毒ガス怪獣
怖い絵本に触発されて、何とかひねり出してみました。
これは、白い小さなお家のお話です。
小さなお家には、小さな女の子がお母さんと一緒に住んでいました。
女の子はお母さんが大好きでした。
けれど、女の子にはとてもとても嫌な事もあったのです。
それは、夜になるとお家に毒ガス怪獣がやって来る事でした。
毒ガス怪獣は紫色の毒ガスを家中に吐き散らすのです。
女の子が苦しんでも、「くさいよくさいよ」と泣いても、毒ガス怪獣は毒ガスを吐く事を止めてくれません。
だって、毒ガス怪獣は毒ガスを吐くものですから。
毒ガス怪獣は夜になるとやって来て、朝になるとどこかに行ってしまいます。
けれど、毒ガスの臭い匂いは小さなお家のどこに行っても染み着いてしまっています。
女の子のお気に入りのワンピースも。
リボンが可愛い夏の麦わら帽子も。
ピンクの冬のマフラーも。
大好きなお母さんのエプロンにも!
毒ガスの臭いは染み着いてしまってもうとれません。
トイレにも、お布団にも。
このお家はどこも毒ガスの臭い匂いでいっぱいなのです。
「おかあさん、にげよう。どくガスかいじゅうがこないところににげよう」
女の子は何度もお母さんにそう言いましたが、お母さんは困った表情を浮かべるだけでした。
しかし。
ある日を境に毒ガス怪獣はお家に来なくなりました。
毒ガス怪獣が来なくなって、女の子はとてもハッピーでした。
毒ガスの匂いもちょっとだけ薄れていきました。
冬が来て、春が来て、そして毒ガス怪獣が来なくなって、半年経った日。
おうちは少しだけ賑やかになり、そして静かになりました。
黒い服を着た人たちがいっぱい来ましたが、女の子は外で遊んでいました。
夏が来て、秋が来た頃。
お母さんと女の子は小さなお家を離れる事になりました。
「今度のお家は、空気が綺麗な所だからね」
「たのしみだね」
女の子は大好きなお母さんの手を握って答えました。
これで、白い小さなお家のお話はおしまいです。
女の子とお母さんは、もう毒ガスに悩まされる事無く、幸せに暮らしたそうです。
最後の一文を「きっと素敵な所だから」にするかどうか悩みました。
怖い絵本的な流れなら、それも有りかと思うんですが、救いが無いのもどうかと。
悪いのは毒ガス怪獣なので。