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二人目の能力決定 そして転移へ

 全ての能力が決定したことにより、俺は安堵のあまり足の力が抜け、膝をつきそうになった。

 思っていた以上に緊張していたということか。確定していた死を逃れ、運よく異世界転移をすることになったとはいえ、人生を左右する能力選択は心臓に悪い。

 使えない能力であれば使わなければ済む話なのだが、あの中には所有しているだけで害を与える能力が多すぎた。


『どんな調味料も出せる能力』『体の一部が痒くなる』『便通が良くなる』『不死身』


 最良とは言えないが上出来だと言えるだろう。迷惑なスキルは『体の一部が痒くなる』だけだ。程度もそんなに酷い感じではないようだから、何とでもなる。


「どういたしますか、松木志熊まつきしぐま様。能力が決定しましたので、軽い説明をした後に、いつでも異世界に送ることができますが」


 そうだな。もうここに留まる理由は無いのだが……寝巻きの女性が潤んだ瞳でこちらを見つめている。この状況に一人取り残されるのは心細いか。


「彼女が終わるまで、ここで待たせてもらってもいいだろうか」


「構いませんよ。お二人同時に後で説明したほうが手間も省けますので。では、暫くお待ちください」


 寝間着姿の彼女に目配せすると、嬉しそうに顔をほころばせて頭を下げている。


「ありがとうございます。松木さん。一人じゃ、不安だったので」


「私も貴方が……ええと、お名前を伺っても?」


斉場観祢津さいばみねつです。私も良いスキル手に入れられたら、いいのですけど」


「こればかりは運だから何とも。斉場さんが良い能力が得られることを願っているよ」


「はい、見ていてくださいね」


 気持ちのいい女性だ。俺よりかなり……10ぐらいは年下のようだが、あのような部下がいたら現場も和むだろうに。うちの会社のむさ苦しい男達や、気の強い女性陣とはえらい違いだな。

 斉場さんがどのような能力を手に入れるのか、後ろからそっと見守らせてもらおう。

 ボタンの前に立つ姿は少し震えているようだ。やはり、緊張しているのか。異世界での生活がこの能力に懸かっているのだ、当たり前のことだな。


 暫く、躊躇っていたようだがボタンを押したか。数字は――8。

 能力は『分裂』『チンポジが安定しない』


 ん……俺の見間違いか。もう一度確かめてみるとしよう。

 数字は8だな。

 まあ、なんだ。どちらの能力も問題しか感じないが、二つ目はアウトだろ。つまりあれが上手く収まらず、気持ち悪い状態になるってことだよな。男ならあるあるだが、斉場さんは女性だ。


「すみません。私は女なのですが、こっちになった場合、ええと、あの……」


「性転換でもしない限り、効果が発揮されない能力になりますね」


「は、はぁ」


 どちらにしろ碌でもない能力なのだから、悪影響が出ないならそれでいい気がする。


「じゃあ、やります!」


 意を決して斉場さんがサイコロを滑り落とした。気持ち的に2はやめてあげて欲しいが、1の分裂も俺には理解が及ばない。

 っと結果が出たか。


「1です!」


 おー、まずは一安心だ。斉場さんも安堵のため息を吐いている。

 しかし、『分裂』って何だ。言葉の意味通りに捉えるなら、幾つにも分かれると言った感じか。あとは生物が一体の個体から二つ以上の個体に増えるとかか。

 使いこなせればかなり面白い能力のような気がする。


「幸先いいですね。じゃあ、この勢いで次も!」


 初っ端から悪くない能力を引いて、気分が高揚しているようだ。ポンポンっとリズムよくボタンを押している。

 注目の番号は――34か。能力は『バンプアップ(筋肉増大)』『ランダム宴会芸(なんの役にも立たない手品ができる)』となっているな。


 バンプアップはいいな。単純でありながら戦闘にも使えて日常生活でも便利そうな能力だ。

 ランダム宴会芸は、あっても損はないだろう。悪い方の能力としては恵まれている方だな。必要なければ使わなければいいだけの話。


「筋肉ですか……出来れば超能力や魔法系の力が欲しかったけど、贅沢は敵よね、うん! といやっ!」


 今回の能力はデメリットがないので、かなり気楽にサイコロを振れたようだ。

 勢いが弱かったのであっさり止まったサイコロの目は――2か。

 ということは『ランダム宴会芸』となるのか。まあ、酒の席で使えそうなので、そんなに悪くないのではないだろうか。


「むっ、残念だけど、ここで悪い方を引いたら、次からいい方が出る確率が高くなりそうだもんね。うん」


 素晴らしいプラス思考だ。致命的な能力を引く前で良かったと考えた方が、気分的にも楽だ。


「よーし、今度はっ! ていっ、やあっ!」


 踊るようにボタンを連打したな。

 不思議なことに、自分の時よりも熱心に見ている。

 俺は何があっても自分の責任で生き抜くつもりだが、か弱そうな斉場さんはある程度の能力がなければ、異世界で生き抜くには厳しそうだ。

 俺の能力選びよりも重要な筈だ。今度こそは有益な能力を取って欲しいが……数字は46で、能力は『凄く目が良くなる』『味噌汁の味が安定しなくなる』か。


 『凄く目が良くなる』というのはそのままだよな。遠距離や暗闇でも見えるなら使える能力だろう。

 『味噌汁の味が安定しなくなる』は異世界のポピュラーな食べ物に味噌汁があると、少し困るが、その程度だ。

 悪い方もましだが、ここは良い方の『凄く目が良くなる』を手に入れて欲しい。『分裂』も強力な能力なのかもしれないが、わかりやすくて使い勝手のいい能力があった方が、生活が楽になる。


「や、やったー! 1よ、1!」


 考え込んでいてサイコロを見ていなかったが1が出たのか!

