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たくましく

本日二話目です

 直射日光が目に沁みるわ……。

 大木の先端部近くから生えた枝にパジャマで体を固定させて仮眠していたのだけど、意外と眠れたわね。加護を発動したから疲労がたまっていたのかな。

 それにしても、この環境で眠れるなんて……それも、ほぼ全裸で。

 『脱げば脱ぐほど強くなる』の強くなるって言うのは、精神にも影響を与えている気がする。私はこんなに神経図太くない。


 パジャマを着ていても肌寒いぐらいの寒さだったのに、今は少し暑いぐらい。 これも加護の影響としか考えられないわ。かなり高い木の上だから、少しは安心できるわよね。そろそろパジャマの上だけでも着ておこう。

 はあああぁ、胸の露出が抑えられただけでもだいぶ違うわ。何と言うか、人として大事なものを取り戻した気がする。

 ズボンも穿きたいけど、運動神経が元に戻るのが怖いから、そこはぐっと我慢よ。

 よっし、まずは自分が今どうなっているのかのおさらいからしようかな。


 異世界に転移することになった。

 森の中に転移して、緑の化け物に捕まった。

 檻に入れられて、食材に成りかけた。

 加護の力で逃げ出した。


 こんなところよね。何が最悪って、ここが魔物の国だってこと。言葉通りに受け取るなら魔物が住む国。私を見て逃げてきた奴隷とか言っていたし、最低の気分ね……。

 人間が奴隷として扱われていて、おまけに魔物ばっかりの国。さようなら、逆ハーレムの夢よ。さようなら、イケメンパラダイス……。


 よおおおおし、落ち込むのはここまで。頭切り替えよう。まずは生き抜くことが最優先。うじうじするのは生活が安定してから。

 羞恥心を犠牲にするけど、私には力がある。絶望するにはまだ早い。

 今こそ、異世界転移系の小説を読み漁ってきた知識を活かす時よ。


 異世界転移でありがちなパターンその1。

 レベルアップの概念があるなら、勿論ステータスも用意されているべき。だったら、そのステータスや自分の能力を確認する方法があるのが決まり事よ。

 まずは定番の


「ステータスオープン!」


 ……何も出ないわ。普通ならここで自分のステータスが、まるで液晶パネルが存在するかのように目の前に表示されるのに。


「能力開示! 開け!」


 これも無理なのね。となると、ステータスを見る方法で考えられるのは、冒険者ギルドに所属するしかないのかな。あ、違うわ。この世界では冒険者じゃなくてハンターとか神様見習いさんが言っていた。

 そこでカードを貰ったら能力の確認できるっていうのが基本だし。

 うーん、せめてレベルの確認ぐらいはしたかったけど、ない物ねだりをしても、しょうがないか。


 私がこの世界で生き抜く方法としては、まず食料と寝床の確保。

 そして、自分のレベルアップ。その為には恥ずかしさや躊躇いなんて日本に捨てて、パンツだけで戦うしかない!

 この全裸に近い半裸状態なら、大抵の相手には勝てる自信がある。あの集落の親玉はまだきつそうだけど、他の相手なら一対一ではまず負けないと思う。


 じゃあ次に、まずは食べられそうな物の確保よ。果物が一番だけど、この際、食べられるなら贅沢は言わないわ。

 『凄く目が良くなる』の加護を使用して、周囲に敵がいないか確認する。

 木の上から見下ろす形になるから、葉っぱが邪魔で見えない筈なのに……何故か地面までくっきり見えるわ。それに、少し体が赤く発色している生き物がちらほら見える。


 もしかして、赤く光っているのは危険だということ?

 加護を発動する時に、敵がいないか確認しようと集中したことにより、敵となりそうな相手が赤く発色してくれたということなの……だとしたら、この加護凄すぎる。

 もしかして、食べ物を見つけたいと念じたらどうなるのかしら。


 おおおおっ、視界の中に幾つか青い光と赤い光が見える。黄色まであるわ。

 でも、敵を表示していた光は消えてしまった。今はまだ、同時発動は無理みたい。いずれ加護の熟練度が上がれば強化される、と思う。出来るだけ、使いこむようにしないと。

 敵の場所をもう一度確認して、安全な場所を把握したら、今度は食べられる物を探す。


 左手の方向を進んだところに、青い光が密集している場所があるわね。もうちょっとアップにならないかな。ええと、カメラのピントを合わせるようなイメージで……うん、完璧。見たい場所が拡大されたわ。

 あれは梨っぽい実がぶら下がっている果樹みたい。喉も乾いているし、あれをゲットしよう。念の為に上も脱いで、パジャマは腰に巻き付けておこうかな。

 気持ちが高ぶってきたっ。今なら何でもできそう!

 大木を素早く降りると、全速力で梨っぽい果実がたわわに実る樹へ向かう。

 目のおかげで敵に遭遇することもなく目的地に到着すると、一番眩く青い光を放つ果実をもぎ取った。


「うわぁー美味しそう」


 みずみずしい実から、何とも言えない甘い香りが漂ってくる。

 思いっきり噛り付くと、口の中に甘く爽やかな水が溢れ、シャキシャキと心地よい歯ごたえに、思わず頬が緩んでしまう。


「はああ、何これ! すっごく美味しい!」


 お腹が空いていたことを考慮しても、今まで味わったことのない甘味と旨味が混然一体となった、頬が落ちるという表現が過剰ではないと思うぐらいの、美味。


「しゃくしゃくしゃくしゃく」


 も、もう止まらない。果汁が口から溢れ胸元がべとべとになるが、パジャマを着てないからどうでもいいわ!

