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大中翔 8歳 その1

 僕の名前は大中翔。優しくて強いお母さんと、いつもニコニコ笑って面白い話をいっぱいしてくれるお婆ちゃんがいる。本当はお婆ちゃんじゃなくて、ひいお婆ちゃんらしいけど、おばあちゃんで良いって言ってた。

 みんな大好きだけど、僕はお母さんから産まれていない。

 お母さんはお父さんだから。

 本当のお母さんは、お母さんがお父さんだった頃に離婚して、僕を置いていっちゃった。

 2歳になった時にお父さんと僕とお婆ちゃんを捨てて、別の好きな人と何処かに行ったって近所の人や親戚のおばちゃんが言ってた。僕はそれを聞いて悲しくなったので、お婆ちゃんに聞いてみたら、


「それは本当のことだよ。でもね、翔はお婆や大の家族だよ。翔は本当のお母さんに会いたいかい?」


 僕はすぐには答えられなかった。

 本当のお母さん……ほとんど覚えてないけど、少しだけ、覚えていることがある。

 僕を見下ろして、ちっ、と舌打ちして意味もなく僕の頬を叩いていた、あの女の人がたぶん、本当のお母さん。

 だったら、会いたくもない。だって怖いから。

 僕は毎日とっても楽しかった。でも、お母さんはたまに辛そうな泣きそうな顔をして僕を見ることがあった。


「どうしたの、どこか痛いの?」


「ううん、大丈夫よ。翔は優しいわねぇ。もう、お母さん感激っ!」


 僕が心配すると、いつもお母さんは嬉しそう笑って僕を抱きしめてくれる。

 寝起きは少しあごがざらざらして痛いときもあるけど、抱きしめてほっぺたをすりすりされるのは大好き。

 お母さん無理をしているのかな。本当に大丈夫かな。

 待っていてねお母さん。僕がもっと、もっと大きくなったら、お母さんもお婆ちゃんも守れる大人になるから。だから、僕は一生懸命勉強をして、お手伝いも頑張るから、また一緒に公園いこうね。





「翔ちゃん、どうしたの? 怖いなら次はお母さんがやるわよ」


 お母さんが僕の目を覗いている。

 今日もかっこよくて可愛いピンクのスーツが似合っている。背中まで伸びた長い髪を後ろでまとめているゴムは、僕がお母さんの誕生日にプレゼントしたゴム。

 七つの色のゴムを毎日順番に付けてくれている。今日はお母さんが一番好きなピンク色のゴムだ。僕もお母さんはピンク色が一番似合っていると思う。

 薄くしか化粧してないのに凄く綺麗で、お母さんをぼーっと見ている人がたまにいる。ああいうのを、見とれているって言うらしい。

 お胸も大きいけど、あれはツメモノって言ってた。お母さんは、


「男なんて偽物であっても大きければつい見ちゃうものなのよ。単純よねー」


 と笑っていたけど、良くわかんなかった。


「翔や。もし、変な能力になっても心配せんでええからな。お婆や、大がちゃーんとまもってやるから。ゲームだと思って楽しんできたらええ」


 お婆ちゃんも僕を心配してくれている。

 僕のお婆ちゃんはお年寄りで、81歳になった。

 昔の少し怖い戦争が終わった後の話や、田舎での面白かったお話をいつも寝る前にしてくれる。

 ちょっとだけ腰が曲がっているけど、声も耳も全然問題ないのが自慢らしい。おててもお顔もしわくちゃだけど、昔は薄幸の美少女だったと言ってた。


 若い頃の写真が一枚もないから見せてもらったことはないけど、今でもお婆ちゃんは優しくて可愛いと思う。僕と同じ年の頃はびっくりするぐらい、美人さんだったって自慢していた。写真がないのがちょっと残念。


「お婆ちゃん大丈夫だよ。僕、すっごくわくわくしているんだ!」


 そう言ってニコッと笑うと、お婆ちゃんもお母さんも笑ってくれた。

 よおおおし、いい能力をゲットして二人に楽させてあげないと。


「大中翔様、準備は宜しいでしょうか」


「うん、オッケーだよ、お姉ちゃん」


「お姉ちゃん……そうですか。では、良い能力が与えられるといいですね」


「うん!」


 見習いのお姉ちゃんは、驚いた顔をすると少しだけ優しくなった気がする。

 ちょっと笑っているのかな。うんうん、前よりもずっといい顔になっている。あんなロボットみたいな顔より、こっちの方がいいのに。


「流石翔ちゃんね。将来が怖くなるぐらいの、女たらしっぷりだわ……」


 女たらしって何だろう?

