表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

-02-




 翌日、ラティアは昨日の夜と同じように窓から外を眺めていた。黒い海から届いていた激しい波音はすっかりなりを潜め、穏やかなものだった。

 心地好い風が髪を揺らす。

 ラティアは別に海が好きなわけではない。

 特にすることもないし、街に出る気もなかったから、こうして景色を眺めているのだが、思っていたより気持ちが安らいだ。


「何も考えずに過ごすのも いいものだな…」


 そう呟いた時、部屋の扉が叩かれた。

 開けるとノアの姿があった。その表情はずいぶん曇っている。


「どうした?」


 ノアは階段の下を気にしながら口を開いた。


「…アストおじさんの様子がおかしいんだ…」


「アストの?」


「うん…なんだか元気もないし、辛そうなんだ…。聞いても何でもないって言うけど…」


 話をしていて悲しくなったのか、ノアは瞳を潤ませる。


「あんなおじさん、初めて見た…」


「……」


「ねぇ、ラティア…僕どうしたらいい?」


 泣きそうな顔で見上げてくるノアに、ラティアは微笑んだ。

 そして、そんな自分に少し驚く。出会って間もない相手に、意識せずに笑みが浮かぶなんて。


「お前は何もしなくていいよ」


「…本当…?」


「本当だ。これでもアストとの付き合いは長いんでな…あいつのことはよく知っている。私に任せろ」


 自分を見つめる緑の瞳を、逸らさずに見つめ返す。

 やがてノアは、小さく頷いた。


「ラティアは、アストおじさんと一緒に住んでたの?」


「あぁ、昔な」


 ラティアの答えに、ノアは満足そうに笑った。


「じゃあやっぱり、おじさんが言ってた『大切な奴』ってラティアのことなんだね!」


「大、切…?」


「うん! おじさんはね、ラティアの為にここに引っ越したんだよ!」


 ノアの言う意味が解らなくて、ラティアは説明を求めた。


「あのね、前の家は僕のせいで空いてる部屋が無くなっちゃったんだ。だから空いた部屋を作る為にここに引っ越して…おじさんは、この部屋をいつも綺麗にしてた」


 きっと、ラティアが帰ってくるのを待ってたんだよ──ノアは嬉しそうに そう言ったが、ラティアは信じられなかった。

 いつ戻るとも分からない──もしかしたら二度と戻らないかもしれない自分という他人を待っていてくれたなんて、考えたこともなかったからだ。


 『あの時』から、自分は一人だと思っていたのに。


「ラティア? どうしたの?」


 黙ってしまったラティアに問いかけると、ラティアは 何でもないよ、と微笑んだ。

 それがとても綺麗で、ノアは一瞬見とれる。


「…ノア、頼みがあるんだが聞いてくれるか?」


「え? あ、うん、何?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