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龍の卵は何を想う?  作者: 紙風
第1章 旅立ち
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第1話 プロローグ

 母に手をつないで貰いながら僕はお寺の中に入っていった。

 時間があるらしく、しばらくお寺の中、待合室のような所で遊んでいると、突然視界がブレて切り替わる。


 周囲を見れば白大理石のような材質の柱、壁があり、美しい意匠が施されている広い室内であった。


 その中央に大人の倍はあろうかという大きさで、見た目は甲冑を着けた怪物の石像が置かれている。

 その石像を5人の人物が取り囲んでいた。

 5人はそれぞれ、銀の鎧に剣と盾を構える騎士、ほとんど上半身は裸で大剣を構える巨漢、皮の鎧に小剣を構える小男、白いローブをゆったりと羽織っている者、濃灰色のローブにスタッフを構える者と様々であった。

 

 彼らが徐々に間合いを詰めていくと、突然、石像の胸に埋め込まれていた赤い宝石が光り、動き始めた。

 石像は近寄ってきたものを排除しようと、巨大な手を振り上げ、振り下ろす。

 その破壊力は強力で、銀鎧の者の盾を掠めただけで吹き飛ばしていた。

 大剣の者がその時出来た隙を見逃さず、頭を下げた状態となった石像の首に剣を叩き付ける。

 しかし、石像は少し弾かれたように頭の位置をずらしただけで、その身は傷一つついていない。

 続けて濃灰色のローブの者が口を動かしながらスタッフを掲げる。

 するとスタッフの先が輝き、空間を切り裂く稲光が石像を貫いた。

 これは多少効いているのか、石像はわずかに後退する。

 

 僕はその攻防をまるでヒーローもののステージショウを見るように見とれていた。

 周囲の音は聞こえず、5人の者達も石像もまるで自分には気づいていないが、僕は手を握り締めて5人と石像の戦いを見守っていた。


 戦闘は激しかったが、次第に終息に向かい、ついに5人は石像を横たわらせた。

 完全に動かなくなると、小剣を持つ小男が石像の胸にあった宝石を(えぐ)り取る。

 5人は部屋の奥に進むと、床に描かれた奇妙な紋様を注意深く観察した。

 そして先ほどの赤い宝石と、似たような青、緑の宝石を取り出し、それを紋様の中心あたりにある窪みに、青、赤、緑の順に並べて置いていく。

 しばらくすると、紋様から様々な色の光が漏れだし、虹色の光となり5人を包み込んだ。

 その光はとても幻想的で、しばし見とれていると、光の終息とともに5人の姿が消えていた。



「仁、どうかしたの?」


 掛けられた声と同時に視界が切り替わり、元の待合室に戻っていた。


「今ね、5人の人達が怪物と戦ってたの。

 凄かったんだよ!

 お母さん見なかったの?」


 母親は少し戸惑いながら


「そう?

 また何か見えたのね?

 残念だけどお母さんには見えなかったわ。」


「そうなの?

 あんなに凄かったのに。

 雷とかブワァーって出したり、剣でバシュッて凄かったのにな~。

 お母さん見えないなんて可愛そう。」


「そうね。

 でも普通は見えないのよ。

 みんなこの場所から動いてないし、誰も見てないわ。

 だからあんまり他の人に言っちゃだめよ。」


「うん。」 


 頷きながら、いつかは自分もあんな風に剣や魔法を使いたいと夢みていた。



 俺は入間仁(いりまじん)31才のサラリーマン。

 どこにでもいる普通の男だ。

 ただ幼少の頃より変わったところが一つ、ふとしたときに現実にはあり得ないものが見えることがある。

 よく聞く霊媒師などが見る霊というものではなく、突然視界が切り替わり別の景色、生物がボヤっとした感じで見えるのである。

 見えるものは中世のようなファンタジー世界というのが判りやすいであろうか。


 時折みることができる人の格好を観察すると騎士や魔法使いといったような出で立ち、時にはオークやゴブリン、魔物のようなものまで、それこそゲームやラノベに出てくるような生き物が見えた。