 あとでお母さんに教えてもらおう。ええと、この赤いボタンを二回押すんだよね。お婆ちゃんみたいな変身する能力が欲しいな。


「えいっ、えいっ」


 二回押すと、くるくる回っていた数字が二つ止まった。

 ええと、53であの表だと『無双の力を手に入れる』『年上からモテまくる』って書いてる。ちゃんと送り仮名を書いていてくれるから僕だって読めるよ。

 でも無双ってなんだろう。


「また凄いの引いたわね。翔ちゃん昔っから運もいいから、あんまり心配していなかったけど、これだとどっちになっても、とんでもないことになりそうね」


「お母さん、無双ってなーに」


「うーーん、そうね。すっごく強い力が使えるようになるってことかな」


「ほんと!? 僕、それがいい!」


 強くなれるなら、お母さんとお婆ちゃんを守ってあげられる。モンスターが一杯いるところだって、頭に入ってきた説明書に書いてあったから、僕が皆を守らないと。


「ええと、1がでますように、お願いします」


 手を合わせてお願いをしてから、僕はボタンを両手で押した。

 目を閉じていたのでゆっくり開けると数字は――2だった。


「2だったぁ。ごめんね」


「謝らなくていいのよ。充分使える能力だから。むしろ、こっちの方が強いかもしれないわよ?」


「確かになあ。翔はただでさえ年上の相手から好かれるのに、更にそれが強化されるとなると、末恐ろしいわい」


 そうかな。絶対に無双って方が強いと思うけど。


「一つ目の能力は『年上からモテまくる』になりまし……」


 あれ、何で見習いのお姉ちゃんは僕をじっと見ているのかな。ちょっと、はあはあ、しているし。しんどいのかもしれない。


「お姉ちゃん大丈夫? お熱ない?」


「はうううぅ……はっ、いえ、大丈夫ですよ。ご心配いただきありがとうございます……試しに能力発動させてみたのは間違いだったわ……危険ですねこれは……」


 体を後ろに反らせて顔真っ赤だけど、本当に大丈夫なのかな。何かぶつぶつ言っているし。


「しんどいなら、お休みした方がいいよ?」


「だ、大丈夫だから。で、では、次の能力を選んでいただけますか」


 目がウルウルしているし、顔もまだ赤いから心配だな。でも、大人はしんどくてもやらなくちゃいけないことがあるって、お母さんも言っていた。子供の僕が……ええと、こういうのは確か、あ、うん。口を挟んじゃいけないんだよね。


「じゃあ次、選びます!」


 お姉ちゃんがしんどいなら、出来るだけ迷惑かけないように早く終わらさないと。

 ぽんぽんっとボタンを押したら、今度は32って出た。


 能力は『マルチタスク』 『心が読める能力』


 あっ、『心が読める能力』ってお婆ちゃんと一緒だ!

 ええと『マルチタスク』って何だろう。わかんないや。


「お姉ちゃん、マルチタスクって何ですか?」


「はぁう。お姉ちゃんと呼ばれるのがこんなに危険だとは……す、すみません、マルチタスクの説明でしたね。複数の作業を同時にこなすことが可能になる能力です」


「複数の作業? 同時にこなす?」


 難しすぎて、よくわかんない。う、うーん、どういうことなんだろう。


「ええとですね。例えば算数の宿題をしながら漢字の勉強もできるといった感じでしょうか。二つ以上の事を同時にできる能力です。初めの頃は二つ同時が精一杯かもしれませんが、使いこなしていくうちに同時に幾つもの……いっぱいできるようになりますよ。あとこればパッシブの能力なので、使用しても精神力や体力を過剰に消費したりはしま……ええとね、そんなに疲れないってことです」


 お姉ちゃんが親切に教えてくれたので、少しだけわかった。

 いつもだったら、何かしている時はそれしかできないけど、他にもできるようになるってことだよね。勉強二つ同時にできたら宿題とか楽だなー。


「お姉ちゃん、教えてくれてありがとうございました。サイコロ振ってもいいですか?」


「ええ、どうぞ」


 神様の見習いしている人だから、もっと怖い人なのかと思ったけど、優しいお姉ちゃんで良かった。

 お婆ちゃんと一緒でも嬉しいし、一杯勉強できるようになる『マルチタスク』も楽しそう。本読みながら、お手伝いとかもできるのかな? 


「とうっ」


「可愛い……」


 今、お姉ちゃんが何か言ったみたいだけど、良く聞こえなかった。

 ええと数字は何かなー。うわっ、1だ!


「やった、やった! お母さんお婆ちゃん、1、1!」


「んま、凄いじゃないの翔ちゃん」


「やりおったな、翔」


 嬉しくて二人に抱き付くと、皆、笑顔だ。本当は『マルチタスク』っていうのが良くわからないけど、みんなが喜んでいるなら、とっても良いものだよね。


「おめでとうございます、翔様。二つ目の能力は『マルチタスク』になりました」


「ありがとう、お姉ちゃん!」


 皆がおめでとうって言ってくれて、まるで誕生日みたいだ。

 嬉しいなー。みんなが笑ってくれて楽しいなー。

 このままずっと、ここで能力選んでいたいぐらい楽しい……ええと、違った。こういうのは――幸せって言うんだ。


今回の能力はお二人からいただきました。

気分屋さん 無窮灰影さん

ありがとうございました。

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