 飛び跳ねて喜ぶ姿を見ているだけで、こっちまで嬉しくなるな。

 これで斉場さんは『分裂』『ランダム宴会芸』『凄く目が良くなる』を手に入れたということか。直接的な攻撃に使えそうな能力は皆無だが、サポートやトリッキーな動きが期待できそうだ。


「透過能力、空を飛べる、テレポート、万能執事召喚……神様どれかお願いしますっ!」


 強く手を握り締め祈るポーズをした後に、斉場さんは頬を挟み込むようにして叩いて気合を入れると、ボタンを二度押した。

 これで最終の能力が決まる。彼女が望む能力に成れば最良だが。

 運命の数字は――62……ちょっと待て、その数字の能力は際立っていたので覚えているぞ。まさか、あれを引き当てるとは。

 自分の記憶が間違っていることを祈りながら、ホワイトボードを確認すると、


62『服を脱げば脱ぐほど強くなる』『自分の体臭が凶悪になる』


「あっ」


 その内容に思わず声が漏れた。

 斉場さんはその文字を何度も読み直し、ぎぎぎぎと錆びた音がしそうな動きで、顔を天伊子さんに向ける。


「やり直しは……」


「許可できません」


「うそおおおぉぉぉぉ。これ、どっちに転んでも……ひどすぎるっ!」


 今にも泣き出しそうな顔で、頬がピクリピクリと痙攣している。

 『服を脱げば脱ぐほど強くなる』は俺ならまだ使いようはあるが、女性にはきつすぎるだろう。ピンチになっていきなり服を脱ぎ出したら、ただの痴女認定されてもしょうがない。

 『自分の体臭が凶悪になる』はどの程度かにもよるが……。


「あ、あの、この自分の体臭が凶悪になるって、どの程度なのですか」


「そうですね。歩く生物兵器。何もケアをしなければ、下手したら人が死ぬレベルだそうです」


 斉場さんが硬直した。これは2を引いたら悲惨という言葉では済まない。まともな生活を営めるか怪しくなるぞ。


「そんな……だったら1しかないわ。1なら、別に使わなければいいだけ。無防備な時の保険と考えたら悪くない。うん、そうよ。だから、2は駄目、2だけは駄目よ」


 サイコロを握ったまま危ない目つきでぶつぶつと呟いている。

 必死にもなるよな。1が出て欲しいと、心から思う。女性にこの能力は可哀想だ。

 暫くそうしていたのだが意を決したようで、目が血走ったまま、サイコロを叩きつけるように投げ込んだ。

1、1、1、1、1……頼む、1よこい!


「神様仏様、1を、1をっ!」


 全員の視線がサイコロに注がれる中、サイコロはピタリと動きを止めた。

 その数字は――1!


「うわあああああああっ、やったあああああっ! ぐすんっ、よかったああああああああぁぁ」


 崩れ落ちた斉場さんが、感極まって号泣している。

 緊張のあまり握りしめていた手を開くと、汗でびっしょりと濡れていた。

 これで、何とかなりそうだ。俺も斉場さんも。


「全てが決定されました。お二人とも、最強も最悪も選ばれなかったようで、安心しています。それでは、異世界転移前の説明を始めます。全てを明かすと面白くありませんので、大事なところだけをピックアップします」


 何もかも理解した状態では新鮮な驚きが無い。不安ではあるが、小説として書く予定ならば当たり前の処置か。これ以上贅沢を言うものではないしな。


「あちらの世界では魔物や人間を倒すと、その生命力を取り込み、能力が向上します。ぶっちゃけ、敵を倒せばレベルアップします」


 わかりやすいが、その例えでいいのだろうか。


「あと、四つの特殊能力は向こうの世界では『加護』と呼ばれているので、ご注意願います」


 能力ではなく加護なのだな。覚えておく。


「加護は使いこなしていくほど能力の向上が見込まれ、更に追加能力が発生したりしますので、使える能力は何度も使ってみることをお勧めします」


 なるほど。一見使い道のなさそうな加護でも、能力が向上すれば思わぬ力に目覚める可能性があるのか。いや、待て、まさかとは思うが聞いておかなければ。


「すまない、一つ質問なのだが。『体の一部が痒くなる』を使いこなすと、全身が痒くなるといった悪化をしたりしないだろうな」


「その点はご安心ください。症状が軽くなることはあっても、使えない加護が悪化したりはしません……おそらく」


 最後の呟きが不信感を煽ってくれるが、今はその言葉を信じるしかない。


「あとの細かいことは自分で経験し、調べてみてください。私から提供できる情報はここまでです」


 俺はもう充分だ。答えがわかっていたら冒険にならないからな。折角の異世界だ。あとは、この目と耳と足で情報を集めればいい。


「斉場さん。短い間だったけど、共に過ごしてくれて感謝する。ありがとう」


「そ、そんな。私こそ、ありがとうございました。松木さんがいてくれて、心強かったです」


 俺は涙ぐむ彼女と握手を交わし、顔を見合わせると、どちらともなく微笑んだ。

 数奇な出会いだったが、彼女と共に過ごしたこの時を忘れないでいよう。


「お別れの挨拶は済まされたようですね。では、松木様、斉場様、異世界へと転移いたします。お二人の未来に光が射しますように。いってらっしゃいませ」


 優しく微笑む天伊子さんに見守られながら、俺たちは足元から伸びてきた光の柱に包まれ、意識が飛んだ。


なおPさん 

nekogurasiさん 

禅罪さん 

ダンさん

から選ばせてもらいました。ありがとうございます。

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