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龍の卵は何を想う?  作者: 紙風
第1章 旅立ち
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第7話 訓練成果

 俺がこのオリアスの地に誕生し、5年が経過しようとしていた。

 その朝ついに懐かしいあの感じを味わうことになる。

 そう、朝起きると俺のナニが立派に主張していたのだ。

 最近どうも気分にムラがあったり、込み上げる熱いものを感じることがあったが、ついに忘れていたものを取り戻した。

 思えばオリアスに来てから今までは、体が6歳児のためか、せっかくエルフの集落というすばらしい環境にもかかわらず、あまりそちらの欲望は強くなかった。

 もちろん地球にいたころの知識もあるため、チラリと下着が覗けたりすると、「ラッキー!」と思うことはあるのだが、湧き上がるものはなかったのだ。

 特に夜中、ダスティとストレイチアの催し物で悩ましい声が聞こえてきたときなど、


「ああ子供の体が恨めしい。

 あの湧き上がる熱い思いは帰ってくるのだろうか?」


と悩んだものだ。


 しかしそんな悩みも昨日までのこと。

 俺はこの朝、まさに立ち(・・)直ったのだ。

 しかもこの感じ、オリアスに来る前の俺にはなかった、それこそ数十年来忘れていたこの勢い。

 やばい、意識すればするほど、落ち着こうと思っても落ち着かない。

 暴走しっぱなしだ。

 成長過程の勢いとはこんなに凄いものだったのか。

 知識を得てから戻ることでその凄さを再確認する。

 熱いリビドーをどうしたらいいんだ。

 しかも今の俺の環境は、エルフという若く美しい娘の多い所である意味最高、ある意味最悪だ。


 一時賢者になる必要がある。

 …が、なんだこの回復力は?

 地球時代の最後は賢者になればそうとう時間持ったが、今、数分と経たないうちに回復してしまった。

 しかも一度したら最後、止まらん。

 サルだ、俺はサルに戻ってしまったんだ。


 その日の授業は手につかなかった。

 リーシア、ストレリチア、リリ誰を見ても変な想像をしてしまう。

 こうなると、この講師陣が恨めしい。

 ダスティの時が唯一の安全タイムかと思われたが、常にリーシアは一緒であり、やはり休まる暇はなかった。

 体の動き方について、座学を受けて居る時に安心していたところ、ちょっと横にいるリーシアを見たら妄想が始まり、そんな時にダスティから、


「じゃあ、今の動き方を実践してみるからジン、立ってみてくれ。」


 と突然振られて、既に立ち(・・)上がってます…なんて言えずに前傾姿勢で苦しい誤魔化し…。


「ちょっとお腹の調子が…。」


「大丈夫か?」


 と心配してくれたが、少し休めば大丈夫と、なんとか切り抜けた…若干訝しんでいたようだが。


 更にその夜、よりにもよってダスティとストレリチアのあの声が聞こえてきた。

 もぉーたまらん、嫌、溜めておけない。

 俺は自分の部屋からそっと出て、2人の部屋に忍び寄る。


 こんな時のためにひそかに練習した魔法を使いながら。

 一つは透明化(インビジブル)

 透明とはすなわち光・電磁波の透過率。

 俺は自分の体の周囲に魔力を纏い、ここにあたる光を進行方向を変えずに自分の逆側へ放出ですることをイメージして、透明化を実現させた。


 もう一つは沈黙(サイレント)

 こちらは空気の振動を一定範囲止めることで音を無くすのだ。

 この2つの魔法を発動させれば今の俺に怖いものはない。


 2人の部屋、扉の前でそれでも細心の注意を払いながらドアノブに手を掛ける。

 が、様子がおかしい。

 先ほどまでひっきりなしに響いていたあの声が止んだ?

 ドアノブの音はサイレントの効果により消えている。

 2人のところまではサイレントの効果範囲外だ。

 一度ドアノブを戻して撤退するか?

 そんなことを考えていると、内側からドアが開いた。


 そこにはダスティとステレリチアが大事なところをシーツで隠し、様子を伺っている。

 シーツで隠す姿がなんともエロい…なんて場合じゃない。

 や、やばい。

 ゆっくり逃げようとするが、


「止まりなさい。部屋に入って正座。」


 ストレリチアの怒気を含んだ声に身が竦む。

 う、なぜか存在がバレているようだ。

 仕方なくドアの内側に入り、正座する。

 だけど、まだ誰かまでは判っていないはず…隙間を見て…。


「大したものね。

 視覚では全くそこに誰かいるなんてわからないわ。

 でもこういう事は関心しないわね。

 まず姿を現しなさいジン。」


 バレてーら!どうする俺、どうする?

