現れた女の子は
(…夢か。なんだかものすごいリアルな夢だな。)
と、今の状況を自己完結させる。
非現実的なことは一切信じないからだ。
といっても、今までに例がないことに限るが。
「ねぇ、君。」
君、と呼びかけられ、この部屋には「君」というような存在は俺しかいないわけだが。
俺はその存在を無視すると決めている。
「ねぇってば。呼んでるのになんで無視するかな。…!もしかしてまだ実体ないのかな、私!うわ~失敗だ~~…。」
どうしよう~と困ったような声を漏らしている。
「五月蝿い。」
つい俺は反応してしまった。
「え!?私のこと視えてる!?ねぇ!!視えてる!?」
といってそいつはベッドから降りるような仕草をするのが視界の一部から見えたので、
俺は夢だしという軽い気持ちで振り返る。
目線の先には見た目中学生くらいで白いワンピースを着た女の子がいる。
(俺って進路そっち系?俺乙。)
第一の感想。
「五月蝿い。視えてるし、聞こえてるよ。何?なにか叶えてくれるの?」
「よかったー!区長にぶっ殺されるところだったよ~!なんで無視したの?ねぇ。」
ずいと俺との距離を縮めてさっきの俺の行動について問われる。
「無視してんのはそっちだ。物理法則とか法とか。なにもないところにいきなり人は現れないし、誰の許可を得てここにいる。…まあ俺の夢だからありえないことも起きるんだろうな。だから俺の趣味もこっち系というのもありえない。」
自分に言い聞かせるように反論してみたが、彼女は眉間にしわを寄せて、は?と言いたげな表情をした。…いや、言った。
「は?夢?だから無視したの?」
「応。」
「私の心配返せーー!」
うがーと俺に襲いかかろうとしてきたが、ベッドに戻りボスンと腰かけた。
そして一抹のことを話し出した。
「まぁいいわ、転移は成功だし。君は状況を把握できてないみたいだし。説明から入りましょ。まず、メールは見たわね?」
「メール?」
「人生にどうたらこうたらってやつ!」
「ああ、あの出会い系の。見たけど…それがなに?」
「…出会い系?なにそれ。頭大丈夫系?」
「……で、そのメールがなんなの。」
「…あ!出会い系!聞いたことあるわ、区長から!出会い系はリア充で爆発するのよね!」
「そうそ…ちげーよ!」
思わずつっこんでしまった。
いや、突っ込むところはいっぱいある。こいつの存在とか。
「もうなんなの…夢なら早く覚めて…」
おれは顔にてを当てて願った。切実な願いだった。
が彼女はあははと嘲笑うかのような笑い声を出した。
「君バカね!これは現実よ!REALよ!いい?私は君に派遣された天使なの。君は選んだのよ、先のメールでね。いいえを押したでしょう?」
「え…?げ、現実?いや…え?こんな展開信じれるか…!それにボタンだって間違えて押しただけだ!」
俺は信じたくなかった。こんな非現実的な展開。
望んでもない。
「『間違えて』がまかり通るなら、私はここにいないわ。観念して今ある状況を受け入れなさい。(笑)」
テンパっている俺を見て楽しんでいるようだ。セリフの中でさえ笑いを隠しきれていない。
なんかムカついた。
「…わかったよ。OK。いままでのことは理解するように努力する。」
「そうよ努力なさい。ようやく話が進むわ。」
「で?天使なんだろ?何か願いでもかなえてくれたりするのか?」
「私は叶えないわ。君が叶えるの。私の願いをね。」
「なんて横暴!」
いきなり現れて、俺のことをあざけ笑って、願いを叶えろなんて。
どこの世界にそんな天使がいるんだよ。悪魔だろ。
もうこいつには素で接することに決めた俺だった。
「天使なんて見せかけだよな…。翅っぽいのつけてるけど。」
「そうよ。これは伊達翅。区長に『とりあえずこれつけてればおK』って言われて。役にたったけどね。前の人間なんていきなり襲ってきたからぶん殴ったら動かなくなって大変だったわ。」
「え?」
身体が一瞬硬直する。