 子供のころは両親や周囲にその話をすると不思議がられたり、子供同士だと人気者になった。

 しかし成長するうちに親からはその話はしない方が良いと諭され、友達からは嘘つき呼ばわりされたり、直接言わなくても反応が冷たくなった。

 このため、ある程度の年になると、このことは他人に言うべき話ではないものなのだと思うようになった。

 それでも学生のときには、この力が、自分だけの特殊能力として優越感に浸ることもあったが、見えたからといっても何もできず、向こうの存在もこちらには気づかない。

 なんとかこの能力を開発して、この見えるものがなんなのかを知りたいと思ったが、結果は変化なかった。

 結局普通に生活し、可も不可もないまま社会人となり働いているのが現状である。


 今日は仕事で外に出ていたが、外出先での仕事が予定より早く終了し中途半端な時間を持て余していた。

 そこで、ちょうど近くに有名な神宮があったことから、何とはなしに寄ってみることにした。


「神宮など来たのは学生の頃、初もうでに来て以来か?」


 誰に言うでもなくそんなことを考えながら、鳥居をくぐると、


「そこのお前。」


と、ふと誰かが呼ぶような気がした。


 あたりを見回してみるが誰もいない。

 何かに吸い寄せられるように本堂から逸れたところに進んでいくと、いつもの視界が突然切り替わるブレる感じに襲われた。


 先ほどまで見ていた景色が一変し、目の前は巨大な空間が開けていた。

 離れた場所には、多くの石英の結晶のようなものがあり、その隙間からはうっすらと輝く岩肌が見える。


「洞窟か?」


と呟いていると、今度ははっきりと呼ぶ声がきこえた。


「そこのお前、聞こえるか?」


 声の方を振り返ると、視線の先は白銀に輝く壁があった。

 しかし良く見ると、壁は途中で分岐しており、それが、前足、後足、尻尾なのだと気づいて、さらに視線を上にあげる。

 そこには爬虫類を大きくしたような顔で頭上から数本の角が生えた生物…というかドラゴン?が居た。


「うぉー!!??」


 あまりに突然現れたそれに、恐慌をきたした。


「落ち着け、別に喰ったりはせぬ。」


 という声が聞こえたものの、しばらくパニクッていた。

 しかし、特になにかをされる訳ではないことがわかると、まだまだ鼓動は早いものの、次第に落ち着いてきた。


 冷静に見てみても、それはドラゴンという表現がピッタリの生き物だ。

 幼少よりいろいろな生物が見えてきた俺だがこんなに巨大で、見ているだけで何とも言えない神秘的な気持ちにさせる生き物は初めてみる。

 それにいつもはボヤっとした感じでしか見ることのできない世界がはっきりと見えており、声が聞こえる…


「ん?…声が聞こえる?

 言葉が通じるのか!!」


「ああ、聞こえておるよ。

 先ほどから我の方が何度も呼びかけておるだろう?」


「…っつ。うぉーーー!」


 あまりの感動、衝撃、歓喜、様々な感情が沸き起こり、再び叫び声をあげていた。

 しばらくして、やっと冷静さを取り戻してきたころを見計らってから再度声を掛けられる。


「落ち着いてきたか?」


「ああ、すまない…あなたのような、そちらの世界とコンタクトをとれることを夢見てました。

 初めて現実になったのと、それがあなたのような生物だとは思ってもみなかったので、いろいろ取り乱してしまいました。」


「そうか、我もこの異世界の者と話をするのは初めてだ。

 我の世界と異なる世界があるのは知っていたが、干渉する手段はなかった。

 我の世界で起こりつつある異常や、お前自身の能力が影響しているようだな。」


「あなたの世界の異常?

 それはなんでしょうか?

 …というより、そもそもなぜ俺に呼びかけてきたんですか?」


「いろいろ話したいことはあるが、まずお前を呼んだのは、我の声が届いた唯一の者だったからだ。

 そしていきなりだが、頼みたいことがある。」


「頼みたいこと?

