9 灯火1
4 灯火
どのくらいが経っただろう。
少年は砂の上で膝を抱えたまま待っていた。あたりは、何も変わることなく暗闇に包まれている。
闇の中でひたすらに待ち続けるその時間は、ほんのわずかしか経ってないような気もするし、とてつもなく長い時間が過ぎたような気もする。
少年はぶるっと軽く身体をふるわせた。
潮風に吹かれ、身体はだいぶ冷えてきていた。抱え込んでいる膝だけが温かかった。
少年の視線は、変わらず闇に包まれた海に向けられている。
辺りは闇に包まれたまま。
明かりは、まだ、灯っていない。
「……なんで、灯んないんだよぉ……」
少年は膝を抱えたまま呟いた。その声は力なく震えている。
お伽噺だ。
わかっている。それでも、そんなものにすがってでも、見つけだしたかった。
親友を探しに行く灯火が、欲しかった。
闇夜の海を真っ直ぐに見つめる。
わかっている。灯火など灯らない。
巽は死んだ。戻ってなどこない。
それでも、信じたかったのだ、と少年は祈るように思った。
お伽噺にでも、望みをかけたかったのだ。
灯火を灯し、巽を探しに行きたかった。
あの日の約束を、はたしたかった。
見つめている先が、はたして海なのか、空なのか、それすらもわからない。星の明かりだけが、海と空を分けていた。
どのくらい時間が経とうとも、どれほど巽を想おうとも、この暗闇に明かりなど、灯るはずもなかった。
そんなことは、わかっていたことだった。
遠く闇の向こうを少年は見据えた。
真っ黒な海、真っ黒な空。
「……たつみぃ……」
暗闇に向けて、もう一度親友の名を呼ぶ。
あかりは、灯らない。