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龍の卵は何を想う?  作者: 紙風
第1章 旅立ち
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第4話 エルフの集落

 そういう訳で、今回は風老竜ウィルド。

 さてどんな奴だろうか?

 楽しみもあり、不安もあるが、紹介されている以上、変なことにはなるまい。


 呼び出すにしても洞窟内はすでにレイロードの体がある。

 ここが広いとはいっても、もう一体居たら流石に手狭だ。

 このため一度洞窟から出て、手頃な場所を探し、広さのあるところへ移動した。


 そこで風老竜を呼ぶ竜呼魔法を使用する。

 魔法とはいっても、人が人を呼ぶのは声に出すこと、つまり空気の振動で呼んでいるのだが、それを魔力の波で似たようなことするだけだ。

 魔力だとかなりの遠距離でも伝えることができるそうだ。

 しかも呼び出した人間それぞれ独自の特徴があり、誰でも呼べば良いわけではない。

 俺の場合、卵憑きでありレイロードと魔力の特徴が似ているため、4老竜には判別可能であるらしい。


 そうして早速魔法を発動させしばらく待つと、空に点のようなものが現れ、次第に大きくなってきた。

 かなり遠いであろうに相当な大きさ、速度であることが予測できた。


 あ、これやばい、6歳児の体じゃあ吹き飛ばされる。

 俺は魔力を発動させる準備をして身構えたが、老竜が察したのか突如、俺の周囲に魔法の結界が張られた。

 そのすぐ後、空が落ちて来たかと思うと、巨大な体躯が目の前に降り立った。


 降りてきた竜を観察すると、空色の鱗に包まれ、大きさはレイロードよりは幾分小柄で14,5mといったところであろうか。


「お前がレイロード殿より龍卵を授かりし者か?何用だ?」


「俺はジン・イリマ。

 あなたにお願いがある。」


 それからウィルドを呼ぶに至った経緯を説明する。

 自分が卵から孵ったばかりであることや、服がほしいこと、またこの世界で生きていくためにいろいろ学びたいことから、人あるいは人に近い種族と関わりを持ちたいことを告げた。

 そしてそれをレイロードに相談したところウィルドを紹介され、付近の集落に連れて行ってもらえば良いとアドバイスされたことを語っていった。


「なるほど。この付近で集落といえば、一番近いのがエルフの集落、もう少し離れたところに人の集落があるが…」


 そういえば、まだ日本にいるころ、オリアスの世界をみるため人の集落を覗いたことがあったっけ。

 今回はまだレイロードと話をしたり定期連絡を受したいことからなるべく近い方が良い。

 何よりエルフ!会ってみたい。


「出来ればエルフの集落を訪ねてみたい。」


「連れていくのは構わないが、そこからどうする?

 まさか異世界から来ましたとエルフに事情を説明するのか?

 エルフは排他的な種族故、ただでさえ人間達と交わろうとしない。

 異世界から来たなんていったら益々受け入れられるかどうか?」


「ああ、そうかその辺考えてなかった。

 まずは行くことしか頭になかったな……」


「まぁ良いか、今のエルフ族長とは知り合いだ。

 竜の住処付近で子供を見つけたから保護してみたということで、面倒をみてほしいと言ってみるか。

 あとは成り行きだ。」


 なんかエルフへの説明、適当過ぎやしないか?

 何も考えていなかった俺が言うのもなんだけど。

 一応、エルフの族長と知り合ったきっかけはもうちょっと聞いておこう。


「エルフの族長と知り合いになったのはどういう経緯?」


「昔、今のエルフ族長が若いころ、山に薬の材料となる希少な植物を取りに来ていた。

 その途中でグリフォンに襲われているところを、たまたま通りかかってな。

 別にそのまま通り過ぎても良かったんだが、グリフォンの奴、獲物を横取りされるとでも思ったのか、こっちにも攻撃してきおった。

 だから返り討ちにしたんだが、結果的に族長を助けたことになって、それが縁で、それから何度か会ったことがある。」


「それはいつ頃の話なんだ?」


「助けたのは今から500年くらい前になるか。」


「500年!

 それだと族長が覚えていないかもしれないのでは?」


と疑問を口にしてみると、


「それ以降も何度か会ったと言ったろう?

 エルフは賢き種族、問題ないはずだ。

 なるようになる。

 まぁとにかく行くとするか。」


 うーん。

 やっぱりこの竜、性格が適当?


