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能力決定

 目の前の鉄製の箱のようなものには数字が刻まれているらしく、それが高速で流れている。その動きを目で捉えてタイミングよく好きな数字を押し当てることは、まず無理だろう。

 ならば、運命に委ねるしかあるまい。


「では、いくぞ」


 手のひらサイズの赤いボタンの上に手を置き、あえて数字を見ずにボタンを強く押した。

 二つの数字のうち左の数字の回転が徐々に弱まり、3、4、5、6、7と目視で確認できる速度になっている。もうすぐ止まりそうだ、このままだと0いや、1、2で止まったか。十の位は2か。


「もう一度押してもらえますか。次は一の位です」


「了解した」


 さあ、次で能力が決まる。できるだけ、有意義なものが欲しいところだが。

 ホワイトボードに書かれた20から29までの能力にざっと目を通す。左側の欲しい能力で判断するなら、『自身の体を最適な状態まで巻き戻す』『何をしても疲労がたまらない』あたりが来るとありがたいな。

 異世界がどんな世界であれ、これがあれば生きていく上でかなり有利だろう。あとは『良縁』も捨てがたい。37にもなって未だに恵まれず独身を貫いている。異世界では良い廻り合せを期待したいところだ。

 さて、何を望もうが結果が全てだ、もう一度押すとするか。

 一の位の数字がゆっくりと速度を落とし、ぴたりと止まった。その数字は――5だ。


「25か」


 能力を確認するために視線を移すと、既に天伊子さんと寝巻きの女性が食い入るように、覗き込んでいた。二人とも気になるようだな。

 さて、25の能力は『自身の体を最適な状態まで巻き戻す』『体の一部が痒くなる』ときたか。一つ目は欲しかった能力だな。しかし、二つ目が……何とも判断し辛い。


「サイコロを振る前に質問なのだが、体の一部が痒くなるとはどんな感じなのだろうか」


「少々お待ちください……そうですね、時折体の一部が唐突に痒くなるようです。耐えられないレベルではありませんが、結構気になるぐらいのようです。頻度は低めですね」


 何とも微妙な能力だ。悪い方としてはましな方かもしれないが。


「ありがとう。では、サイコロを振らせてもらう」


 機械の横にはお椀状の大きな鉢があり、底は平らになっている。その脇に六面ダイスが一つ置かれている。ダイスを手に取り一応確認しておく。

 1と掘られた面の裏側が2となっていて、数も均等だな。神がいかさまなんて無粋な真似をするとは思えないが、人生が懸かっているのだから慎重になりすぎて困ることは無いだろう。


「いくぞっ」


 二人が固唾を呑んで見守る中、俺は運命のダイスを投げ入れた。

 交互に数字が現れては変化し、俺の心臓は早鐘の様に打ちつづけている。

 そして、運命の結果は――2。


「あああ……」


「そうなりましたか」


 残念そうに息を吐く寝巻きの女性と、少しだけ眉をひそめる天伊子さんがいるな。

 俺としては残念だが、結果を受け入れるしかない。


「一つ目の能力は『体の一部が痒くなる』に決定しました」


 そんな申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのだが。

 もっと酷い能力と比べたら、悪いなりに運がいい。


「気を取り直して、次にいかせてもらう」


 今度はポンポンとリズムよく二回押すとするか。そうすれば、二桁目と一桁目が同時に決まるので、焦らされずに済むだろう。

 今度こそは、何かしらの使える能力を願いたいが。

 またも回転を始めた数字を睨みながら、俺は二度赤いスイッチを押した。

 今度の数字は――44か。不吉な数字だが確認をしておこう。


『どんな調味料も出せる能力』『料理が必殺物になる能力』


 こうきたか。両方、料理に関する能力。一つ目は地味にありがたいな。どんな辺境の地に飛ばされるかわかったものではないのだ。何を食べるにしても味付けが自在にできるというのは重宝する。

 もう一つの方は良くわからないな。必殺とは必ず殺すということか。つまり料理すると死ぬレベルのまずさになるということか。これだと一生料理ができない体になりそうだ。


「何か、微妙ですね」


 寝巻きの女性はこの能力に魅力を感じていないようだ。俺としては結構使えると思うのだが、価値観は人それぞれだからな。


「今度こそは頼むぞ、サイコロ」


 強く握りしめると、前よりも勢いよく投げ放つ。

 湾曲した側面を転がり続けていたサイコロが、重力に負け底へと転がり落ちた。肝心のダイスの目は――1だ!