 俺は確かに異世界を見ることはできますが、普通の人間で大したことができるとは思いませんが…」


「そちらの世界からこちらを見ることができること自体が普通ではない。

 それに我の頼みは特別お前が何かをしなくてはいけないものではない。

 少し長い話になるが、順を追って話そう。

 良いか?」


「頼み事を受けれるかどうかは聞いてみないとなんともいえませんが、聞くのは問題ありません」


 長い話になるとのことなので、地面に座り聞く態勢を整えた。


「ではどこから話すか、まずは我のことから話始めるとしよう。

 我の世界、大地はこちらの人間の呼ぶところのオリアスという。

 ちなみにお前の世界はなんと呼ばれている?」


「俺たちの世界…大地全体としては地球ですね。

 住んでいる国は日本です。」


「そうか、異世界だのこちらの世界だの紛らわしいからな、これからはオリアスと地球で区別する。」


 そうして、ドラゴンの話は始まった。

 その竜はオリアスの世界でも珍しい古龍という存在であった。

 架空の物語やゲームの世界でそうであるように、このオリアスでも竜は単体での戦闘能力でいえば、頂点の一角である。

 その中でも古龍は別格であり、オリアス創生間もないころから存在する種族らしい。

 古龍はその名をレイロードと名乗り、生まれてから2,000年前後過ぎているとのことだ。


「お前の名は?」


「俺は仁、入間 仁といいます。」


 日本語の名前が通じるのか?

と思ったが、そもそもなぜ言葉が通じているのか?

も含めて質問すると、


「名前も言葉も理解している、問題ない。

 理由はこれからの話の中で説明する。」


と回答があった。

 自己紹介も済んだので、話を進めてもらう。


 他の竜と古龍の異なる点としては食糧といえる。

 竜は他の生き物を食糧とするが、古龍は食べる必要性がない。

 周囲に存在する魔力を自らに集めることで生きている。

 オリアスには魔力が存在し、魔力とは全ての物質・生き物から発生しているエネルギーであるとのことだ。

 古龍に集まる魔力はその地域に魔力の流れを作ると共に、地球にも影響を与えている。

 オリアスと地球は別世界であるが、重なるように存在しているためだ。

 地球では大地や大気の気の流れ、龍脈等と呼ばれているものがそれであり、その通り道にあるものは栄える。

 古龍は周囲の魔力を集めると同時に自然の理、知識の残滓(ざんし)を得る。

 これにより、魔法を手足を使うように自然に使うことができ、長く生きるほど知識も多くなっていく。

 なお、集まった魔力で古龍が必要としない分は遥か上空に舞い上がり、再び地域全体に戻っていくそうだ。


「ここまでのところは理解できたか?」


 ここでレイロードから確認があった。

 俺は少し混乱しつつも、魔力は流れということから水を想像し、ちょうど魔力流れが川で、魔力が溜まる古龍付近が海、上空に帰るのを雨としてイメージし、これで合っているか尋ねた。