 若干の不安を感じながらも出発のため、ウィルドに近づくと、頭を下ろして来て、俺に乗るよう促した。

 俺は乗ろうと試みるが、いかんせん6歳児の体では頭を下げてもらっても届かない。

 それをみたウィルドが口で加えて背の上に乗せた。


「安定するよう首あたりに来た方がよかろう。」


 いわれるままに首まで這い上がりしっかりしがみついた。


 初めて実際に触れ、乗った竜は思いのほか触り心地が良く、空色の肌は近くでみても幻想的であった。

 飛ぶ前にウィルドが危ないからという理由で魔法でロープのようなものを出現させ、俺の体が落ちないように固定してくれた後、飛び立った。

  一気に空に舞い上がると、すごいスピードで空を引き裂いていく。


「こ、こぇぇー!ジェットコースターの比じゃねーな。」


 初めて生き物の背に乗った空は感動より怖さが先だった。

 しかし、魔力で固定してもらったため、安全であることを認識すると次第に慣れていき、あとはだんだん景色を眺める余裕が出てきた。

 肉眼で見る空からの景色は格別で感動していたが、それに浸る間もなく着いてしまう。


「そろそろだ。」


というと、高度と速度を下げ始めた。

 下は鬱蒼と生い茂る森であったが、木々が若干少ないと思える場所に家が見え始めた。

 外に出ていた住民と思われる者達が、なにやら騒めいてこちらを見ている。

 そんな中で、少し大きめの空き地を見つけ、その場所へと降り立った。


 しばらくすると、緊張感を持った住民達がこちらに向かってきた。

 住民の一団は急遽集まったといった感じで、普通の武器をもつ者の他に、作業用の工具のようなものを武器代わりにしている者も多くいた。

 姿を見ると皆20~30代程度で、人間よりも長い耳が目立つまさにエルフといった者達であった。

 その中の一人、代表と思われるものが俺たちの前に出てきて、何事かを話しているが、言葉がわからない。

 話が通じていないことが分かると言語を変えた。


「そこの竜よ何故に我らが集落にきた?」


「族長に風老竜ウィルドが会いに来たと伝えよ。」


「風老竜ウィルド?

 族長の知り合いか?

 族長に何用だ?」


「族長が来たら話す。」


 ウィルドが答えた。


 すると再びエルフ達は分からない言葉で騒めき始めたが、一人のエルフが走り出し集落に向かっていった。

 それと共に代表の者が返答する。


「今、呼びに行かせた。しばし待て。」


 待つ間、エルフ達は警戒をし、じっとこちらを観察していた。

 しばらくすると、新たに数人のエルフがこちらに向かってくるのが見えた。

 次第に近づいてくると、俺たちの前にいた集団が道を開け、新たに来た者が前に出てきた。

 その者は若干身に着けている装飾が豪華で、年齢は他の者と変わらないように見える。

 そして口を開いた。


「久しいなウィルド。

 今日は何用だ?」


「族長本当に久しぶりだな。

 200年ぶりくらいか?」


「そうだな。

 最後に薬草採取の護衛を依頼してから、もうそんなに経つか。

 いきなり竜が我が集落を攻めてきたと聞いたときには何事かと思ったぞ。」


「別に攻めてなどいない。」


「竜が突然集落に降りたなど聞いたら誰しも驚く。

 今度は事前に連絡がほしいものだな。」


「連絡といってもな。」


「まぁいい、して今日の要件は?

 そこにいる子供に関連したものか?」


「そうだ。

 今日はこの者について相談に来た。」


 そういうと、ウィルドは俺を背から地面に下ろした。

 族長はしばらくジッと俺を見始めた。

 裸なので恥ずかしいんですが…羞恥…いや視姦プレイですか?

 しかも私、幼児の男の子なんで、倫理的にどうかと思います。


「この者は…いや、まさか…しかし…。」


 なにやらブツブツ言っている。


「まさかこの者は卵憑きか?」


 え、いきなりバレた。

 龍卵って他の者には見えないんじゃ…そもそもオリアスに卵憑きは本来存在しないはず…。


 しかしウィルドは慌てた様子もなく


「ふむ、さすがにエルフ族の族長ともなると、わかるのか?」


「確かに卵憑きなんてこの儂でも伝説の話だけで、初めてみるが、他にこんな魔力流れは考えられない。

 他にあるとすればこの場に古龍がいた時だけだ。」


「魔力の流れが尋常ではないからな。

 それでも異界との狭間で隠匿されているから通常はわからぬはずなのだがな。」


「我らエルフは魔力の扱いに長けた種族。

 その中で族長を務める者は、当然相応の実力を求められる。

 例え異世界との狭間にあるとはいえ、これだけ多くの魔力収集であれば、感じ取れない訳がない。

 更に種族的に長寿ということもあり、伝説の類も良く伝わっているからな。

 その者はもともとこの世界の者ではないのであろう?」


「ふむ。

 既にこ奴がこの世界のものではないことも察していたか。

 どうしたものか…この者が世界のことを学びたいというため、お前に頼もうとしていたのだがどうであろうか?」


 ウィルドは単刀直入に聞いていた。

 当初話していた計画とは異なるが、既に素性がばれていることから仕方ない。


「異世界から来て間もないため何も知らぬか。

 いいだろう。

 卵憑きの子供よ、このエルフの集落クリストに滞在することを、族長エデン・クリストの名において許可しよう!」


 あれ!?ウィルドさんエルフは排他的と言ってた割にはすんなりOKなんですけど。

 どういうこと?

