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初期練習作(短編)

経過する時間

掲載日:2015/06/23

 旅支度をしている女性がいる。

彼女の名を時計と言った。

午前0時に生まれた為に付けられた名前だった。

ゴーグルのレンズを磨き、くもりを取る。

ザックの持ち物を一つひとつ確認し、丁寧に詰める。

旅の準備は整った。

上着をはおり、水筒をぶら下げて街道へ向かった。


 明くる朝、彼女は隣町に着いていた。

だいぶ距離を歩いたが、全然疲れていない様子だ。

カフェで朝食を摂っていると、町の一日が始まる様子が見渡せる。

安宿を探し、交渉の上で部屋に入れてもらった。

木のベッドで毛布にくるまって休むことにした。

起きるのは夕方になるだろう。

すぐに寝息を立て始めた。


 起きると部屋はすっかり暗くなっている。

窓の外は夕闇が押し寄せ、帰路につく人々がぽつぽつと歩いている。

彼女は飛び起き、すぐにチェックアウトを済ませ、街角に出た。

もう暗くなりかけている。早く出発せねば。

足早に乗り合い馬車が止まる広場に向かった。

「お嬢さん、乗ってくかい」

夜を徹して走る馬車を見つけ、行き先を確認した。

料金を払い、馬車に乗り込む。

他の客が何人かいるが、皆静かで顔を隠している。

後ろ暗い者もいる。揉め事は沢山なのだ。

時計は一番後ろの古ぼけたシートに座り、

目をランランと輝かせた。

明け方まで、だいぶ時間がある。

ゆったりくつろいだ様子を見せた。

ああ、夕ごはん食べ損ねた、とすぐに思った。


 次の朝、その乗り合い馬車は、目的地に到着しなかった。

途中で事故に合い、乗客は死んでしまったという話だった。

町の人は口々に噂し合い、事故の犠牲者を悼んだ。

「はて、何があったかな。もしかしたら途中で何かに襲われたかな。

近頃は治安が良くなったけれど、まだまだ物騒だね」


 その翌日、時計がその町に到着した。

元気な様子で街道を走り抜ける。

ここでは誰も、彼女の顔を知る者はいないだろう。

時計はこの町でゆっくり過ごすことに決めた。

人々に活気があり、すこぶる美味しそうだ。


 彼女は時の番人であり、失われた時間は戻らない。

人々の時間が彼女の糧であり、彼女は物の怪の一種である。

午前0時に活動を始め、人々から時間をさらって行く。

人は少しずつ彼女に喰われ、結局は死ぬことになるのだ。

たとえ世界が永遠で、魂が不滅だったとしても。

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