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【共喰い】

北部キャンプ 西側8km地点 街道


『こちら3号車、北部哨戒基地まで残り8km。 ノインシュタット隊長、指示を。』

ザザッ…


『2号車より隊長機、前方に強い雨雲が見えます、一旦様子を見ませんか? この辺りの地質では泥濘に嵌る可能性(スタック)が考えられます。』

ザザザッ


目的の基地まで8kmを残したところで、

ジーク・ノインシュタット率いる第8SS騎兵師団は街道上で足踏み状態になっていた。


ここまでの道程は接敵も車両トラブルも無くかなりスムーズに進んだが、ここに来て天候と地質に足止めを食らうとは…


ジーク「…チッ 仕方ない、一旦停車して様子を見よう。 街道から外れて10時方向の森の中で各車点検と休憩を取れ。 Panzarvor(パンツァーフォー)。」


Jawohl(ヤヴォール)』ザザッ

Ja(ヤァ)』ザッ


ジークの指示を受け、流れるような動きでPanther(パンター)が進路を変える。

土を抉りながら一糸乱れぬ隊列で進むその姿は正に(パンター)の名に恥じない美しい進軍だ。


特にいまこの場にいる第8騎兵師団の選抜部隊は長いことPantherに乗ってきた名手達(エースタンカー)だ、いかに相手が強力だろうがこの連携技術があれば確実に撃破できるだろう。


…まぁ、そもそも、我々第8SSに戦闘を挑む馬鹿はいないだろうが…


──────どうにも、胸騒ぎがするな…


ジーク「………雨、か………」


予想通り、バタバタと大きな雨粒がPantherの装甲を叩きはじめた。

言葉にし難い不安感を感じながら、ジークはキューポラを閉め車内に入った。


………

……


北部キャンプ 整備場


アンスヘルム「…よく聞こえなかったぜ… もう一度言ってみろ、フリッツ。」


フリッツ「…修理はもういい、代わりにTigerの前面装甲と砲塔防盾に端材の鋼板と予備履帯を載せてくれ。」


真っ黒な雨雲が空を覆い、冷たい雨が北部キャンプにも降ってきた。

ほんのさっきまで使われていた修理用のトーチが地面に転がり、ぶすぶすと悲鳴をあげる。


その持ち主の整備兵、アンスヘルムはどうにも虫の居所が悪そうに湿気た煙草を吐き捨てた。


アンスヘルム「…嫌だね。 よく見ろ、砲塔側面の亀裂は悪化してるし、度重なる被弾で油圧系に不具合が出てエンジン出力も落ちてる。 足回りもガタガタのコイツに増加装甲は着けられねぇよ。」


フリッツ「…狙撃地点についたら足を止めて撃ち合うつもりだ。 エンジン、足回りも修理はいい、行きだけ動けば充分だ。 接敵したら稜線射撃(ハルダウン)の態勢で撃ち合う、その時に敵の斉射に耐えれるだけの防御面の拡充が先だ。」


アンスヘルム「…やるかやらないかは別だが、一応聞いてやる。 相手の砲火力は?」


フリッツ「…今の第8SS騎兵師団は恐らくPantherが主力の機動部隊だ、70口径7.5cm砲に対応出来ればそれでいい。 だから最低でも正面装甲+80mm、防盾は50mm欲しい。」


無茶苦茶な要求が淡々とした口調で投げつけられる度、アンスヘルムの拳と唇がわなわなと小刻みに震える。


要求されてる増加装甲の改修は可能だ。


オレがその気になればものの2時間で完璧な状態に仕上げて送り出す事だって出来るが、どうしても気にいらない。


目の前にいる男に対して、怒りが収まらない。


「戦車兵を生きて帰す為」に整備兵を勤めて来たアンスヘルムにとって、致命的な損傷を受けたままの戦車で出撃させるのは矜持に反する。


ましてや、幾ら悪名高い武装親衛隊とはいえ同じ国の仲間と戦う為の改修なんて、誰が喜んで受けるものか。


それにコイツは…考えたくないがまるで今から死にに行くような顔で話しかけてくる。


いつもの冗談か、はたまた本気か、

それすら今のフリッツからは読み取れない。


だからこそ、オレが、ここでコイツを止める。


アンスヘルム「…誰が引き受けるかよ、鈍重で硬い戦車がよければイギリスの重戦車(チャーチル)にでも乗ってろッ!! そんなにTiger(コイツ)で出撃したけりゃこのまま行きやがれ、オレは絶対にやらねぇからなッ!!」