 パニくっていたが、どうにもならない。

 仕方なく俺は観念し、姿を現す。


 ダスティは若干憐れみを含んだ目を向けている気がする。


「あなたの様子が今日おかしかったのは知っていました。

 恐らく体の成長に伴う変化であることも。

 で、警戒して家の扉にはすべて感知魔法をかけていました。

 一応弁解を聞きましょうか?」


 弁解出来ることがあるわけもなく、


「すみませんでした。」


 ただ一言を発する。


「言い訳はないのね。

 良いでしょう。

 私たちもあなたの変化があったことを気づいていたのに配慮が足りなかったというのはあります。

 ですが、今後こういう事がないよう罰は受けてもらいます。」


 そこへダスティが


「まぁ、年頃の男の子なんだから、今回はこんなところで…」


「あなたは黙ってなさい!」


「はい」


  ダスティが俺にすまなそうに目を向ける。


 いやいやこちらが悪いのにフォローをしてくれようとするなんてありがとうございます。

 という視線を向けておく。


「これから掛ける魔法は戒めの魔法と言って、対象に制限をかけます。

 対象が制限行為を実施しようとすると痛みが発生するから注意するように。

 あなたは今後このエルフの集落で人の秘め事を覗かないという条件でいいかしらね。」


 そう言って魔法を発動させた。


「いい?もう一度言うわ、これからはこういう事はしないように。」


 そうしてやっと俺は解放され、もうこんな事をしないと反省するのであった。


 後日、リーシアが俺に内緒の魔法訓練をしていたのを覗くと、頭に激痛が走って痛い目にあった。

 秘め事って範囲広すぎない?

 しかもこれが原因で、今回の一連の出来事をリーシアに白状する羽目になってしまった。



 成長は何もナニだけではない。

 訓練の方も順調だ。

 まず魔法である。


 魔法は便宜的に5段階で評価される。

 人間の世界では学んだ組織によって、その段階について呼び方が違うこともあるらしい。


第1段階。

 放出系なら単純な球状で放出。

 火魔法なら火の玉放出という具合だ。

 付与魔法なら1~2つの簡単な条件と短い時間制限内での魔法行使。

 例えば武器強化を、切れ味を増す、重量軽減するなど、なんらかの条件1つ制限時間内つけることができる。


第2段階。

 放出系なら形状変化。

 火魔法なら火の形状を矢や、壁という具合に変化させる。

 付与魔法なら3~5つ程度の条件と1段階より長い時間制限内での魔法行使。

 例えば、蔓などの植物を、成長促進、強度上昇、対象者を捕縛などの条件を付ければ、制限時間内対象相手を捕縛する蔓魔法という具合だ。


第3段階

 だいたいの魔法において、威力の拡大や範囲拡大。


第4段階

 他の属性魔術を混合可能。


第5段階

 突出した能力の魔法を開発したり、常識外の威力があるもの。


という具合だ。


 大体どの系統でも3段階を過ぎれば一流、上級と呼ばれるらしい。

 俺の場合、最初集落来た時点で、水については第3段階であった。

 このほか、火、土、風、魔の系統は1~2というところだ。

 この5年の間に、水以外の火土風系統も3段階まで扱えるようになり、4段階目の混合も一部できるようになってきた。

 魔の系統は、魔の中に付与魔法や召喚魔法なども含まれているため、一口に言えないが、放出する系統であるなら3段階、付与なら2、召喚は1と言った所だろうか?

