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加護の力

 さあ、お母さんの凄さを見せつける時が来たわ。

 どの能力から確かめようかしら。

 『話をすれば服がむける』は家族相手だと問題がないから調べようがないわね。

 『オカマ化』は、いつもと変わり無いわ!

 『言語理解』異世界の文字も見当たらなければ、異世界人も何処にもいないわ! それに、この世界の人間が話す標準語は理解できるって話だったし。これも暫く確かめようがないわね。

 必然的に『空を飛べる』ぐらいよね検証できそうな加護って。


「今、調べられそうなのが空を飛ぶ加護ぐらいだから、それをするわね」


「いいなー、空飛べるの」


「どこぞのアメリカンヒーローかのう」


 羨望の眼差しが注がれているわ。やっぱり、空を飛べるというのもわかりやすくて、憧れる能力よね。問題はどれぐらい利便性があるかということと、燃費よね。


「じゃあ、行くわよ。アイキャンフライ!」


 全身に力を込めて、イメージで言うならトンデモ格闘アニメで空を飛ぶ感じ。体中を見えない何かで覆って、体を浮かせる……浮かせる。


「ああっ、お母さん! 足浮いてる、浮いてる!」


 あらっ、本当ね! 少しふわっとして足元がおぼつかない気がしたけど、本当に浮いているわ!

 って、体が横にっ!


「お母さん、危ないっ!」


 バランスを重視して、水の中をイメージして……脚だけじゃなく、全身に均一に力を注ぐ。


「ほおおう、見事なもんだねえ」


 よっし、安定してきたわ。コツを掴んだら、楽勝とまでは言わないけど何となるわね。これなら一輪車とかの方が難しいかもしれないわ。

 今は10センチぐらい地面から浮いた状態。もう少し高度を上げてみようかしら。墜落した時の事を考慮して、3メートルぐらい上げましょうか。

 すーっとエレベーターに乗っているような感覚がしたけど、それは一瞬。意外と楽に上がれたわね。じゃあ、ここから本格的な飛行を開始するわよ。

 体を横に倒して、空を泳ぐように飛んでみる。


 ああっ、風が心地いい。吹き抜ける風を全身に浴び、風景が後ろへと流れていく。

 速さとしては全速力で走る程度までが限界っぽいけど、この爽快感は病み付きになりそう。空を飛ぶってこんなにも気持ちいい……はあはぁ……もの……はぁはぁはぁ……なの……うおおおぇ。


「どうしたの、お母さん。急に着地して」


「あ、うん、はあはあ、しんどいわぁ」


 飛行するのって体力消耗が激しいのよ。たぶん、走っているのと同じぐらいの疲労ね。だから、300メートルぐらいなら全速力で飛べそうだけど、それ以上となると気を付けないと駄目ね。

 歩く程度のスピードなら問題なく結構飛べそうだから、それも今度調べておかないと。


「もう、大丈夫よ。ありがとう翔ちゃん」


 背中をさすってくれていた翔ちゃんにお礼を言ってから、深呼吸を繰り返した。うん、OKよ。久しぶりに本気で500メートル走ったみたいな、気だるさと体力の消耗ね。


「私の加護はこれぐらいでいいわね。じゃあ、次はお婆ちゃんお願い」


「あいよ。まず何からいこうかね」


「そうね、色々気になるけど、まずは『人の心が読める代わりに嘘がつけない』からかな」


 息が臭くなるのも美少女戦士に変身も、後回しにした方がいい。

 お婆ちゃんは口の臭さを気にしてか、ずっと風下に陣取っているわね。想像を超える悪臭だった場合、その後に支障をきたしそうだから。


「じゃあ、翔ちゃん口に出さないで何か考えてみて」


「ええとそれじゃあ……うーーんっ!」


 じっと翔を見据えていたお婆ちゃんの表情が柔らかくなったわ。たぶん、今、心を読んだのでしょうけど、客観的に見て全くわからないわね。発動時に何か変化があるかと思ったのだけど。


「翔はお腹空いているんかい。お婆のを調べ終わったらご飯にしようか」


「うわっ、お婆ちゃん当たった!」


 う、うーん。それって勘でも言い当てられそうな微妙な感じね。もうちょっと、確信を持てるようなのがいいのだけど。


「お婆ちゃん、次は私の心を読んでもらえるかしら」


「あいよ」


 さてと、何を考えようかしら。そういや、異世界にはいい男っているのかしら。理想は筋肉質で包容力があって、やっぱり年上よね。頼りがいのある男って素敵。


「良い男がおるとええなあ。おじいはそんな感じのええ男やったよ」


 あら、完璧に読まれているわ。


「お婆ちゃん、心を読むときに思ったことや違和感とかない?」


「そうやねえ。ああ、翔の声はかなり大きかったけんど、それに比べ大のは囁くように聞こえたなあ」


 なるほど、強く思えば思う程、声が大きくなるのね。翔ちゃんかなりお腹空いているみたい。ごめんね、もうちょっとだけ辛抱よ。


「さーて、じゃあ今度は『体の大きさを自由に変えられる』いってみましょうか」


「ふむ、まずは巨大化してみようかね」


 さて、どれだけ大きくなれるのか。理想だと上限なしがいいけど、そんなに都合よくいくわけない――おおおおっ!