「よしっ!」


 思わずガッツポーズが出てしまった。流石に二回連続使えない能力がきてしまうと、結構堪えるからな。


「おめでとうございます。やりましたね」


 自分のことの様に寝巻きの女性が喜んでくれている。次は我が身なのだ、やはり良い能力が出るという事実が嬉しいのだろう。


「二つ目の能力は『どんな調味料も出せる能力』です」


 いい流れだ。この勢いで、次の能力もパッと決めてしまおう。

 さっきと同じように、赤いボタンを素早く連打した。

 三度目の数字は――18。能力チェックだ。


 『便通がよくなる』『食事をする前に厨二病チックなことを大声で叫ぶ』


「…………」


 沈黙がこの場を支配している。誰も口をきくことなく、ホワイトボードを見つめていた。

 読者の方は便秘気味だったのだろうか。この能力本当に欲しかったのだろうか……。いや、女性は結構悩んでいることが多いと言うからな。馬鹿にできない。


「まあ、ちょっと欲しいですね」


「ええ、実は私も」


 女性陣には不評ではないようだ。

 問題は悪い方か。『食事をする前に厨二病チックなことを大声で叫ぶ』これがもし選ばれてしまったら、食事は独りですることにしよう。

 サイコロを振らなければならないのだが、今までで一番緊張感が無い。

 1の方がいいことはいいが、2だとしても死につながるようなことでもないからな。偶然だとは思うが何故か料理関係の能力を引く傾向がある。料理は好きでも嫌いでもないのだが。

 さて、振るか。


 結果は1。おう、便通が良くなるようだ。


「三つめは『便通が良くなる』です」


 無表情ではあるのだが、微妙に困ったような顔をしている。こんな能力与える方も困るよな。気持ちはわかる。

 残りは一つか。今までに得た三つの能力は『どんな調味料も出せる能力』『体の一部が痒くなる』『便通が良くなる』か。

 見事なまでに戦闘に関する能力が無い。

 調味料がどれだけ出せるのかは不明だが、異世界では料理人や商人を目指すという道もありか。問題は異世界がどのような世界かによるということだろう。


「天伊子さん。送られる異世界とはどのような世界なのでしょうか」


「そうですね。王道のファンタジー小説やRPGの世界といった感じでしょうか。魔物と呼ばれる異形の存在がいて、人間もいます。人間相手に言葉は通じるようにしておきますので、その点は安心してください」


「治安の方は?」


「法を重視する町もあれば、荒くれ者が居座る無法地帯もあります。基本的には人間は魔物に困らされていて、それを退治する職業も存在します。ハンターと呼ばれているようです。文明レベルは中世ヨーロッパぐらいでしょうか。地球とは異なる発展をしていますので、一概には言えませんが」


「定番のパターンですか……」


 定番なのか? 寝巻きの女性はそれだけの説明で理解できたようで、何度も頷いている。理解力が高いようだ。


「危険なのだな」


「そうですね。町や村はともかく、外を歩けば魔物との遭遇が頻繁にあるので、町を離れて一般市民の一人旅なんて自殺行為と同等です」


「我々は町や村に転移するのだろうか?」


「申し訳ありません。転移場所もランダムとなっています。水中や空といった無茶な場所へは転移しませんが」


 いきなり危険な場所から始まるということもあるのか。ならば、最後の能力は戦闘を有利に運べるようなものがいい。


「情報感謝する。では、最後の能力も決めてしまおう」


 腕っぷしにはそれなりに自信はあるが、あくまで人間に対してだ。このままでは魔物相手に勝つことは厳しいだろう。こいっ、戦闘系の能力よっ!

 ボタンをリズムよく叩き、数字を凝視する。

 最後にはじき出された数字は――72。ほう、数字も能力表に書いてある最後の数字か。


 『不死身』『死の呪い』


 一つ目はそのままの意味だろう。これはかなり強いが、逆に死ねないということを後悔する場面に遭遇しないとも言えない危険性があるな。

 『死の呪い』とはかなり不気味な響きだが。


「死の呪いの効果を訊ねても構わないか?」


「自分に対して様々な死が訪れる。周りの生物にも効果は有るが頑張れば回避できる。とありますね」


 常に死の危険にさらされるという訳か。これを得てしまったら心休まる日々は期待できないな。

 サイコロを握り、大きく息を吸い込む。

 この結果で俺の人生が大きく変化することがわかっている二人が、じっと俺の手元を見つめている。

 なるようになるしかない。何を願おうが、サイコロの目が全てだ。

 無心で投げる……のみ!


 目を閉じ投げ込んだサイコロの転がる音が、静まり返った室内に響いている。その音が弱まっていき、完全に音がしなくなったところで俺は目を開けた。






 サイの目は――1!

 どうやら、幸運の女神は俺に微笑んでくれたようだ。




今回選ばれた能力は

清水主 初さん 

いきやすさん 

お腹痛いですさん 

ピクトさん

から応募していただいた能力です。本当にありがとうございました。

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