「死んではいなかったけどね。でもそのあとは一生病院生活だったらしいわ。私は謹慎処分受けてたからそのあとのことは区長から聞いたの。君も気をつけなさい?(笑)」
「…なんて物騒な…。」
(もし、機嫌を悪くさせたら殺されるかもしれないのか…。)
「大丈夫、冗談よ。今回失敗したらわたし、消えるもの。だから…。」
その一言で空気が一気に重くなった。
彼女もさっきまでの威勢のいい雰囲気ではない。
どうやら本当のことのようだ。
「…だが俺には関係ない。俺にだってやりたいことがある。お前の願いを叶えている暇はない。それに、いきなり現れといて願いを叶えろなんて。他あたってくれ。」
「だから…!こっちも選べないのよ…。君のメールアドレスが検索でひっかかったんだから…。」
「メールアドレス?いったいどんな検索してるんだよ。俺は一回もアドレス変えてないからかかるワードはないと思うが。」
「知らないわよ。アドレスの『unhappy』を基準に区長が探すんだもの。」
「unhappy?」
もちろん、俺のアドレスにはそんなワードはない。あるわけがない。初期のままなのだから。
徐に床に落ちているスマホを手に取り、プロフィール画面を開く。
「あった。ほらみろ。どこにそんな単語があるんだ。」
画面にはアルファベットと数字が混ざったアドレスが表示されている。
「…あるじゃない、『unhappy』。」
俺は画面を見直す。
アドレスを書き出してみる。
「uen0hga7pjp5y@azweb.ne.jp.」
「…いや…まさか…。」
「そのまさか、よ。区長の考えは誰にもわからないわ。」
一字飛ばしで見事俺のアドレスから『unhappy』が出てきた。
(いままで気付かなかった…。)
「わかった?君が選ばれたわけ。削除しようと思えばできたはずなのに君はしなかったもんね。」
「削除?このメールがきたらスマホが壊れて電源落とすことさえできなかったんだけど。」
「!それ本当!?それが本当だったら…!」
彼女は痛いほどの視線を俺に向けてきた。
さっきまでの重い感じは吹き飛び、目をキラキラさせている。
「宇宙ひも理論からすると、君は私のパートナーだわ!決まりね!」
「は?宇宙…なんだって?」
「宇宙ひも理論を知らないなんて…ぐぐれかす!」
「たまにネット用語出るよな…」
「区長に教わったの。使うとこ違った?」
「いや、合ってるけど…」
「ならいいじゃない。それよりそれ貸して!」
と言って俺のスマホを奪い取った。
彼女は使い慣れた手つきでタタタタンと指を動かしている。
「君、名前は?書き方も。」
「名無しのごんべえ」
「半殺しにするわよ。」
「月見里深夜。つきみさとって漢字に美しい夜。」
「おっけー!女の子っぽい名前なのね。」
「五月蝿い。」
名前はコンプレックスだ。言い返そうと思ったが、
彼女は画面をタップして作業を続けているのでやめた。
「でーきた!これからよろしく!美夜クン。ちなみに私はユーリ。」
「ちょい待て!俺は手伝わないぞ!勝手に…」
「大丈夫!君…美夜クンは私のパートナーになるべき存在なのよ。そのうちわかるわ。」
「そのうちっていつだよ。それに何をすればいいんだ。わからないことだらけだ。」
「そうね、美夜は何がしたい?」
といってスマホを軽くいじって、この中から選んで、と俺に見せてきた。
画面を見て俺は絶句した。
画面にはこう書かれていた。
『RPG』
『モンスター』
『恋愛』
『戦国』
『ホラー』
『スポ根』
『魔法』
『育成』
『テトリス』
etc...
(何このゲーム内容…)
「おどろいた?そこに書かれているのは…。」
そのとき、一階から母親の声が聞こえてきた。
「美夜ー?今晩のおかず何がいいー?」
「なんでも…!」
いいかけているときにユーリが割って入ってきた。
「お母様にあいさつせねば!!」
ぴゅーんと部屋から出ていった。
(ちょ!あいさつって!)
嫌な予感がした。
後を追って部屋を出るがすでにユーリの姿がなかった。
俺は心配になり、親のいる一階に向かった。