 魔の放出系の中には明り(ライト)の魔法も含まれる。

 この明りについて俺は独自に研究し、透明化(インビジブル)の魔法を成功させている。

 ストレリチアによれば、姿を周囲に擬態して隠れる魔法は存在するが、完全に透明になる魔法を自身は知らないとのことだった。

 ある意味開発の5段階か?との疑問が生じたが、このくらいなら3段階かせいぜい4段階程度であろうとのこと。

 段階の評価はあくまで便宜上であり、あまり気にしてもしょうがないと言われた。

 それでも今までに無い魔法を作ったことは評価できる。

 ただし、使い方を誤らなければと、厳しい表情で言われた。

 美人が怒ると怖い…。


 治癒は1、正直掠り傷程度しか治せない。

 と、いうのも自分の怪我であれば、アークの魔力収集による影響なのか、回復力が尋常でないことがわかってきた。

 このため必要に迫られないためなのか、あまりうまくできなかったのだ。

 他人を治す場合に必要なため、学んだが、いまひとつうまくいかなかった。


 魔力収集も族長が暇をみて教えてくれたため、向上はした。

 ただやはりアークが近くに居るせいで良くわからない。

 風呂を汲んでる状態で、コップ1杯水を加えても総量に影響与えてるのか分からないのと同様だ。

 また、アークの集める魔力を隠す方法についても学べた。

 もともと次元の狭間にいるため分かりにくいものであったが、より一層わからないものになった。

 これなら族長でもわからないと、太鼓判を押してくれた。


 アーク自身については、5年経過したが、大きな変化はみられない。

 大きさも若干大きくなったか?という程度だ。

 俺がこの世界に来たとき以外には卵化の能力もみていない。

 だが、このエルフの集落に住んで長くなってきたためか、集まる魔力の量が多くなってきたような気がする。

 レイロードも以前、長く居る場所に魔力が集まるようになるといっていたから、そのためだろう。

 まぁ卵が産まれるのは何十年先のこともあると言っていたから心配せず、気長に待つとしよう。


 リーシアは訓練当初、火魔法が苦手と言っていただけあって使用できず、水が1か2、土風が1といったところであった。

 それが今では火2水風土3、魔系の放出は3、付与3、治癒3である。魔方陣の書き方も俺より覚えが良く、簡単なものなら自分で書けるようになっていた。


体術はというと、

 俺は未だ体が出来上がっていないため、基礎体力と型が基本であったが、ダスティに言わせるとなかなか良いらしい。

 ダスティ自身エルフの中で技を学んだため、流派というものはないが、それでも人間の中に行けば、腕に自信のある騎士達とも互角以上に戦えるとのことだ。

 実力の程が良くわからないので、


「魔法能力評価のように5段階評価ではどんなものでしょうか?」


 と聞いてみると、ダスティ自身を3.5とすれば、1.5というところだろうとのことだった。

 初心者に毛が生えただけともいえるが、成り立ての騎士や剣士は1で、これより強いからまんざらでもない。

 ちなみに弓・槍は1だ。


 リーシアも弓に関しては良いとのことで、こちらは2はあるだろうとのことだ。

 剣・槍は0.5だ。



 最後は言語とオリアス世界のことだ。

 言語については共通語、エルフ語の読み書き会話は完璧となった。

 リーシアはもともとどちらも完璧だったので、この時間リリと一緒に教える側に回ったり、魔法の復習・予習をしたりしていた。


 この世界の知識も学んだが、大まかには以下のようになる。

 約9,000年ほど昔、古代文明が栄えていたという。

 古代文明は今よりずっと高度な魔法が使えたらしい。

 それより以前の歴史はエルフにも残っていない。

 それはこの時代、エルフは人間に隷属させられていたからだ。

 このため、口伝による歴史意外は残すことができず、正確なものが残っていないらしい。

 エルフといえば、強い魔力を持ち、優秀な種族であるため、人間に虐げられることなど考えられなかったが、所詮は少数種族である。

 いくら優秀であっても、いや優秀であるからこそ、人間に目の仇にされ、隷属させられるに至ったのだろう。

 エルフが人間に対して協力的でないのも、この時の支配が少なからず関係しているという。

 この時代の人間はエルフのみならず老竜も使役し、ついにはその膨大な魔力ほしさに古龍にも手を伸ばした。

 その試みは成功し、古龍の魔力を自分達の魔力として使用することが可能になったという。

 しかし、古龍乱れるとき、その土地も乱れる。

 このことはこの時期に実証されている。

 作物の不作、疫病、戦争、災害が生じ、その首都は大陸ごと海に沈んだと伝えられている。

 他の主要都市もまた同様に災害に合い滅亡したという。

 その災害はすさまじく、その後数千年にわたり、世界の気候を変え、生物には至難の時代となった。

 生き残ったエルフはひっそりと人間になるべく関わらないように暮らすようになり、この苦難の時代もなんとか生き繋いだという。


 5,000年前頃から気候は穏やかになっていき、人間は再び緩やかに文明を築き始めていく。

 そして2,500年前程に、突然文明が高度化する。

 これは9,000年前の古代文明遺跡を偶然発掘した国があり、それにより栄えだしたのだ。

 このとき人間は愚かにも再び過ちを繰り返す。

 人間の暮らしになるべく関わらなくなっていたため、詳しい資料はないが、悪魔を呼び出したうえ、最終的に再び古龍の力を得て、自らの国を滅ぼしたという。

 このとき人間が滅亡から免れたのは、英雄が現れ、一部の人間を救ったためと言われ、この英雄は新たな国を作ったとされる。


 ただこのあと魔力を正常化するために産まれた古龍が、人間にとっては悪龍であり、その土地に人が住めなくなった。

 このため別の土地に国を作ったとされ、その流れを受けているのが、現存する国のなかで、最も古くから存在する聖カンデナ王国と言われている。

 悪龍と言われていた古龍は今から1,000年前くらいには大人しくなっており、その周辺には現在小国が乱立し、今でも戦争が多い土地だそうだ。

 この地域以外でも人の世界は常に戦争があり、現在に至るまでに国が消えては新たな国が現れている。


 人間の歴史は常に戦争の歴史となっている。


 現在では、先ほどの聖カンデナ王国、この豊穣の森の西にあるカルッサも含むヒオーザ王国、東のアメーヌ王国。この3国が大国と呼ばれているとのことだ。

 今は比較的平穏な時期であるようだが、すぐにまた新たな戦争を起こすであろうというのがエルフ族の見解だ。

 それほど人間は戦争が多く、また隷属期間もあって信用されていない。

 それにも関わらず、良く俺を受け入れてくれたものだと関心した。


 俺のいた世界も、歴史を紐解けば戦争だらけだ。

 しかし自分は現代日本で、平和な世界から来ているため認識は少ない。

 どこかの国が争っているとか、過去の戦争の過ちがどうとかいう話題がTVで盛り上がっているときでも、「ふーん」といった感じで、実感は伴わなかった。

 それでも、戦争で被害のあった子供たちや、テロの映像などをみれば、心に響くものがあり、やはり戦争を忌避する心はある。

 このオリアスでの生活は短く、実情を分かっていないかもしれないが、平和な日々が続くこと漠然と願う俺であった。

 平和でなければ覗きも楽しめない。


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