聖戦
むかーし書いたのが出てきたので投稿してみる
「イヤだ」
ここはとある村、白衣を着た老人と、5・6歳に見える子供がにらみ合っている。
「ちょっとチカっとするだけだから、怖くないから、ね?」
「イ~ヤ~だ~」
老人の注射器を持つ手をにらみつけながら慎重に間合いを取る子供。
周囲の、注射をされて泣いていた子も、注射が怖くて泣いていた子も、いつしか泣き止みこの二人を見つめている。
大人の暴力に子供はただ耐えるだけなのか、それとも……。
戦いが、始まろうとしていた。
「ふっ!」
鋭く息を吐き、先に動いたのは老人こと村のお医者さん、皆に先生と呼ばれ親しまれている。
一気に間合いをつめ、腕をめがけて連続で繰り出された注射器の一撃一撃はことごとくかわされ、子供は後ろに大きく跳び退る。
てっきり後を追うのかと思ったのだが、先生はその場で立ち止まり注射器を……投げつけた!!
コレには子供も驚いたようで身をひねってかわしたところ、わずかにバランスを崩してしまう。
それを見逃す先生ではない、懐から予備の注射器を引き抜き(医者の鏡だねっ☆)再び子供に襲いかかる。
子供は…よけない、よけられない!
『ああ、やはり注射から逃れるすべはないのか』
事の成り行きを見ていた子達の表情が暗い影におおわれようとした、そのとき!
パアン!!
鋭く響いた破裂音、見ると先生の持っていた注射器が粉々になっている。
何が起こったのか判らずにあ然とする先生と周りの子達。
反撃にうってでようとする子供、だが
「ヒロ!!」
突然大きな声が割り響き、呼ばれたヒロがすくみ上がる。
声の主である長身の男はヒロに近づき、言った。
「手を広げなさい」
今度は静かな声だった。
観念したのか、だらりと下げた右手を言われたとおりに広げると、いつの間に拾っていたのやら小石が2・3個落ち、地面に転がった。
なるほど、先の注射器はこの石をあてて割ったのか。うなづく周囲。
「おにいちゃーん」
男の横にいた3歳くらいの女の子がヒロに駆け寄った。
「ユウ!」
今までとは打って変わった、こぼれるような笑顔をまき散らして妹を抱きとめる兄。
「えらい?ユウね、注射泣かなかったよ。お兄ちゃんはもう終わった?」
「え、あ、いや」
少し焦って目をそらすが、妹はそんなことには気付かない。
「そっか、まだなのか。でもお兄ちゃんは強いから注射怖くないんだよね、いいなぁ」
「う……」
「ほら、お兄ちゃんは今から注射だから邪魔しちゃだめだよ」
そう言って男はユウをうながしたのだが、はなれ際にヒロの耳元で一言。
「ユウが見てるぞ」
「うぅ……」
かくして、今年の血液検査も無事終わり、村には新しい決まりごとが出来たのであった。
曰く、ヒロを診療所に連れて行くときは、妹のユウを忘れるな。
お目汚し失礼しました~