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魔法少女誕生

「でも、変身をするって……使い方とかわかっているの?」


「大が寝ている間に翔と打ち合わせはしておいたよ」


 ああ、あの息で気を失っている時に、そんなことをしていたのね。


「じゃあ、一度変身してみたの?」


「いいや。使ってみようかと思ったが……どうやら、使用回数が一日一回の10分程度らしいのでなあ」


 使ってみようとはしたのね。使い方や効力というのは、ある程度は頭に浮かんだりする場合もあるから、それで事前に予見したってことかしら。


「まあ、お喋りはここまでにするとするか。これ以上は待ってくれぬようだからのう」


 思ったより元気に立ち上がったお婆ちゃんに違和感を覚えているらしく、追撃することなくじっとこちらを観察していた大黒猿魔が、両手の剣を軽く振り回しながら歩み寄ってきている。


「お婆ちゃん、やっちゃえ! ちゃんと覚えているよね?」


「ああ、能力発動時にはちゃんと台詞を言って身振りも加える。だったかのう」


 えっ翔ちゃん!? いらないこと教えてない!?

 お婆ちゃんはフードを外すと、手の平を太陽に掲げるようにして、勢い良く腕を伸ばした。


「摩訶不思議能力、解放――変化へんげっ!」


 渋い、変身の呪文が渋すぎるっ!

 台詞を放つと同時にお婆ちゃんの体が光に包まれ、ローブとガスマスク、そして中に着込んでいた筈の衣類が全て吹き飛んだかのように見えた。

 って、お婆ちゃん屋外で露出って! あれ、首から下が全身光のタイツのようなもので覆われているわ。魔法少女変身の定番は抑えているのね。


 体の凹凸がはっきりと見て取れるのだけど、老化によりお尻も胸も残念な状態だったのが、ぽんっとコミカルな効果音がしたかと思ったら、大きく隆起した。

 更に、首から上に光の輪が通り過ぎていくと、その顔が若々しく蘇り、昔見せてもらった20代半ばの写真の面影を残した、美少女の顔が現れたわ。


「写真でスタイルがいいのも、美人だったのも知っていたけど、これ程だったとは……」


 長い髪を後ろで束ねていた髪留めが消滅して、長く白い髪が大きく後方へ広がる。それが白い翼を広げた白鳥のようで、思わず見とれてしまう。

 白髪が意志を持った生き物の様に三つに分かれると、一斉に絡み合い一本に纏まった三つ編みを作り上げた。その根元を白く大きなリボンで結んでいる。

 再び、ぽんぽんっと効果音がすると、今度は光に包まれていた体の脚に白銀に輝くブーツが具現化されて、脚に装着される。つま先近くから靴紐が交差しながら膝近くまで伸び、一番上で可愛らしく蝶々結びになっている。

 それだけならシンプルなデザインのブーツなのだけど、足裏には鋭い光を放つ刃――ブレードが装着されていた。


「あれって、スケート靴?」


 そんな疑問に誰も答えてくれるわけもなく、お婆ちゃんの変身は続いている。

 腕にはスケート靴と同じ色彩の手袋が。そして体にはぴったりと肌に張り付く、胸元が大胆にカットされたワンピースの水着の上から、ひらひらのミニスカート。白銀を基調としているけど青い雪の結晶を模った模様が、ちりばめられている。


 お腹には大きな布が巻き付き、腰側で束ねられているけど、リボンじゃなくて帯っぽいわね。

 まるで、フィギアスケート選手の衣装みたい。

 そして、最後にお腹まで届かないぐらい丈が短く、七分袖のサファイアのような透き通った海の様に鮮やかな青のジャケットが、ふわっと舞うように現れると自動的に袖を通された。

 不自然に宙へ浮いていた、元お婆ちゃんの美少女がすっと地面に降り立つ。

 そこにはアニメのキャラよりも、お世辞抜きで可愛らしく見える、コスプレ美少女がいた。


「お、お婆ち――」


「まだだよ、そこでキメ台詞とポーズ!」


 翔ちゃんが余計なアドバイスをしているわ。熱いわね……。

 それを聞いたお婆ちゃんが小さく頷くと、右腕をピンと伸ばす。


「戦時中に生を受け。戦後の荒波を逞しく乗り越えてきたこの細腕。愛する家族の危機を救う為――」


 お婆ちゃん前向上が重い!

 そこで何故か一回謎のターンが入ってから、両足と両腕を絡ませた状態でピンと立つ。


「そこでお婆ちゃんの考えたカッコイイ名前を!」


 翔監督ちょっとうるさいです。


「魔法少女ハイカラアイス! ここに推参!」


 眩しいっ。背後から光が無駄に溢れているわ!

 だいたいハイカラアイスって……何か、美味しそうなアイスクリームとしか思えない。たぶん、フィギアスケートの選手っぽいから、そこに絡ませた名前なのでしょうけど。ハイカラって、アイスって。

 でもこの格好って、お婆ちゃんが若い頃スケートの選手をしていたことに由来しているのかしら。


「お婆ちゃんカッコイイ! あ、違った。ハイカラアイス頑張って!」


 お婆……ハイカラアイスが声援に応えて拳を振り上げているわ。

 もしかしてノリノリ?


