表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀眼の女神 -The goddness of Silver eyes-  作者: 江口 凜
chapter3.見つめる者
12/16

-04-

 

 

 

「あれがお前の言っていた女か?」


 森を見下ろすことのできる高台に立つ四つの人影。その内の一人がそう問いかけると、問われた男はあぁ、と頷いた。

 問うた男は次の言葉を待ったがそれきり何も返ってこない。見ると相手は森を見つめるばかりで、こちらを向くことすらしていなかった。

 男はため息をつく。そんな二人を見て、もう一人の男──三人の中で一番若く、少年っぽさが残っている──は笑った。


「しゃーないって、ザイフィール。俺達に見せる為にわざわざ(あやかし)まで用意するくらいだぜ? あの女しか見えてねーよ」


 茶化すように言う男を見て、ザイフィールと呼ばれた男は再びため息をついた。


「…まぁいい。で、お前はどう思う? ヴァイス」


 少年っぽさが残る男の名はヴァイスというようだ。ザイフィールに問われて、面倒臭そうに森へと目を向けた。


「そうだなー…本気は出してないみたいだし、よく分かんねーけど…いいんじゃない? 認めても」


「相変わらず適当だな」


「そういうザイフィールはどうなんだよ」


「…様子見、といったところか…。あの程度の力を見ただけでは判断できんし、判断すべきでもない」


 その落ち着いた雰囲気によく似合う低めの声で答えるザイフィールに、ヴァイスは肩を竦めた。


「真面目だよなーザイフィールは」


「ふん。適当よりマシだ」


 仲がいいのか悪いのか、二人は何度か言い合う。と、思い出したように後ろを顧みた。

 そこには無言で佇む女が一人。

 オレンジがかった金色の髪を持つ女は、森を見つめる男の背中を何か言いたげな眼差しで睨んでいた。

 だが、そこにあるのは怒りだけではないようだ。もちろん感情の大半は怒りに埋め尽くされているのだろうが、別の感情──悔しさや悲しさのようなものも入り混じっているように見える。


「…気に入らないようだな」


 言われて女は、ザイフィールを睨みつけた。その瞳は先程までとは違い、怒りだけに満ちている。


「当たり前でしょ!!」


「怒鳴るな。気づかれる」


「うるさいわね! 少し騒いだぐらいで気づくもんですか!!」


「フレイア」


「だいたいあんな女…」


 遮ろうとしたザイフィールを無視して女──フレイアが尚もまくし立てようとした時、今まで森を見つめるばかりだった男が口を開いた。


「気づくさ」


 三人の視線が男の背に集まる。


「あいつなら気づく。気配に敏感だからな…昔から」


 楽しげに。

 嬉しげに。

 そしてどこか自慢げに。

 男の声は弾んでいる。

 それを聞いたフレイアはギリッと唇を噛んだ。整った顔が酷く歪む。

 その顔を隠すように、フレイアは姿を消した。


「…まったく…女というのは面倒な生き物だな」


 ザイフィールは僅かに侮蔑のこもった声でそう言うと、ヴァイスを呼んだ。


「行くぞ」


「はいよー」


 一連の出来事に余程興味が無かったのだろう。ヴァイスは返事をしながら大きく伸びをし、欠伸までした。


「なぁ」


 そしてそのままの姿勢で、未だに森を見ている男に声をかけた。


「いい加減にしないと本当に気づかれるぜ?」


「…心配する必要はないさ」


「どうしてだ? あの女は気配に敏感なんだろ?」


 ざわり、と風が吹き抜け、男の白い髪が乱れる。


「もう──気づいてる」

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