冒険者ギルドへ
洞窟探索の翌日、早朝からパチパチと音が聞こえ葵が目を覚ますと窓の外から赤い火が見えた。
「こんな時間に庭でなにが起きてるんだ?」音を立てないように注意しながら庭を見ると、火の出所は烈火だった。なにやら真剣な様子で魔法を唱えている。
「おはよう烈火。朝から鍛錬か?」
「ああ、おはよう葵。起こしちゃったか?」
「いや、自然に目が覚めたから気にしなくていい。筋トレじゃないなんて珍しいな。」
「実はさっきまでは筋トレだったんだ。だけどまだ詠唱がないと魔法の制御がうまく出来ないから練習してたんだよ。」
「詠唱なしの練習は俺も苦労したよ。だが烈火は前衛だろ?魔法なんてほとんど使わなし、無理に覚えなくてもいんじゃないのか?」
「そうなんだけどさ、出来ることをやらなくて後悔したくないんだ。それに一々詠唱するのって恥ずかしいんだ。」
「ふふっ。可愛いところもあるじゃないか。本当に詠唱なしで唱えたいならワンフレーズずつ減らしていくといい。上手くいかなかったその前の詠唱でひたすら唱えるんだ。そして翌日挑戦する。」
「なるほど、徐々に減らしていくのか?今日中には流石に無理なのか?」
「無理ではないけどギルドへ行くんだろ?烈火位真面目にやれば初級魔法なら1ヶ月あれば覚えられるさ。」
「一ヶ月か。やっぱりすぐには出来ないんだな。まあ頑張っていくさ、ギルドへはすぐ行くのか?」
「いや、午前は少し家を空ける。午後から行こう。」
その日の昼過ぎ、冒険者登録をするために二人はギルドへ来ていた。始まりの町の西の区画にある他よりもしっかりとした作りの建物だ。ちなみにそんなに広い町ではないため初心者の館から歩いてすぐだ。
頑丈そうな扉を開けて、葵が先に入る。
「おっさん、久しぶり。今日は先日のトリッパーの烈火の登録にきたんだ。」
受付にいたムキムキのオヤジが答える。
「おー葵か。確か最後に会ったのは竜神の谷だったか?だがお前は・・」「ストップ!」
「昔話はいいから烈火の登録をしてくれ。」
「あっああ、そうだな。じゃあ烈火、お前の世界の文字でいいからこの紙に名前と入りたいギルドを書いてくれ。それと申請にはステータスリングが必要だから貸してくれ。」
状況についていけてなかった烈火だが、慌ててステータスリングを渡して紙に名前を書く。
「なあ、えっと・・・。」「おっさんでいい。」
「じゃあおっさん、入りたいギルドって言ったけどそんなにギルドってあるの?」
「あー。説明が悪かったな、ここは冒険者ギルドだから冒険者ギルドには入れるんだが、ほとんどの奴がギルドパーティーを組むから組みたい奴がいたらそいつのパーティー名を書けってことだ。」
「わかった!俺は葵と組みたい。葵は入ってるのか?」
しばし悩んだ後、葵は答えた。
「俺はお前と旅をするかまだ決めてないんだが・・?」
「まだ決めてなかったのか?絶対に後悔させない。俺と一緒にいこう。」
「俺はお前に秘密がある。そしてお前は俺と同じくらい強くなるまでそれを教える気はない。だからお前が努力を怠ったり、俺に頼り切りになるなら見捨てるかもしれない。それでもいいか?」
烈火は力強くうなずいた。
「もちろんだ。俺は努力を続けるし、お前にだってすぐ追いついて追い越してやる。だから一緒に旅に出て冒険しようぜ!」
「わかった。」と小さく葵がつぶやいた。
「俺は長いことギルドに顔出していなかったからパーティーには入ってない。組みたいなら烈火が名前付けていいぞ。」
少し驚いた顔をした烈火だが、すぐにこう叫んだ。
「今日から俺たちはギルドパーティー「レッドブルー」だ!」
それを目の前で聞いていたおっさんが微笑しながら申請を受理してくれた。
「終わったぞ。ほれ、お前のステータスリングだ。それと葵のパーティーなら俺の名前も覚えとくといい。俺の名前は石頭 堅だ。」
「ありがとう、石頭のおっさん。もうこの町のギルドには旅に出るから来ないけどどこかであったらよろしくな!」
「それは問題ない。」
「???」
「異世界にはないらしいがこの世界には建物に転移魔法を付けれてな、ギルドランクがプラチナ以上になると自分の建物には好きな時に転移が出来るし、ステータスリングを填めてれば誰が入ってきたかもわかる。つまりどこの冒険者ギルドでも俺が行けば会えるってことだ。」
「???」
「まあなんだ。俺は冒険者ギルドのギルマスをしてるんだ。建物は全部俺の所有物であり、立場はお前の雇用主に当たる。」
「えー!!!」烈火が驚いている。
「おっと、他の町のギルドで暴れてる奴がいるからいくわ。じゃあな葵、烈火。そーいやまだギルドの説明してなかったな、葵任せたぞ。」
ギルドマスターの石頭が目の前から消えた。改めて烈火はこの世界が異世界であることを実感した。そして、あるがままを受け入れた。
「ところで葵。竜神の谷ってなんだ?」
「あー。昔竜神を怒らせた盗賊がいてな、そいつらのアジトが焼き払われて出来た谷だ。竜神の洞窟の近くだから人が住み着いててギルドもあるんだ。」
「そっか!結構近いのか?観に行きたいんだが。」
「そのうちな。あそこはモンスターが強くてお前じゃあまだ無理だ。」
「それじゃあ仕方ないな。いつかいこうぜ、約束だ!」
「ああ。お前がそこまで強くなるのを祈ってるよ。」
葵が真剣な目をしながら答えてくれた。
「ところで葵、ギルドについて教えてくれ。プラチナとか言ってたがさっぱりだ。」
「そうだな。昨日の夜話したことは覚えてるか?」
「ああ、もちろん。」
昨日の夜葵が烈火に話したのは二つのことだ。
一つはステータスリングにギルドの紋章が入ることで危険な区域に割と簡単に入ることができたり、ギルドと関係のあるお店で安く買い物が出来たりすることだ。
もう一つはギルドの依頼だ。依頼を受けて仕事を達成すると報酬が貰え、依頼と関係なくても貴重な素材などは買い取ってもらえる。依頼を達成していったり貴重な素材をたくさん持ってきたりするとギルド内の信頼が上がり、より高難度の依頼を回してもらえるようになる。
「こんな感じだったと思うが?」
「その通りだよ。ギルド内の信頼っていうのをギルドランクで区別してるんだ。」
葵が淡々と説明を始めた。。




