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§1 輝きし者 -2-

 その夜、天空城の王宮では赤子の為の宴が催されていた。

 天空人にとって……否――。この世界の生ける者たちにとって、今日新たな命を受けた赤子は何よりも大切な存在であると言えた。それこそ、この地上の命運がかかっている…というほどに――…。

 「イシュラ様。お喜びなされませ。予言は成就されましょうぞ――」

 先見のおばばは、そう言って嬉しそうに皺に埋もれた目元を和らげた。

 「成就されねば困る」

 黄金の杯を傾けながら、イシュラはそう言って笑う。

 「取りあえず、あの子の教育係を決めねばなるまいな」

 言葉に頷き、老婆は広間に集まっている天空人たちを見回した。

 白き衣に身を包む、黄金の天使人……。

 「さよう――…ただ心優しき者というだけではいけませぬ。時に厳しく間違いを正し、誰よりも深い知恵を持ち、正しきものの為には何をも切り捨てられるだけの人物……」

 あちこちで微笑みながら会談している者たちの中で、一際目立つ美貌があった。

 サラリとした黄金の長い髪――。優しい眼差しと、笑みを浮かべる朱色の唇。

 だが、その美貌の中にしっかりと通った一筋の光を見つけ、おばばは満足げに頷いた。

 「エンリキ殿ではいかがてしょうか? あのお方ならば、まず己の役目を間違えますまい。赤子を甘やかすではなく、きっちりと導いてくれるのではないかと……」

 「ふむ。エンリキか……。よかろう――」

 イシュラは片手を上げて彼の天空人を呼んだ。

 「お呼びでしょうか?」

 玉座の下に跪き、エンリキは天空の女王へ頭を垂れる。

 「エンリキ・タルトニア――。我が天空において、白銀の高位を持つ者よ。お前に予言の赤子を預けたい――」

 イシュラの横に置かれたベットの中で、赤子はあどけない顔でぐっすりと眠っていた。

 「この子はやがて世界のために旅立たねばならぬ。この天空城において、知恵と力を蓄えどのような苦難の旅にも負けぬよう育てねばならぬだ――」

 エンリキはほんの僅か、戸惑ったように視線を揺らした。

 「私に、予言の子を育てろ――と?」

 「そうだ――。お前の持つ知識を全て授け、神より使われし光の使者として育てあげよ」

 女王の言葉に、エンリキは恭しく頭を垂れる。

 「私の持ちうる知識を全てこの子に授けましょう。足りぬ知識は、それを誰よりも知る者を探し出し覚えさせます――」

 望むとおりの言葉を受け、イシュラ美しい唇に笑みを浮かべた。

 「頼んだぞ」

 「御意――…」

 眠っていた赤子を抱き上げ、イシュラは加護の呪文を唱える。


  『青き天空の源より生まれ出し 新たなる生命よ――

   汝に天空の加護を与えん――

   答えよ―― 汝が名を――!

   応えよ―― 汝が神の元に――!』


 イシュラの腕から赤子が浮かび上がり、その胸元に金色の輝きが生まれた。

 光はやがて球体へと変わり、イシュラの手元へとやってくる。

 七色に輝く球体は、やがて強い黄金色の光を発して消えた。

 ふわふわと浮かんでいた赤子が、ゆっくりとエンリキの腕の中へと落ちてゆく。

 「ほう――。その子はどうやらお前が養い親だと判っておるようじゃな。さて。その子の名だが……。魂に刻まれし名は“輝きし者【ヒューガ・イシュマ】”――。なんともめでたい名ではないか……」

 ころころと鈴のような声音で女王は笑い、エンリキは赤子の名を心の中で噛みしめた。



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