 私は思う存分、満足いくまで梨のような果実を貪りつくすと、その場に寝転んだ。

 はああ、幸せ。これしか食べていないのに、凄く満たされた感がある。何と言えばいいのかな、この果実は栄養もたっぷり含まれている気がする。異世界の果物恐るべし。


 暫くはこれだけで生きていけそう。加護を発動している私の目には、ここの果実以上に青い光を強く放つ物が映っていない。

 この近くに拠点を作りたいけど、洞穴か寝床に成りそうな場所は……あ、うん。『凄く目が良くなる』の加護様。正直貴方を軽く見ていました、申し訳ございません。

 私の目は100メートルも離れていない場所の斜面に、適度な大きさの空洞を発見していた。青く輝いているからわかったのだけど。


「何とか生き延びれそう……良かったぁ」


 『脱げば脱ぐほど強くなる』能力のおかげで気が強くなっているというのに、私は安堵して地面に崩れ落ちてしまった。

 『凄く目が良くなる』をもっと鍛えて、事前に敵の行動を察知する。そして『脱げば脱ぐほど強くなる』で敵を倒してレベルを上げる。

 『分裂』も使いこなせれば、かなり強い筈よ。

 『ランダム宴会芸』は……どうでもいいかな。


「ふあああぁ。さすがに寝不足かなぁ」


 木の上で仮眠したとはいえ、不安定な場所だったし眠りも浅かった。疲れが一気に来たのかもしれない。空洞に移動しよう。

 睡魔と戦いながら空洞前に着いたのだけど、そこには意外な光景が広がっていた。てっきりただの洞穴だと思いこんでいたら、空洞の入り口らしき場所に扉があった。

 それも陶器のような質感の扉だ。もしかして、誰か住んでいるのかな。

『凄く目が良くなる』で扉の向こう側に誰かいないか確認するが、誰の姿もない。


「空き家かな……」


 一応扉をトントンと二回叩いてからそっと開けると、そこは私の一人暮らししていた部屋と同じぐらいの大きさの空間があった。

 おまけに空洞は円形ではなく真四角で、明らかに誰かの手が入っている。壁際には土の棚があり、奥にはベッドまで完備されている。


「椅子と机もあるわ」


 部屋の隅には木の箱もあって、そっと蓋を開けると衣類や毛布が詰まっていた。

 勝手にいじるのは失礼だとはわかっているが、服をそっと持ち上げてみると、肌触りは悪いがしっかりとした造りをしている。

 男物の服装っぽいけど、サイズは小柄な方の私でも少し小さい。子供が住んでいたのかしら。ここ誰も使ってないみたいだけど。


 幾つかの食器や家具が残されてはいる。だけど生活感が無い。何かしらの理由があって引き払ったのかもしれない。扉は内側から閂で閉じるタイプみたいだから、鍵はしておこう。

 ここまでは不幸の連続だったけど、ようやく幸運が回ってきたのかな。

 ああもう、考えるのもしんどいー。今は何も考えずに寝させてもらおう。


 私は毛皮が敷いてあるだけのベッドの上に身を投げ出すと、そのまま睡魔に身を委ねる。

 こうして、異世界での波乱に満ちた二日が、ようやく終わりを告げた。





 あれから数日が過ぎたのだが、私は結構元気だったりする。

 パジャマは基本、住処で寝るときに着ることにして、日頃は前の住民が残してくれた衣類を少し修正して着ることにした。

 露出が必要なので、ローライズの短パンと胸だけ覆うヘソ出し、両肩剥き出しのチューブトップが私の普段着となった。この姿もかなり恥ずかしいものがあるけど、パンツだけよりかなりましだから、辛抱するしかない。

 能力としてはやはりパンツだけよりかはかなり劣る。たぶん、半分ぐらいの力に落ちているけど、パジャマ姿よりかはかなり強い。

 

 まさか、コスプレの衣装を作る技術が異世界で輝くとは、人生わからないものね。

 結局、向こうでは人前で着る勇気が持てずに、部屋でコスプレしてから自撮りしたデータがPCにたまっていくだけだった。


「ああああああああっ! 押入れの段ボールとPCの初期化ちゃんとしてくれたかな」


 オタク友達であり私のコスプレ衣装を提供していた友人、ダブルちゃん。本名は知らないけど、唯一無二の親友。あの子が上手くやってくれていることを祈るしかない。

 はあ、モヤモヤするけど考えるだけ無駄よね。よっし、切り替えて今日も元気に狩り開始よ。

 私は住処に置いてあった両刃の斧を肩に担ぐと、勢いよく扉を開け放った。


「んー、いい天気。さあ、もっとレベルを上げて、絶対に人間の国に行ってみせるんだから!」


 頭上に広がる雲一つない青空を見つめ、私は斧を掲げた。

 ここで強くなって、身体能力と加護を強化させたら、私の夢を叶えてみせる!


本来はここで終わる短編の予定だったのですが、次の話で新たに三人追加します。

ランダムで再び能力を選んでいますので、どうなるかは……そろそろ弾けましょうか。


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