憂いはすぐに払拭された。
マルコ『…大丈夫だ。 貫通はしたが……まだ撃…る、…だ走れる…。 進め、こっち…気に……るな。』
通信を送ると、マルコの声がぶつぶつと途切れて聞こえてきた。
無線機をやられたのか心配になるが無事ならよかった
……
このまま…決着をつける……!!
残り800yard(約730m)
間もなくして、ジークのPantherはTigerの側面に照準を合わせた。
数分前 北部キャンプ 通信室
オリバー「…まさか…第1SS装甲師団所属……だったのか…… 道理であの殺気と練度… いや、しかし尚更どうしてそんな兵士がこんな場所に…?」
バルド「おい…嘘だろ… 嘘だって言ってくれ…!」
その頃、北部キャンプでは無線傍受でフリッツとジークのやり取りを聴いていた …いや、聴いてしまったというべきか…
彼の口から出た言葉に、動揺が隠せない。
あれではまるで自殺志願者だ。
自分達が知っているフリッツ・マイゼンブークという男はあのような事を口走る狂人ではない。
もっと冷静で… 仲間思いで… 明るい男だったハズだ。
それがどうだ…
その変わり果てた言動に、こちらまでおかしくなりそうだ。
エッケハルト「あの人は…PTSD(心的外傷後ストレス障害)だったのかもしれません… 私達に会うずっと前から、ずっと…病と戦っていたのかも…」
アルノルト「PTSD…? まさか… いや…けど第1SSの古参兵なら極初期から戦場にいるハズですし… でもそんな感じはしませんでしたよッ!? ましてやPTSDなんて…ッ!! そんな…」
軍医であるエッケハルトは今まで何人もの兵士を診てきた
もちろんその中には戦闘で心を病んでしまった者もいた
…恐らく、彼はずっと戦場に居続けたのだろう
その気になれば故郷で余生を過ごす事も出来たのに、彼は戦場に身を投じ続けたのだ
エッケハルト「事実、PTSDの患者は人格障害を患う場合もあります。 普段は優しい人が何らかの要因で戦場を思い出し、その時と同じような行動をしてしまうという報告もありました。 …恐らく、彼も…」
怪我や病で戦線を離れた兵士が、暫くすると嬉々として戦場に還っていくその様を、歯を食いしばって見送った事をエッケハルトは思い出した。
ヘルマン「…つまりオレ達の見てたものは偽物で、いま向こうで味方を殺そうとしてる頭のイカれちまってるほうが本物の"フリッツ・マイゼンブーク"って事だ。」
バルド「────…てめぇッ!!!!!!」
ヘルマンの言葉にバルドが怒り、襟を搾り上げる
だが…バルドも分かっていた、エッケハルトやヘルマンの言う通り、事実フリッツは味方を殺そうとしている。
自身もいつかIS-2と対峙した時の彼から危うい空気を感じていた事も…
ヘルマン「とにかく今はあの野郎に構ってる暇は無いぜ…ッ 無線聞いてたろ? 負傷したPantherの1両がここに向かって来てるんだ…ッ まずは…それを何とかしねぇ…と…ッ」
ギリギリと締め上げられながらヘルマンが優先すべき事を促す
先程の無線で第8のPantherがこちらに向かっているのが分かっている
迎え撃つか、招き入れるか……
決断の時間が刻一刻と迫る…
………
……
…
────…ガボンッ!!!! バキィッ
ギャギャギャギャ ギギギギギッ
ジーク「榴弾命中!だが側面に巻かれた丸太が邪魔だッ!! あれではスポール破壊は起こらない、車体後部に回れッ!! 徹甲弾に切り替えろッ!!」
Pantherが放った榴弾はTigerの側面で炸裂したが、アンスヘルムが気休めに着けた丸太2本が妨げ、内部に対するダメージを遮断していた
装甲に直接爆圧が掛かっている訳ではないのでホプキンソン効果は発生しない。
仮にこの距離から徹甲弾を当てても丸太の厚さ+側面装甲(80mm)を貫くのは入射角度を考慮しても現実的じゃない。
多少のリスクを負ってでも、ここは車体後部を狙うしかない。
ジーク「こちら隊長機ッ!! マルコ、仕上げに入るぞッ!! そっちは榴弾で砲塔か車体前面を集中的に叩いてくれッ!!」
ザザッ… ザッ…
『………』
無線で指示を送るが、返信が無い
やはりさっきの砲撃で無線機に何か影響が───…
ジーク「……マルコ? 」
マルコ『……悪い、ジーク………… どうやら、ここまでらしい……… さっきの…で……中身を……かなり持っていかれちまった…… 操縦士も装填手も死んじまった…… 砲手も辛うじて… だから…この1発……最期の…1発は………ッ …ぅ…ッ』
ザザ…
無線から聞こえてきたのは、マルコの息絶え絶えな声
相当な深手を負ってしまったのか、声に力が無い
…視界が白黒する、心臓がとてつもなく早く動く
汗が吹き出て、手が震える
ジーク「────…マルコッッッ!!!!!!!!!!」
無意識に口から飛び出したのは、瀕死の友の名だった
急いでキューポラを開けてPantherを見ると
操縦士がやられ、ただ真っ直ぐ進むだけになったマルコのPantherの姿があった。
残された砲手が死力を尽くして砲塔を回し、照準を合わせ、
そして────…
マルコ『………くたばれ…………化物…………ッ!!!!』
────…ズドォオンッ!!!!
ギャギリンッッッ…ッ!!
バガンッ
ジーク「キューポラを抜いた…ッ!! あれなら…ッ!!」
挺身の一撃は見事にTigerのキューポラを撃ち抜いた
あそこに当たれば大抵の戦車は戦力を失う
何故ならキューポラには部隊の要である車長がいるからだ。
車長であるフリッツが死ねばTigerは指示系統を無くし、大幅に動きが鈍る…!
値千金の一撃……だが……ッ!!
フリッツ『…いい腕だ…狙いも良い… 殺すのが惜しいほど…!』
ギギギギギギギギギギ…ッ…ッ
奴は、死んでいなかった。
車長座にいれば確実に死ぬ一撃を食らって何故…!?
絶望と困惑がジークの思考を支配する。
言葉が、出ない。
今から起こるであろう、最悪の事態から目を逸らせない。
ゆっくりと、確実に、Tigerの88mm砲がマルコのPantherに狙いを定める。
そして…
マルコ『………すまん……… ジーク……………………』
ガドォオォォォォオンッッ!!!
────ボッ!! バガアアアアアアアアアンッッッッ!!!!
硬芯徹甲弾はPantherの弾薬庫を撃ち抜き
搭載した砲弾が一斉に車内で炸裂した。
弾頭が四方八方に飛び散り、車体を貫き、爆炎が砲塔やキューポラを根刮ぎ吹き飛ばす。
砲塔と共に、真っ黒に焼け千切れた「何か」が宙を舞い、落ちる。
ジーク「────────────ッッッ!!!!!!!!」
声にならない慟哭が戦場に零れる。
Tigerまで、
残り480yard(約440m)
無線からは、死神の狂ったような笑い声が響いていた。
第16部【暴走と決断の狂走曲】 完