 お婆ちゃんの体が膨張していく……何故か全身から蒸気のような物が噴き出しているけど、これってただの演出よね?

 ぐんぐんと大きく、大きく、何処まで大きくなるの!?

 隣では翔ちゃんがぽかんと大口を開けて見上げている。首が痛くなるぐらい仰け反っていると、お婆ちゃんの巨大化がぴたりと収まった。


「ここらが限界みたいやねえ」


 お婆ちゃんが空を見上げている。その声はこちらに向けて放たれた言葉ではないというのに、鼓膜を大きく揺るがしてきた。かなりの大声ね。

 たぶん、身長が5メートル、いえ6メートルはあるわね。マンションの三階ぐらいかしら。

 そしてありがたいのは、服ごと大きくなったことね。そこが変身の加護を持つ翔ちゃんとの一番の違いかもしれないわ。

 服がそのままだったら、裸体を晒す巨体老婆が完成するとこだったもの。敵を威圧するにはありかもしれないけど。


「お婆ちゃああああああん! 今度は小さくなってえええええ!」


「はいはい。小さくねー」


 今度は見る見るうちに体が縮小されていく。首が痛くなるぐらいに見上げていた対象が、今は見下ろし、更に小さく小さく縮んでいくわ。


「小さいのはここまでかのう」


 そこにいるのは、私の足首程度までしか身長のない、フィギアのようなお婆ちゃんだった。

 10センチぐらいよね。ここまで小さくなれるなら姿も隠しやすいし、疲れた時に運ぶことが容易になったわ。


「ありがとう、お婆ちゃん。元に戻ってくれる?」


「はいはい」


 元の大きさに戻ろうとするお婆ちゃんを眺めながら、次の加護をどっちにするか迷っている。

 魔法少女に変身は、こう、何と言うか、心構えが必要なのよね。若返ってくれるなら、驚くだけで済むけど、そのままあのキャピキャピした格好になられたら、私どう反応していいのか。

 やっぱり、先に口臭調べておきましょうか。正直な話をすると、これだけ離れていて、お婆ちゃんが風下にいるというのに、少し臭いのよね。

 これが至近距離で嗅ぐとなると……いえ、ここは孫としてちゃんと調べておかないと。私たちだけならまだしも、他人に影響を与えるかもしれないのだから。


「それじゃあ、お婆ちゃん『吐息がめっちゃ臭くなる』試しましょうか」


「無理せんでもええよ? お婆ができるだけ皆に近寄らんかったらいいだけ」


「それは駄目よ。私たちは家族なのだから。ずっと一緒よ!」


 お婆ちゃんだけのけものにするなんて、考えたくもないわ。臭いなら臭いで、現状を知らないと対策も練れないからね。


「なら、遠慮なくやらせてもらおうかね」


 お婆ちゃんが徐々に近づいてくる。念の為に翔ちゃんには離れてもらった。

 うっ、こ、これは。出来るだけ呼吸を抑えているにも関わらず、この猛烈な臭気!

 頭がくらくらしてきたけど、まだよ、しっかりと意識を保たないと!


「さあ、お婆ちゃん、息を吹きかけて!」


「どうなっても、知らないからね」


 湿り気を帯びた吐息が私の肌を撫で、鼻孔に入り込んだ――





「……そろそろ」


 えっ、遠くから懐かしい声が。


「お母さん、お母さん」


 これは翔ちゃん……。

 私は今、何を……。


「おきんかい!」


 お婆ちゃん!?

 怒鳴り声で完全に覚醒したわ。私はお婆ちゃんの息を浴びて気絶したのね。

 目を開けて上体を起こすと、目の前には口元に怪しげなガスマスクを装着した人がいた。誰!?

 口元を完全に覆う濃い緑のガスマスク。それに体にはフード付きのローブって怪し過ぎるで……あれ、お婆ちゃん?


「いつまで寝ぼけておる気や」


 そう言えば、こんなに至近距離なのにあの臭いが全くしないわね。


「私どれぐらい気を失っていたの。それにお婆ちゃんその格好」


「時間で言うなら一時間程度かのう。お婆と翔は先に軽く食事をとっておいたから」


 そんなに気を失っていたのね。あれってもう、臭いとかじゃないわよね。毒ガス兵器並みの威力じゃないの。


「大が言う通り、この息は危険すぎると判断してなあ。荷物の中に何か使えそうな物は無いかと調べておったら、こんないいもんがあったという訳だよ」


 それでガスマスクをしているのね。でも、普通ガスマスクってガスを吸わないようにするもので、吐き出さないように抑える物じゃないような。


「効果があるからどっちでもええ。それにな、外して首からぶら下げているだけでも、威力は落ちるが効果があるらしい」


 便利なものね。あっ、今気づいたけど、普通口を覆っていたら声はくぐもって聞こえる筈なのに普通に聞き取れる。これも、天伊子さんがくれた特殊なアイテムみたいね。

 もう、足を向けて眠れないわ。


「心配かけてごめんなさいね、二人とも。よっし、気を取り直してお婆ちゃんの最後の加護を調べておきましょうか」


「それは止めた方がええ。こっちに向かってくる何かがある。だから、大を起こしたんやよ」


 お婆さんの発言を肯定するかのように、微かだが何かが大地を踏みしめる音が複数、私の耳にも届いてきた。



間違って二話連続更新しています。

ストックがっ。

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