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初期練習作(短編)

経過する時間

 旅支度をしている女性がいる。

彼女の名を時計と言った。

午前0時に生まれた為に付けられた名前だった。

ゴーグルのレンズを磨き、くもりを取る。

ザックの持ち物を一つひとつ確認し、丁寧に詰める。

旅の準備は整った。

上着をはおり、水筒をぶら下げて街道へ向かった。


 明くる朝、彼女は隣町に着いていた。

だいぶ距離を歩いたが、全然疲れていない様子だ。

カフェで朝食を摂っていると、町の一日が始まる様子が見渡せる。

安宿を探し、交渉の上で部屋に入れてもらった。

木のベッドで毛布にくるまって休むことにした。

起きるのは夕方になるだろう。

すぐに寝息を立て始めた。


 起きると部屋はすっかり暗くなっている。

窓の外は夕闇が押し寄せ、帰路につく人々がぽつぽつと歩いている。

彼女は飛び起き、すぐにチェックアウトを済ませ、街角に出た。

もう暗くなりかけている。早く出発せねば。

足早に乗り合い馬車が止まる広場に向かった。

「お嬢さん、乗ってくかい」

夜を徹して走る馬車を見つけ、行き先を確認した。

料金を払い、馬車に乗り込む。

他の客が何人かいるが、皆静かで顔を隠している。

後ろ暗い者もいる。揉め事は沢山なのだ。

時計は一番後ろの古ぼけたシートに座り、

目をランランと輝かせた。

明け方まで、だいぶ時間がある。

ゆったりくつろいだ様子を見せた。

ああ、夕ごはん食べ損ねた、とすぐに思った。


 次の朝、その乗り合い馬車は、目的地に到着しなかった。

途中で事故に合い、乗客は死んでしまったという話だった。

町の人は口々に噂し合い、事故の犠牲者を悼んだ。

「はて、何があったかな。もしかしたら途中で何かに襲われたかな。

近頃は治安が良くなったけれど、まだまだ物騒だね」


 その翌日、時計がその町に到着した。

元気な様子で街道を走り抜ける。

ここでは誰も、彼女の顔を知る者はいないだろう。

時計はこの町でゆっくり過ごすことに決めた。

人々に活気があり、すこぶる美味しそうだ。


 彼女は時の番人であり、失われた時間は戻らない。

人々の時間が彼女の糧であり、彼女は物の怪の一種である。

午前0時に活動を始め、人々から時間をさらって行く。

人は少しずつ彼女に喰われ、結局は死ぬことになるのだ。

たとえ世界が永遠で、魂が不滅だったとしても。

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