 俺はウィルドに疑問を投げかけると、ウィルドも戸惑っているのか、


「族長、いやにすんなり受け入れたな?」


「簡単なことじゃよ。

 こ奴が卵憑きだからだ。」


 そういうと、エルフ族長エデン・クリストさんは説明し始めた。


「古龍、卵憑きについては歴代の族長より言い伝えがあってな。

 古龍やその卵、つまり卵憑きというものは世界のバランスを保つために必要であると。

 古龍が集める魔力の流れで、その流れに近き者達は栄え、動植物は活性化する。

 古龍を倒したり、封印したりすれば、その土地の魔力は乱れ、災害や疫病、戦争など様々な災厄をもたらす。

 そうしたときに新たな卵が産まれ、異世界にて育つ。

 卵から孵った古龍は再び魔力の流れを正常に戻す。

 ただし卵が世界の負の感情を抱いて生まれた場合には、一時的ではあるが災厄をもたらす古龍となり、安定するまで、その土地は荒れることとなる。

 というのが伝承だ。

 儂は卵憑き自体はもちろん見たことはないし、古龍の出生に関わったことはない。

 先代や、先先代も関わったことはないであろうが、それよりもっと古の時に古龍に関わりのあったものが居たらしく、代々伝わってきた。

 本来であれば我らエルフは人間には極力関わらないのが一般的だ。

 人間は戦争が好きであるのでな。

 種族としてはなるべく関わりたくはない。

 しかし、人間の中にも良い者がいることも知っておる。

 今回のこ奴は古龍に選ばれた者だ。

 であれば、我らはできる限りサポートすることが、我ら種族だけでなく、世界を助けることになる。

 これが理由だ。」


 龍卵って本当に凄いんだな。

 そう思い、アークを見ていると、心なしか卵は「どや顔」をしているような感じに見える。

 うーん、本当に凄いのか?

 いつもは感じないが…というより存在をついつい忘れてしまうんだけどな。 


 何はともあれエルフ集落への出入り…というか、住んでいいらしい。

 生活に困っていたので大変助かるが、レイロードとの連絡をどうしようかと、ウィルドに相談すると、


「必要なときは呼べば送ってやるぞ。」


とのことで、解決した。

 こうして俺はエルフの集落クリストの住人となった。



 エルフの集落クリストはエルフ人口500人程度の集落だ。

 場所はドラゴニア山脈の南西に位置した豊穣の森の奥深くにある。

 ちなみにドラゴニア山脈というのはレイロードの住む山脈であり、4匹の老竜もそのどこかに住んでいる。

 更に西に進んだ森の終わりには人間の街、カルッサがある。


 エルフ達は森の恵みを得て生活している。

 森には様々な植物や実が存在するだけでなく、獣や魔獣に魔物と様々なものを育んおり、エルフ達は生態系を壊さない程度にその恩恵を受けている。

 また同時にある生物が増えすぎて生態系を壊したりしないよう調整することで森と共存共栄の道を歩んでいる。

 こうした生活のため、集落の暮らしは基本質素だ。

 森の守護者でもあるエルフ達は、皆優秀な魔術師であり、狩人でもある。

 他所から襲撃を試みたものは、その実力を身をもって知ることになるだろう。


 この集落に住むことになった俺は、まず待望の衣服を貰うことができた。

 他のエルフ達と同様の深緑色をしたもので、着るとフワっと森の香りがして癒される。

 次に住む場所として、ある家族を紹介された。

 族長の親族とのことで姓は族長と同じクリスト、父親のダスティ、母親のストレリチア、長女のリリ、次女のリーシアの4人家族とのこと。

 ここの次女はこの集落で一番最近生まれた娘で28歳だ。

 異世界での俺の年が31であるため近い者を配慮したらしい。

 しかし、そこは長命なエルフ。

 成人の姿である20~30位の姿までは人間の半分位のスピードで成長するとのことであるため、見た目は14歳位の少女である。

 ちなみに成人の姿になったあとは、見た目そのままで800歳前後で一気に老化が来て寿命をまっとうするらしい。

 古の時代ではもっと長寿だったらしいが、大分寿命が短くなったとのことだ。

 この集落の方々は、まったく年齢不詳である。


 その後ダスティ一家と共に、家へと案内されることになった。

 家は森の木々をなるべく損なわないように木と木の間に作られていて、各場所に点々としている。

 その中の一つに案内された。

 家に入ると中は思ったより広く、俺のための部屋も割り当てられた。

 やはりというか当然というか、木製の家具が多く、落ち着きある仕上がりとなっていた。


「突然のことだったので何もないが、ゆっくりしていてくれ。

 夜にはちょっとした歓迎を集落でするとのことだから。

 落ち着いて時間があったらリーシア、村を案内してあげなさい。」


「私?」


「父さんと母さん、姐さんはこれから歓迎会の準備を手伝ってくる。」


「はーい。」


 そういうと、ダスティ達は再び家を出ていった。


 そうして俺はリーシアに集落を案内してもらうこととなった。

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