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§0 始まり -3-

 「この世は炎獄と化そうぞ――!!」

 恐ろしい絶叫と共に復活したヘルザーは、魔物を次々とこの世へと召喚する。その数は数十万、数百万とも言われ計り知る術もなく、目にした人々は一瞬してその恐怖に戦いたのだった。

 魔物の大群を引き連れたヘルザーは、南の海から北上し三日月大陸を襲った。

 港はことごとく破壊され、いくつもの村や町が炎に飲み込まれていった。南の海に面していた国は半日にして魔物達に飲み込まれ、一日せずに三つの国が消えた。

 森は焼かれ動物たちは逃げ惑い、人々は三日月大陸の中央に座する天空城へと救いを求める。

 「イシュラ! 出てこいイシュラ――ッッ!!!!」

 醜悪な顔に牙を生やした魔物の背に立ち、ヘルザーは目の前に立ちはだかる天空の城へと向けてそう叫んだ。

 『私に何用ぞ、ヘルザー――』

 黄金の声音と共に空が揺らぎ、イシュラの幻影が藍色に染まった夜空に浮かぶ。

 「イシュラ……ッ! 600年前の屈辱、忘れはせんぞ!!」

 黒いローブを被ったヘルザーの瞳だけが、爛々と深紅に輝いていた。

 その輝きは、既に人の持ち得るものではない。

 「この私を石の中に600年も閉じ込めおってッ。二度と復活せんとでも思っていたか!!」

 語気を荒げるヘルザーの言葉に、イシュラは嘲笑を浮かべた。

 『命根性の汚い奴ゆえ、いずれは復活すると思っておったわ』

 高々と笑う声に、ギリリッとヘルザーは奥歯を鳴らす。

 「己ぇぇぇぇ――――ッッッ!!!!」

 怒りの声は雷となり、天空城を襲った。

 空から舞い落ちた雷は、天空城の上空で見えぬ壁に弾かれて消える。

 「イシュラよ――! 己が持つ五つの封印石、すべて渡して貰うぞ!!」

 『馬鹿な事を――。貴様ごときが、天空を総べるこの私に敵うとでも思うてか……?』

 執拗にイシュラはヘルザーを挑発していた。

 彼は長い爪を持つ手を空へと向かって振り上げる。

 「600年間、私がただ石の中で眠っていたと思うなよ!!!!」

 『ならばやってみるがいい――』

 言うなり、イシュラは呪文に入った。ヘルザーも同様に呪文を唱え始める。



  『天の名はイヴン――

   地の名はノーム――

   水の名はウンディーヌ――

   火の名はサラマンダー――

       我 ここに願う!

       古えの契約に基づき

       四大精霊よ 我に力を与えよ――!!』



  【闇の塔はいまここに建たん……

   地の雷鳴 天の雷――

   我は契約を執行する!!】



 次の瞬間、世界は乳白色に包まれた。

 「グワウァァァァァァ――ッッッ!!!!!」

 ヘルザーの絶叫が辺り一面に響き渡り、そして……。

 「イシュラ様――ッッ!!」

 イシュラの額に飾られていたサークレットが粉々に砕け散った。

 砕けた石の欠片は美しい金色の瞳に突き刺さり、血の涙を流させる。

 ほんの僅か、足下をふらつかせた女王は、すぐさま先見のばばを呼んだ。

 「おばば! 五つの封印石をここに持て!!」

 言われるまま老婆五つの石を女王の御前へと捧げる。

 「イシュラ様、お手当を――っ!」

 「要らぬ!」

 駆けつける侍女を五月蠅そうに手で払い、女王は捧げられた石を天に掲げた。

 “火の赤”

 “水の青”

 “大地の緑”

 “空の銀”

 “太陽の金”

 かつて巨大な大陸を封印した五つの石は、今もまだ美しい輝きを放っている。

 イシュラは急くようにして呪文を唱えた。

 「我らが命、五つの力よ――! やがて集いしその時まで、己が地で深き眠りにつくがよい――ッ!」

 女王の願いに応えるように、五つの石は彼女の白い手から浮かび上がり、一瞬にして空の彼方へと消えていった。

 「イシュラ様……」

 「我が両眼の代わりに、あやつわいま一度石に封印したが…そう永くは持つまい。およそ百年が限度……。

 おばば。そなたの先見が先か、あやつの復活するのが先か。一つの賭となりそうじゃな。

 ――あやつ、以前よりも魔力が強くなっていた……」

 イシュラの手当をしながら、老婆は嗄れた声で答える。

 「あやつめは闇の力を使います――。闇の力が強くなればなるほど、奴の力も強くなる……。なるべく早く倒さねば……」

 「百年先が…楽しみじゃ――……」

 そして月日は流れる――。

 地上に残った魔物たちと人々は戦いながら……。

 しかし、妖精の済む森は次第に消え去り、人々の町もまた同様にして消え去ってゆくのだった。



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