「任しておくのじゃ。このハイカラアイスが敵を殲滅してみせよう……じゃ!」


 うわっ、声も若々しい。お婆ちゃんって若い頃はこんなに可愛らしい声をしていたのね。でも、口調がおかしい。


「お婆ちゃん語尾に、じゃ。何て付けてなかったわよね」


「お母さん、魔法少女は個性的な話し方をしないとキャラが立たないんだよ? 視聴者に印象付ける為にも、キャラ付けは大切だからね。僕が考えたんだ!」


 何処でそんなこと覚えてきたの、翔ちゃんは。それにそんな性格していなかったわよね、翔ちゃん。ちょっと将来が心配になるのだけど。


「キッキィ?」


 あ、大黒猿魔が呆気にとられて、小首をかしげているわ。他の黒猿魔も同じように状況についていけていないみたいね。まあ、心構えがあった私ですら、度肝を抜かれたのだから心中を察するわ。

 真っ先に我を取り戻した私は、小さくお婆ちゃん――ハイカラアイスに囁く。


「体の感じはどう?」


「力が漲るよう……じゃ。力の振るい方も何となくだが理解できる……じゃ」


 無理して、じゃ。付けなくてもいいのに。


「キキッキキキキー!」


 まずは子分たちに戦わして様子を見るつもりね。そりゃそうよね、いきなり光を放ち衣装を着て若返った老婆がいたら、普通警戒するわ。

 ハイカラアイスを黒猿魔が取り囲む。ちなみに私は距離を置いて見物中だったりする。命が懸かっている場面の筈なのだけど、何と言うかここに割り込むのは場違いな気がするのよね。これも変身能力の効果なのかもしれないわ。

 決して、あれに関わるのが恥ずかしい訳じゃないから。


「ふむ、遠慮せずにかかってくるがええ……じゃ」


 もう突っ込まないからね。

 ハイカラアイスが手招きすると、まるでタイミングを合わせたかのように一斉に襲い掛かっていく。

 軸足を真っ直ぐ伸ばして体を90度横に傾け、もう片方の足を地面と平行にする。Tの字を体で表現するとその場で高速回転をしているわ。あれって確かフィギアスケートの技よね。


「アイスキャメルスピン!」


 靴裏のブレードが周囲を薙ぎ払うと、まだ触れられない距離だというのに黒猿魔の動きが不自然に空中で制止すると、体中に無数の線が刻まれる。

 そして、その線を境目に体が幾つにも分断された。

 アイスは余計だけど、あれが……魔法少女の技……なの。

 ハイカラアイスはそこで動きを止めることなく、地面をまるで氷上のように滑っている。足元のブレードを注意深く観察すると、触れている地面が凍っているわ。


 後ろ向きに滑走しながら軽く跳ぶと、一回転をして着地と同時に左足をすっと伸ばした。

 まさに踊るような一連の動きに見とれていた黒猿魔は、ブレードが自分を真っ二つに切断されたことを理解することなく、上半身が地面へとずれ落ちる。

 本来なら切断面から血が吹き出るべきなのに、さっきの黒猿魔も同じだが切断面が凍り付いていて、死体のグロテスクさが全くない。


「凄い、凄いよ! ハイカラアイス!」


 だから、その凄惨さに気づくことなく翔ちゃんが絶賛している。まるで、アニメ……いえ、特撮ヒーローでも見ている気分なのでしょうね。


「お婆ちゃん危ない!」


 その動きに唯一見とれていなかった個体――大黒猿魔が大振りの一撃を横に薙いだ。


「アイスイナバウアー!」


 技名を叫びながら上半身を反らして、その斬撃を紙一重で躱している。でも今のって技名、必要ないわよね。

 その体勢のまま大黒猿魔の横を通り過ぎていったハイカラアイスが、後方で大きくターンをして背後から急接近している。

 今、通り抜ける際にブレードで斬りつけたらしく、大黒猿魔の足首に傷がつき凍り付いているが、気にしている様子が全くない。


 あれには、あの程度の攻撃では効果が期待できないのね。もっと、高威力の一撃を加えなければ。

 ただ、渾身の一撃を放つ為に威力を上げるには、ハイカラアイスの体格だと助走と回転力が必要となるだろう。事前にそんな大きな動きを加えれば、相手に気づかれ警戒されるに決まっている。

 どうにか、相手を動揺させるかして隙を見出さないと、勝ち目は正直厳しい。だけど、魔法少女に変身は時間制限がある為、時間をかけすぎるわけにはいかない。

 ハイカラアイスがトップスピードに達すると、膝を曲げ大きく跳び上がる。


「アイススクリューアクセル!」


 大黒猿魔の身長を軽く超える跳躍力を見せつけると、腕を胸の前で交差させて、まるでドリルの様に鋭く回転をして風を孕み、小さな竜巻と化したハイカラアイスが大黒猿魔へと突き進む。


「ダメよっ! それじゃ、迎撃されちゃう!」


 空中からの攻撃では軌道の変化も不可能。どれだけ威力があろうと、そんな単純な攻撃が通用するわけがない。

 大黒猿魔も同じ考えなのだろう。口の端を吊り上げると大剣を二本とも振り上げた。

 このままじゃ、お婆ちゃんが殺されてしまう!

 何か、何か、何とかしないとっ!


「わあああああっ!」


 この絶叫は翔ちゃん!?

 大黒猿魔が耳を抑えて体勢が崩れた! 

 あっ!? 翔ちゃんが幽体化した状態で黒猿魔の耳元まで移動して、叫んだのね!

 それは致命的な隙だった。ブレードの先が胸の中心に到達すると、飛散する氷の粒が陽の光を反射して煌めき幻想的な光景が目の前に広がる。

 ハイカラアイスは高速回転を維持したまま大黒猿魔の体を貫き、華麗に着地するとスーッと地面を滑っていく。


 体に大穴の空いた黒猿魔の親玉が仰向けに倒れ、それを合図に生き残りの猿たちが四方八方に散っていくわね。

 こうして親玉の死により、黒猿魔との戦いに幕が下りた。



ここまで吹っ切れると、中々楽しいです。

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