ガンッと、転がっていたトーチを蹴りあげ、

手に持っていた工具も乱暴に放り投げた。


アンスヘルム「わかったらさっさと失せろ!今ここに戦車は無ぇ!あるのはただの棺桶だ!」


泥水を踏み散らしながらフリッツに背を向ける。


普段あまり怒らないアンスヘルムが怒った様子を見て、部下の整備兵達が驚いた顔になる。


フリッツ「─────わかった、無理言って悪かったな。 こっちの準備が出来たらすぐに出撃する。 それまでは…お前に任せるよ、アンスヘルム。」


背中越しに聞こえる戦友の声は、

どこか寂しげに聞こえた。


改修しようがしまいが、出撃するという意思は揺らがないらしい。

フリッツもまた背を向け、いつもと変わらない歩調で整備場を後にする。


アンスヘルム「────…馬鹿野郎が…ッ」


怒りを通り越して、

悲しみだけが強く残る。


半年…たかが半年の付き合いだがオレはお前を凄え奴だと思ってたんだ。


出撃の度に無傷で帰ってきて、搭乗員達(アイツら)も怪我らしい怪我は一度もない。

「凄え戦車兵が来たもんだ」って感じた、コイツの為なら言われた要求を全部汲み取ってやりたいって。


お前達を生かせるように…

オレは…ッ

戦車を…ッ


いよいよ雨は強さを増し、アンスヘルムから零れた言葉を雨音が攫ってゆく


………

……


医療テント


ザァ────…ッ

バタバタ バタバタ


ハナ「…ひどい雨…」


エッケハルトが出て行ってから、少しばかりして強い雨が降ってきたようだ

雨粒がテントの布と、地面を叩く音が耳に届く。


眼が使えないと外部の情報のほとんどを耳で獲なければいけないからなかなか不便だ(もっとも、ハナの場合もう慣れたものだが)


ハナ「(すぐにでもベルリンに行きたいけど、これじゃあ無理ね… あれから何日も経つけど伝令のひとつもないと少し不安になるなぁ…)」


ふと思えば、この場所に来てもう一ヶ月近くになる

だが1度たりとも迎えの連絡や事態の進展などの通達は無い、駐独官の大島中将ならすでに動いててもおかしくないハズだけど…

そもそもこの事態を本国の大本営は知っているのだろうか…


私の役目…それは日本国が開発した長距離兵器(ロケット)に搭載可能な新型弾頭の設計図をドイツに渡すこと

設計図の中身は秘密厳守のために一字一句完璧に記憶し、図面も引けるように毎日訓練してきた、ある意味私自身が設計図そのものなのだ

これが本格的に実戦運用ができるようになれば、きっとこの戦争は終わる

この兵器なら…きっと出来る…


そしてこれを渡せば、ドイツ側は日本の陸軍上層部が喉から手が出るほど欲しがってる六号重戦車を輸出してくれる約束だ

図面でしか見たことがないが、うちの八九式中戦車より遥かに強そうな戦車だった


すでに先行した1両は本国に向けて出荷されたらしいけど…届いたかな?


ハナ「(まさかとは思うけど… 私、死亡扱いされてるのかなぁ…)」


…ありえない話ではない「ドイツ領で連合軍側、しかもソ連軍に襲撃された」なんて知れたら誰だって死んだと思うのが妥当だ

そもそも約束の会議にすら出れていない時点で技術提供(レンドリース)の交渉も反故になってしまったかもしれない


うーん…そしたら、どうしようかな…

このまま本国に戻ってもアレだし

ベルリンに行っても何も出来ないだろうし…


ハナ「いっそここで、看護婦として働こうかしら… なーんて…」

フリッツ「わはは、それは困るな。」


ハナ「ひゃああああああああああッ!!!?」


フリッツ「はっはっは、また驚かせてしまったな。 …しかし君が看護婦では、うっかり怪我も出来そうにない。 エッケハルトより怒られそうだ。」


突如として現れたフリッツの声に絶叫するハナ。

雨の音にかき消されて足音に気付かなかったのだろう。


フリッツは彼女の傍らで腕を組みその顔に笑みを浮かべている。


その笑みは、どこか儚さを孕んでいた。


とても今から同じ国の兵士達を殺しに行く男の顔とは思えないくらい優しい…優しい笑顔がそこにはあった。


ハナ「もー!! からかわないで下さいッ!! 冗談ですからッ 真に受けないで下さいッ!!」


フリッツ「ははは。 …では看護婦さん、どうかオレにひとつ…良く効く薬をくれないか? どうも身体が震えてしまって、調子が悪いんだ。」


ハナ「え…? ちょっと…フリッツさん…? 包帯はまだ……あっ…」


そう言ってフリッツはゆっくりとハナの眼を覆う包帯を外し、彼女の黒髪をスッと撫でる。

気恥ずかしさからか顔が赤くなり、視線がキョロキョロとして定まらない。


ハナ「あ、あの…その… く…薬ってなんでしょうか…? って…あ、よく見たらフリッツさんずぶ濡れじゃないですか!? 薬って風邪の────」


すると雨でずぶ濡れになっている様子に気付いたのか

慌てて手近にある薬袋から様々な薬を取り出すハナ。


だがフリッツはそれをまったく意に介さず、

彼女のうなじに手を回す。



そして─────……



フリッツ「どうかオレに…戦う勇気をくれ。」


ハナ「───────え────────」




彼女と、唇を重ねた



もう何秒、そうしていたかは分からない。

お互いの鼓動と体温が、唇を通して伝わった。



そして、

フリッツは自ら顔を離し、

静かに席を立ち、


告げる。





フリッツ「──────────さようなら。」





第12部 【共喰い】 完

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