きっかけ
(2)ジムといってもボクシング
振り返るとマスターだったのだ。
マスターは「ここでも話もなんだからとりあえず茶でも飲みなよ。」
缶のお茶を出され飲む植木。
と突然後ろから「ウリャーッエイッ」とリング場でミットでキックを練習している男。
ビビる植木。「ボク、カエリマス」かた言の植木。
「まあまあ、そう言わずに見ていきなよ。」
「はぁ・・・・・・」
「俺ーこいつが終わったら次俺の番でスパーリングをやるんだよ。」
「へぇ。」
「まあ見てみな。」
そしてマスターがリングにあがる時がきた。マスターがいつもお店で見せるマスターの顔ではなくリング場に立つ一人の男としての顔になった。
3分2本勝負。「ピッピッピッ」とタイマーが動く。相手は体重80kgあるのであろうかがっちりした男を相手に「シュッシュッ」「バンッバンッ」顔に付けている防護に向けて拳が炸裂。
見ていた植木「あの年でここまでやれるのかよ。」
「斉藤さんってすごいよな。」隣で見ている上半身裸の選手?なのだろうか一言ぼやいた。
「えっ」
「あの人もう50(歳)過ぎているのにあそこまでやっているんだぜ。」
「50(歳)過ぎているんですか!?」
「もうあの人にかなう人はこのジムにはいないよ。もったいないよ。引退しちゃってさ。」
「話ではそういえば聞いたことがありますね。」
このマスターこと斉藤は、現役時代日本ボクシングのフライ級チャンピョンで10度の防衛に成功している。
世界大会にも出ることになったようだがどういうわけか出る直前で引退をしている。
「ピッピッピッ」タイマーがなる。
2本勝負が終わった。「ふぅ。強いね君ね。」ぼそっというように相手に栄誉をたたえた。
「斉藤さん、もう勘弁してくださいよ。」なげく対戦相手。
「いやぁ君がフックかけたとき思わず熱が入ってしまったよ。」
「次からもっとお手わらかにお願いします。」周りではその場にいた全員の笑いが響いた。
「どうだい見ていた感想は?」斉藤から聞かれた植木。
「んっすごいの一言です。」ぼそっと話した植木。
「そうか。」さわやかに返事をする斉藤。
「あっもうこんな時間だ。」気がつけばもう7時を回っていた。
「どうした?」聞く斉藤。
「ぼくそろそろ帰らないと。」
「そうかんんじゃぁまたな。俺もそろそろ店を開けなくちゃならない時間だしな。」
「ではまた。」
「ういー。おつかれー!」
斉藤に続いてジムにいた全員で植木に向かい「お疲れ様でした!!」
「おっおっお先に失礼します。」ちょっと困ったそぶりを見せた植木だった。
-あれから1週間-
あの店にはあの日から行っていない植木。
久々に寄って行こうとドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」いつものマスターがいた。
「こないだはどうもです。」
「おうっお疲れ!あれからどうしたい?」
「いやぁ。どうも僕には合わないような気がして。」
「そんなことねぇだろ。なんでも自分で区切りを付けて決め付けるんじゃねえよ。」
「そうですかね。」
大声で怒鳴るマスター斉藤。少々酒が入っていたのだろうか?「その自信のないのが気にくわねぇんだよ!なんでいつもそうウジウジしているんだよ!?」周りのお客さんが一斉にマスターに振り向く。
「あんたっ静かにしな。」マスターの奥さんが注意をする。
「はい。」シュンとするマスター斉藤。「失礼しました。」周りに促すマスター。
「まあそう決め付けるな・・・」「はい。でも・・・」
「でもじゃない。とりあえずやってみることが全てがはじまる。最初はやっぱり合わないかもとか体力が続かないかもしれないがやってみる価値はあると思うけど。」
ふと疑問に思って聞いた植木。「どうして斉藤さんはボクシングを続けているんですか?」
「俺か。俺はただ今は健康維持でやっているだけだけど。」
「なるほど。」今なって思うとなにかあの時に感じていた植木。
「考えさせてください。」酒を飲んで支払って店を出る植木。
「ありがとうございました。まあよく考えな!」
「はい。」
この時少しだけやってみようかなと思った植木だった。