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亡霊の隊列 改訂版  作者: 霧狼


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― 焼灼される記憶 ―

第一章 第二話

― 焼灼される記憶 ―


「くそっ……! 全機、盾になれ(ファランクス)ッ!!」

 

 絶叫に呼応し、10機のPTがLCリード・コンダクターを目掛けて殺到した。それは訓練された機械の動きを超え、さながら主人を守る猟犬の群れのようだった。

 10機の機体がLCを円心とした陣形に滑り込み、重厚な肩装甲を互いのフレームに噛み合わせる。


 「ガギィィィィィィィンッ!」

 

 金属同士がぶつかり合う凄まじい衝撃音がコックピットに響く。機体は隣り合う個体の腕を、脚を、胴体を強引に連結させ、多層構造の「鋼鉄の繭」を編み上げていく。

 装甲板が重なり、隙間という隙間が10機分の質量で埋め尽くされたその瞬間、LCの視界は外部モニターの投影を失い、完全な闇へと閉ざされた。


 直後、世界が真っ白な閃光に塗り潰される。

外壁となったPTたちが爆撃の奔流に晒され、悲鳴のような金属の軋みを上げる。

 だが、幾重にも重なった「盾」の奥深くで、主人公の意識だけは加速する重力に抗うように、深く、静かな「かつての安らぎ」の中へと沈み込んでいった。

 そこには、硝煙の匂いも、金属の軋みもなかった。



記憶:不慣れな体温


 白一色の清潔な病室。開け放たれた窓から、戦火の届かない遠い草原の風が吹き込み、薄汚れた自分を嘲笑うようにカーテンを揺らしている。


 「あ、無茶しましたね」


 呆れたような、けれど鈴の鳴るような穏やかな声。

 

 振り返ると、看護師の制服を着た彼女が立っていた。軍で受ける命令のような硬さも、敵が放つ殺気もない。その「無防備な響き」に、彼はどう反応すべきか分からず、ただ喉の奥を強張らせた。

 

 戦場でボロ雑巾のように砕かれた左肩。


 それを処置する彼女の指先は、まるでもろい宝物を扱うように丁寧だった。

 これまで彼が他人の手から受け取ってきたものは、自分を壊そうとする衝撃か、あるいは道具として扱う冷淡な感触だけだった。

 だから、そのあまりに柔らかな接触は、痛みよりも鋭く彼を動揺させた。


 「ねえ、あなたのその手」


 包帯を巻く手を止め、彼女が不意に顔を上げる。


 「戦うためじゃなくて、いつか誰かのために花を摘んだり、温かく包み込んだりするために使ってほしいな」


 彼女の指先が、火薬と硝煙で汚れた彼の手の甲にそっと重なる。

 

 彼は反射的に手を引こうとした。他人から「何かを望まれる」ことには慣れていたが、自分の「幸せ」を願われることなど、一度もなかったからだ。


 だが、彼女が触れる場所から、じわりと「人間としての熱」が伝わってくる。


 その熱は、彼がこれまで信じてきた戦場の論理を静かに、しかし確実に溶かしていった。

 あの瞬間、彼にとっての世界は、もはや国家でも軍でもなく、目の前の彼女が灯した小さな体温そのものだったのだ。


 その彼女を蝕んだのは、敵の弾丸ではなく、音もなく細胞を壊していく病魔だった。


 「死」を届けることに特化した軍の最新技術は、救いたい唯一の命を「生かす」ためには、何の役にも立たなかった。



地獄の底にて


 「……警告。装甲限界、全機能を停止します」


 無機質な電子音が、温かなカーテンの記憶を無慈悲に切り裂いた。

 目を開けると、そこは鉄と炭の匂いしかしない地獄の底だった。


 LCを庇った10機のPTは、あるものは手足を失い、あるものは装甲が焼けただれ、折り重なったまま物言わぬ鉄の墓標と化している。

 煤けたコックピットの中で、主人公は血の混じった喘ぎを漏らした。

 

 幻影。そうだ、あれはもうどこにもない光景だ。

 忘れるために、彼は自らをこの「亡霊の隊列」へと繋いだはずだった。


 ――だが、なぜだろう。肺に流れ込む熱を帯びた空気の中に、あの病室と同じ「死」の予感が混じっている。


 歪んだハッチを力任せに抉じ開け、よろめきながら外へ這い出した。

爆撃によって全てが焼き払われ、音を失った灰色の世界。


 そのクレーターの中に、それは横たわっていた。

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