「だいたいそれで合っている。

 ただ、我は海と違って移動することもある。

 その場合、短期的には魔力は長い時間いた場所が最も多く集まる。

 流れが急に変わる訳ではなく我が長い年月居た場所に流れができるのだ。

 それと先ほど質問があった言葉を理解出来ているのは、この作用による。

 異世界の知識も少しではあるが流れて蓄積されるため言葉程度は理解できる。」


「この魔力が一部で乱れている。

 異常がある地域は遠いので良くわからないが、今まで決まった流れで流れていた場所が不規則な動きを見せている。

 魔力の揺らぎは世界の揺らぎ。

 何かが変わり始めている。」


「何がおきているんですか?」


「それもわからぬ。

 ただ、この魔力の乱れが原因だと思われるが、我に卵が授かった」


「卵?子供ができたということでしょうか?」


「そういうことになるだろう。

 ただ、古龍の卵というものは、普通の生物に子ができることと少々意味が異なる。

 本来古龍はそう増えたりしない。

 そもそも寿命も長く、強靭な身体であるため、めったに死ぬこともなく、生殖行為をすることで増えるわけでもないのでな。

 その数はほとんど古より変化がない。

 しかし例外がある。

 なんらかの理由でどこかの古龍が滅びようとしている、または狂いだしたとき、自然の魔力バランスを保つために新たな卵がどこかの古龍に宿るのだ。

 古龍が死んだり、狂った場合、その土地も変異するからな、正常な世界に戻そうとする動きが生じる。」


「つまり、魔力の乱れがあり、自分に卵が授かった。

 これはどこかで古龍と世界に異変がおきている。

 ってことです?」


「そうだ、このため我はこの卵を産み孵化させる必要がある。

 しかし、古龍の卵はやはり通常の孵化と異なる。

 産み場所はオリアスと異世界の間、狭間の世界。

 卵はその狭間の世界で、異世界と卵を固定する目標物の影響を受けながら成長し、やがて孵化する。

 この卵の目標物として、お前に卵を託したい。」


「え、俺が卵を育てるってことですか?」


「育てるといっても、特に何もする必要はない。

 卵はオリアスと地球の狭間に属する故、通常のものでは存在も認識できない。

 また、卵は勝手に目標物についていくので、特に何かをしなくても良い。」


「なんで俺なんでしょうか?

 それと卵に生気を吸われたり…なにかこう不都合なことってないんでしょうか?」


「まず、卵を産む目標物になるための条件としてはオリアスと重なる世界である必要がある。

 オリアスと重なる世界は地球の他にも精神界がある。

 が、その目標物はオリアス、異世界ともに同時存在するものにする必要がある。

 そして、お前自身は気づいていないかもしれないが、お前という存在は地球・オリアス双方に存在している」


「おれがこの異世界…オリアスに存在している?」


 俺は自分の体を繁々と見つめるが、特に何もわからない。


「そう、肉体があるわけではなく、精神体のみ、どちらの世界にも同時存在しておるのだ。

 それが故に今までオリアスを見ることができたし、卵が宿った現在、我もお前に話しかけることができた。」


「まったく感覚ありませんが…」


「これがお前を選んだ理由だ。

 そしてもう一つの質問は卵がつくことで、不利益なことがないか?ということだな?

 卵がつくことで生気が吸われるということはない。

 むしろ逆に卵が周囲の魔力を集めるため、この魔力に影響されることはある。

 どんな影響があるかは個体差があるためなんとも言えないが、卵と卵憑きは互いに影響を与えながら成長するため、自身が強く望んでいる変化が起こることが多いようだ。

 我の知っている例だと、精神界の精霊についた卵憑きの場合、希薄であった意思が、しっかりした意思となり、オリアスでも存在して自由意思をもった。などであろうか。」


 意思なきものが意思をもったということか…すごいんだろうけど実感がわかない。


 まぁとにかく卵がついたとしても命の危険はないし、むしろ恩恵を受けられるような状況か。


「わかりました。

 俺も今まで異世界…オリアスが見えて、積極的に関わりたいと思ったことは何度もあった。

 だけど、話もできず、何もできないとあきらめてきたけど、こんなチャンスがあるなら俺で良ければよろしくお願いします。」


「引き受けてくれるか!ありがたい。」


「もし俺が引き受けなかったらどうしたんですか?」


「その時は、他の者をもう少し探しただろう。

 意思なき精霊であれば頼まずとも預けられるが、卵はその卵憑きと世界の影響を強く受けるため、意思なきものから生まれたものは意思の希薄な古龍となる。

 成長する過程で意思をもつが、その間何百年の間、卵憑きの影響を受けた本能に従うこととなり、オリアスに住む世界に悪影響を与えかねないからな。

 意思あるものに無理に付けて、世界を否定する古龍が生まれても…な」


「では早速、卵を産むぞ。

 オリアスに存在するお前の精神を我と同調させるため、我の身体の一部に触れるようにしてみよ」


 いわれるがまま、レイロードに触れようとするが、手に触る感触はない。

 代わりに暖かい空気に触れているような感じがした。


「よしそのまま暫しまて」


 しばらくすると、レイロードの身体が輝き始めた。

 と、いうより自分も光っている?

 そして周囲から光が川のように流れるのが見え始め、それがレイロードを通過し俺の胸元あたりで光が渦を巻き始めた。

 光がより一層強くなり見ていられない光度に達し、光が爆ぜた。

 まさに目がくらんだ状態となったが、時間の経過と共に目が開けられるようになると、そこには灰色に淡く光る卵が浮いていた。


「良しいいぞ。」


 レイロードより終了したことが伝えられる。


 こうして俺は古龍の卵を持つ者…「卵憑き」となった。

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